2018年1月8日月曜日

今後大きく変わる、IFRSの損益計算書

こんにちは。イージフの野口です。2018年になりました。IASBから公表される公開草案などの文書よりも早く、毎月のIASB会議からIFRSの将来を知り、IFRSの勘所を理解しよう、というのが当ブログの試みです。今年もよろしくお願いします。

最近のIASB会議では基本財務諸表の審議が注目されています。今回の改訂では特に「純損益及びその他の包括利益計算書」、損益計算書(P/L)に関する検討が優先して進められています。

議論のもとを辿ると「IFRSB/S重視」というIFRSの大きな特色であった考え方が「B/Sだけでなく、P/Lも大事」という考え方に大きく変わっていったという時代の流れがあります。現行のIFRSが規定している財務諸表の表示は「B/S重視」の考え方に基づいている部分があり、現在の利害関係者の要求に応えられていないと考えられています。

改訂の範囲は限定されていますが、そもそもの考え方が合っていないので、今回の改訂は思いの外大きな変更になるのではないかという印象があります。

たとえば、昨年最後の201712月までの議論の状況をみると、以下の形で改訂案がまとまる可能性が高くなってきました(これらの事項はまだ議論が必要と考えられており、会議で決定したわけではありませんのでご注意ください)。
  1. 投資カテゴリーを新設し、収益費用項目を投資と財務のカテゴリーに分ける
  2. 新しい段階損益としてEBITを表示する
  3. その他の包括利益という名称を廃止する

 IFRSP/Lは要約され過ぎてかえって情報がわからなくなっている、という批判に応え、より情報を充実させようというのが今回の改訂の方針です。損益項目をより細分化したうえでカテゴリー別に区分表示し、さらにそれらの区分のどこかの段階で新しい利益を表示する、という検討が進められています。

現在のところ、営業、投資、財務のカテゴリーに区分し、投資、財務カテゴリーを除いた税引き前利益(EBIT)を新しい段階利益として表示する案が中心に議論されています。

ちなみに、この利益は営業活動から生じる利益として捉えられることもできるので、「営業利益」という名称にしてはどうか、という提案が会議で取り上げられましたが、「営業利益」という名称は使用すべきではないという意見が多数を占め、否決されています。日本基準では「営業利益」は昔から使われる用語ですが、IASBでは「営業利益」という言葉は定義できない曖昧な言葉として避けられています。

また、今回の改訂では、「その他の包括利益」という言葉もなくなることになりそうです。現在その他の包括利益は2つの区分を設けていますが、それらの区分の名称を「純損益の外で報告される再測定」、「将来の純損益に含められる収益および費用」として、それぞれ独立して表示されることを提案する予定です。

この区分自体は現行基準でも存在するもので些細な変更に思えるかもしれませんが、この名称変更の背景には、これらの項目が包括利益の一部であるということよりも、将来純損益として認識されるか否かという純損益との関係性が重要であるという立場があります。今まで、その他の包括利益の意義や活用方法について問われてきましたが、その回答として、その他包括利益の位置付けを明らかにしたと考えられます。


これらの議論は、まだ対案を検討する余地を残しつつ議論が進められています。具体的な個別の論点では意見が大きく割れる場面もあり、今後の審議に注目していきたいところです。2018年前半にディスカッション・ペーパーか公開草案を公表する予定です。これまで味気なく思えたP/Lもだいぶ様変わりすることになるのではないかと思います。


イージフ 野口

2017年12月4日月曜日

IFRS3号「企業結合」事業の定義の改訂、米国基準と相違

こんにちは。イージフの野口です。IFRS3号「企業結合」について、事業の定義に関する改訂作業が大詰めとなっています。この改訂についてはFASBが先行し、すでに米国基準では最終化されています。そこで当初、IASBでは、米国基準の改訂に合わせるというのが基本方針としていました。

しかし、その後の審議ではFASBと異なる決定がなされ、米国基準との差異が生じています。このような違いは、それぞれの基準の利害関係者が異なる要求をしているのであるから、異なる要求に対して異なる対応になるのは当然、と会議では考えられているようにみえましたが、もちろん利害関係者から「IFRSと米国基準の差は小さい方が望ましい」という要求もあります。そこでIASBでは、これまでの決定により生じた主な差異について検討を行いました。
会議で取り上げられた主な差異は以下になります。



・選別テストを強制せず、企業の任意とする
・選別テストに使用する総資産に現金及び現金同等物を含める
・アウトプットの定義内容
・事業の定義とアウトプットの定義の関係
・取得したプロセスが実質的かを判断
・のれんの存在の推定
・石油、ガス事業の設例

結論を先に言うと、主な差異として取り上げられた項目のうち、定義の内容や規定の記述の仕方については、実質的には同じ内容を規定しているものと考えられるか、結果に大きな差異が生じないと判断されています。

 選別テストを任意とする相違点も維持


もっとも懸念されていた差異は、選別テストに関する差異でした。取引を事業の取得か資産の取得か判断する選別テストに関する差異について、IASBでは選別テストの実施は企業の任意としていますが、米国基準の改訂では強制となっています。米国基準との重要な差異となる可能性があると指摘されていました。

しかし、IASBではこの懸念は当たらないという見解が支持され、この決定は維持されることになりました。

選別テストの実施は、資産の取得と識別された取引のみが追加的な評価を省略が認められるだけであって、それ以外の取引は、選別テストを行わなかった取引も同様に、事業の取得であるか評価することが求められます。選別テストを強制にするか任意とするかによって結果に大きな差異は生じないというのがIASBの考えです。

その他、選別テストに関しては、手続きで使用する総資産の範囲がFASBの決定と異なっていました。米国基準では総資産に現金及び現金同等物を含まないことを明記していますが、IASBではこれまでこの点について検討がなされていませんでした。最終的な審議で、この規定に関しては米国基準に合わせることとなりました。したがって、IFRSにおいても選別テストで考慮する総資産には現金及び現金同等物を含まないことになります。

新しい事業の定義は2020年より適用開始


事業の定義に関する審議はほぼ完了し、最終基準書の公表は2018年前半とし、202011日以後開始する事業年度の期首以降が取得日となる取引に適用される予定です。また早期適用も認められることとなっています。

このプロジェクトの開始当初は、FASBIASBでは同じような問題意識を共有していると考えられていましたが、プロジェクトが進むにつれて、想定よりも米国基準との同等性が保つことができなかった印象があります。しかし、実務上問題となる重要な差異は発生していないとIASB会議で確認されているように、実務上、両者の差異による混乱は少ないのではないかと思います。


イージフ 野口



2017年11月6日月曜日

IFRS、EBITをP/L表示に、営業利益は不採用

こんにちは。イージフの野口です。これからのIASBの活動は、コミュニケーションの改善(Better Communication)が重要な取り組みとして位置付けられています。 取り組みの内容は広範なものであり、今までの開示実務を大きく変えるような提案も多く含まれています。しかし、急にIFRSの開示規定が変わってしまうわけではなく、現在は基本財務諸表の表示という比較的論点がまとまっている問題から審議されています。

基本財務諸表の中でも、特にP/Lに関連した問題は重要視されています。近年のIFRSは、かつてよりも純損益を重視する立場で作られていますが、それより前は、純損益は究極的には不要で包括利益こそ企業の業績を表す、という今とは違う立場を取っていました。そのような変遷があるにも関わらず、基本財務諸表の表示についてはIFRSが掲げている理想と、投資家などの利害関係者からの要求(投資家などからはやはり純損益を支持する声が大きかった)という現実の中間点を取るような形になっており、現在もそれを維持する意味はなくなったと思われます。

投資家に有用な情報となる利益情報をもっと多く開示すべきではないか、というのが現在のIASBの問題意識です。そもそも企業へ決算説明会などでは、営業利益といった純損益以外の利益指標を用いて説明しているケースが多いのではないでしょうか。

純損益や包括利益以外の利益で、有用な情報となり得るものとして、IASB会議で候補に挙がっているのは、

・企業独自の業績指標
・EBIT

の2つです。企業が独自に設定した業績指標は、企業の事業の内容や環境に応じて何を指標に含めるか設定するので、業績を理解するには適していると考えられますが、企業間の比較が難しくなります。EBITは、財務収益、費用および税金費用控除前利益であり、企業間の比較には適しています。IASBでは両方を検討する予定ですが、EBITの導入の方が投資家からの要求が強いため、優先して取り上げられることになっています。

日本からは営業利益の導入を求める声が強かったと思います。確かに、営業利益も候補に挙げられていたのですが、IASBにて却下されています。営業利益の定義づけが非常に困難であることが理由となっています。

しかし、企業独自の業績指標についてはIFRSにガイドラインが記述され、企業が独自に設定することが想定されますので、企業独自の業績指標として日本基準による営業利益を採用することができるのかもしれません(まだ審議されていませんので、可能性のほどは全くわかりませんが)。そういった部分まで考えを広げてみると、現在のIFRSの新しい考え方のもとでは、「日本基準的な考え方」は意外と親和性があるのではないかという印象があります。


イージフ 野口


2017年10月9日月曜日

IASBの今後の動向まとめ(2018年までの注目トピックとは)

こんにちは、野口です。最近IASB会議を見ていて、強く感じることは、IASBは徐々に活動内容に変化が見えてきた、ということです。

アジェンダ・コンサルテーションでは、2017年から2021年までのIASBの活動方針が決定されていますが、その内容からは収益認識、金融商品、リースといった長期プロジェクトの完了に伴い、IASBの活動が新しい段階へ移行することが明示されたように思います。今後は、新しい基準書の開発、よりも、これまで公表されてきた基準書のさらなる質の向上とともに、コミュニケーションの改善という大きなテーマに取り組むことが決定しています。

コミュニケーションの改善(Better Communication)とは、一口で言うと、まずは過剰な情報を減らす、機械的、定型的な情報開示を改善する、というのが大きな方向性となりそうです。IFRSは開示する情報量が多いという印象を持っている方は多いと思いますが、IASBはそのこと自体決していいことだとは考えていません。基準書に規定されているからということで、何でも開示することで重要でない情報の中に重要な情報が埋もれてしまい、必要な情報を知ることが難しいというのが投資家からの意見であり、一方、企業からは開示すべき重要な情報の取捨選択を判断する指針に乏しいことが指摘されています。長期的な視点ではIFRSによる情報開示も大きく変わっていくことになりそうです。

一方で、短期的に、当面の動向に目を向けていくと、IFRSがどうなっていくのか、見えてくる流れは少し違ったものに感じられるかもしれません。ここで、2018年までのIASBの活動予定のうち、今後注目すべき重要なプロジェクトを抜粋してまとめました。作業計画は2017年9月現在IASBが公表している計画に基づいています。





これらのプロジェクトの現状を簡単に確認しておくと、今後のフォローが楽だと思います。

IFRS適用後の改善は基準書開発のサイクルとして、開発された基準書は基本的に一定期間後に見直しが行われ、改訂の要否が検討されることになっています。現在はIFRS3号「企業結合」が適用後レビューの結果を受けて、改訂作業が続いています。


のれんと減損に関しては、のれんの減損処理に対する批判が多いことから、償却処理の復活も含めて抜本的な改訂を検討することとなり、非常に注目されていますが、のれんの定期償却を採用するのではなく、減損手続きを簡素化する方向で議論が進められています。

事業の定義については、最終基準書の公表が来年予定されており、基本的には米国基準の改定内容と合わせるものとなっています。一部、IFRS独自の規定が採用されることになっていますが、実務上、両基準の差異として大きな問題にならないとIASBでは考えられています。

すでに完了した長期プロジェクトのうち、金融商品に関しては、一部未了となっており、現在も別プロジェクトとして進行しています。

資本と負債の分類を再定義する、資本の特徴を有する金融商品は、ずっと難航しているプロジェクトです。現在は資本の範囲を狭く定義するアプローチが支持されていますが、他のアプローチも併記する形でのディスカッション・ペーパーが公表される予定です。

動的リスク管理は、マクロヘッジの会計処理を扱うプロジェクトです。マクロヘッジに関しては、現行基準では適切な会計処理が定められていない状態です。すでにディスカッション・ペーパーが公表され、新しいアプローチが提案されていましたが、反対が多かったため、この提案は一旦取り下げられています。これまでの議論が振り出しに戻ったかのようです。IASBの作業計画では2018年中にディスカッション・ペーパーを再公表する予定となっているのですが、その予定で審議が進むかよくわからない、というのが個人的な印象です。

より良いコミュニケーションでは、複数のプロジェクトが着手さえれる予定ですが、現在、開示の原則と基本財務諸表が先行して取り組まれています。開示の原則では、ムダな情報開示を減らすための判断の指針ができることが期待されています。基本財務諸表に関する議論では、財務諸表の表示をより細分化することや、業種別の財務諸表のテンプレートを作成することなどが検討される予定です。個別の基準書単位ではなく、大枠から情報開示の在り方が整理されることになると思います。

IFRSの考え方も時とともに変化してきていますが、今は安定した時期にあるのではないかと思います。

しかし、情報の発信の仕方、受け取り方は大きく様変わりしていることに対して、IFRSは十分対応してはいません。今後IFRSによる開示の「見た目」は大きく変化するのではないかと思います。


イージフ 野口
 

2017年9月4日月曜日

IFRS9号、適用時期直前になぜ改訂か(負の補償を伴う期限前償還要素)

こんにちは。イージフの野口です。最近のIASBでは基準書の大きな改訂は予定されておらず、これまで完了した長期プロジェクトの成果である新基準の適用時期が迫ってきています。 

主な長期プロジェクトによる新基準適用時期は以下のようになっています。

2018年 IFRS9号「金融商品」、IFRS15号「顧客との契約から生じる収益」
2019年 IFRS16号「リース」
2021年 IFRS17号「保険契約」

IASBでは一度最終的な公表を行った基準書を早い段階で改訂することはできるだけ避け、安定的な運用を目指していますが、今年になって、異例の対応でIFRS9号の改訂作業が進められています。

負の補償を伴う期限前償還要素というプロジェクトです。これは、企業向けローンや個人向け不動産担保ローン等で広く採用されている契約条項で、借手が、未払いの元本及び利息の金額を上回る、もしくは、下回る可能性がある変動額で期限前償還される契約条件のことです。

契約を終了させる選択をした企業が相手から補償を受け取る可能性がある場合、現在の完成版IFRS9号「金融商品」では、損益を通じて公正価値で測定される金融商品に分類されることになりますが、実態を考慮すると、公正価値で測定するよりも、償却原価により測定し、正味金利マージンといった業績指標に含めることが有用な情報提供になるのではないか、という問題が指摘されていました。

これは、IFRS9号の不備であり、IFRS9号が強制適用となる前に修正すべきということになり、急ピッチで作業が進められていました。

しかし、公開草案の内容については、肝心の適用要件について意見が分かれてしまっていました。結局、意見の分かれる論点がある部分を削除した形で、公開草案を修正し、最終基準とすることになっています。したがって、適用要件は、


  • 期限前償還額がキャッシュ・フロー要件に整合しない事由が、契約を終了することを選択した企業が合理的な追加の補償を受け取る可能性があることのみであること
という1要件のみで償却原価による測定が可能になります。

最終基準書は2017年10月公表の予定、適用時期は2019年1月1日以後に開始する事業年度からと決定されました。当初、IASBでは、すでに公表されている完成版IFRS9号の発効に合わせ、2018年からとすることが望ましいとしていました。しかし、主に規制当局が国内での承認手続きが間に合わなくなる可能性があるため、適用時期を延期することが求められ、発効時期を遅らせ、早期適用を認める形になりました。

今回の改訂では、移行に関する開示も規定されていますが、これらの規定はすでに完成版IFRS9号の適用済みの企業を前提としています。完成版IFRS9号の適用と同時に移行する企業はIFRS7号が規定する情報開示を行うことが必要となります。完成版IFRS9号と今回の修正IFRS9号の適用時期によって、留意すべき移行時の開示規定がそれぞれ異なるので注意が必要です。これらの関係を図表にしてみました。ポイントは、2018年に完成版IFRS9号と今回の修正を適用することが一番開示内容が軽減されることです。




IFRS9号も適用時期が近づき、対応が大詰めとなっています。適用時期前の改訂は避けると言われていますが、やはり不備があるとできるだけ対応しようとこのような改訂が入ってくることがあります。基準書の適用については直前時期も注意が必要だと思います。


イージフ 野口