2009年10月26日月曜日

国際会計基準の日本版改訂:持ち合い株式で利益を出せるか

2009年10月に開催されたIASBの理事会では

現在ピッチで進められているIAS第39号「金融商品:認識及び測定」の改訂について議論が行なわれました。




その議題のひとつに

「日本版改訂」と呼ばれる改訂案がありました。




いわゆる持ち合い株式をどのように扱うかという議論で、

持ち合い株式というもの自体がほとんどない国々では

あまり問題にならないのですが、

日本には今も持ち合い株式を多く保有している企業は多く、

その取扱いが変わってしまうと

企業業績に大きなインパクトを与えることになります。




日本だけが非常に気にしている問題なので

「日本版改訂」と呼ばれているようです。




日本の会計基準でも現在の国際会計基準でも

株式などはその保有目的により分類されて

それぞれについて取扱いが違います。




現在の日本の会計基準では持ち合い株式は

「その他有価証券」という分類にして、

毎期末時価で評価し、評価差額は損益とせずに、

純資産の部に計上します。

持ち合い株式というのは時価変動のリスクにさらされているので、

その変動を表示することが必要ですが、

売買することを目的に持っているわけではないので

変動額を企業の業績として損益に計上するべきではないと

考えられているからです。




そして売却したときに取得価額と売却価格の差額を損益として

計上することになります。

投資により株式保有してきた採算を確定させるためです。




現状の国際会計基準でも同じような取扱いが定められています。




ところが、現在の国際会計基準の改訂案では

株式などの取扱いは簡素化され、

原則としては時価評価することに一本化されます。

そして、時価評価の差額は損益として計上します。




持ち合い株式も時価評価し、毎期損益が計上されることとなるので、持ち合い株式の変動が大きいと業績に

大きな影響を与えることになります。




そのことを懸念して、日本版改訂では

企業が選択すれば、評価差額を損益ではなく

「その他の包括利益」に計上することができるというオプションを

設けることが提案されました。

これで今までと同じように評価損益が業績にインパクトを

与えることは回避されます。




その代わりにこの提案には厳しい部分もあり、

配当や売却損益も「その他の包括利益」に計上しなければならない、

ということが提案されていました。




持ち合い株式として評価損益を毎期計上することをしないのであれば、

配当を受けた時や売却時も損益を計上しないということです。

当期の業績の中に長期にわたる投資についての損益を

含めることはおかしい、という考えで、

また売却時点を選べるので利益操作にもつながるということが

懸念されているからです。




売却時には損益を計上したい、またはすべきだ、というのが

日本の意見としてあったと思いますが、

IASBの審議で出た結論は

配当は損益に計上するが、売却損益の計上は認めないというものでした。




ここには日本の利益に対する考え方と

国際会計基準の純利益、その他の包括利益、包括利益という概念に

大きな隔たりがあるように思います。




利益とは何か、

根本的な問題を改めて考え直さなくてはならないところに

きているのだと思います。



2009年10月23日金曜日

(株)イージフ主催IFRSセミナーのお知らせ

今回はセミナーのお知らせです。



11月20日(金)に株式会社イージフ主催で
「IFRS適用への準備事項」の無料セミナーを開催します。



このセミナーでは
武田公認会計士事務所 所長、

株式会社スリー・シー・コンサルティング コンサルティング事業部 部長の
武田雄治さんが講演してくださいます。
IFRS適用の影響について、システムなどを含めて
幅広くお話ししていただける予定です。



イージフからは私が
IFRS適用の準備にあたり、最初に着手すべき会計処理の調査や計画の立案について
講演させていただきます。



実践的な内容になると思いますので、IFRSの実務上の問題について
ご興味のある方は是非ご参加ください。



申し込みはこちらのイージフのHPよりお願いいたします。

http://aegif.jp/event/seminar091120.html



2009年10月19日月曜日

国際会計基準審議会(IASB)議長から日本へのメッセージ

2009年10月14日、「IFRSで日本の企業経営は大きく変わる」というテーマで

国際会計基準(IFRS)シンポジウムが経団連会館で開催されました。




このシンポジウムにはデイビッド・トゥイーディーIASB議長が講演を行いました。

IASB議長というのは非常に多忙で

��この日も午前と午後に日本で講演をした後に、

ロンドンにとんぼ返りで日本時間で午前3時からのIASB会議に出席するという

スケジュールだったそうです)

日本で講演を聴けるというのはそうあることではありません。




今回の講演で議長は

「IFRS:単一のグローバル会計基準を目指して」というテーマで

IASBが何を目指し、現在どのような状況にあるのか、

そして、IFRS適用の方向性を決定した日本に対するメッセージを述べていました。




その中で興味深かったのは、

日本のIFRS適用にあたってIASBは全面的にサポートをする、

ということを強調していた点です。




IFRSを適用するには解釈を巡って混乱が生じたり、今までの考え方と異なるため戸惑うことがたくさん出てきます。

IASBとしては日本の適用準備に対応する専任のメンバーを用意し、

適用にあたっての様々な問題を解消できるようにサポートするということでした。

また、日本で問題になったことを解決するために

IFRS自体を改訂、新基準書を作成する可能性もあるということを

示唆しました。




議長がわざわざ日本に来て全面的なサポートをするということを

表明したことにどのような意味があったのでしょうか。




IASBとしてはやはりIFRSがグローバルな基準として機能していくには

アメリカと日本の適用が必須なのです。

現状ではどうしてもEUの影響力が大きいということがあります。

IASBとしては他の大国が参加することで、

バランスを取りたいということがあるようです。




また、単一の会計基準として機能するには、

各国で細則を設けたり、一部の基準書を適用しなかったり、という

勝手をやってほしくないということがあります。

日本では細則主義の日本基準に慣れてきているせいもあって、

どうしてもIFRSの実務指針みたいなものが欲しくなってしまいます。

そのような動きはIASBとしては阻止したいのです。

日本版IFRSや、ヨーロッパ版IFRSが次々とできてしまったら

国際会計基準を適用する意味がなくなってしまいます。




日本では実際の適用の準備にあたって、

会計士協会や経団連などが連携し日本固有の問題について議論を行ない、

IASB専任メンバーに相談し、

必要に応じてIASB側に解釈指針等の作成を要求するということを

行なっていくようです。

本来は日本独自に適用指針を用意した方が楽なのでしょうが、

正攻法の手段をとるしかなさそうです。




そして、もう一点、議長は興味深いことを指摘していました。

今までIFRSを導入した国ではどこでも

当初想定しなかったような問題に直面するということです。

予想もしなかったような問題は必ず起きると断言していました。

やはり早い段階からの準備が一番重要なのだそうです。




これは各企業だけの問題ではありません。

IFRSは日本全体が積極的に取り組まなければならない課題なのです。



2009年10月7日水曜日

旬刊経理情報(中央経済社)記事掲載のお知らせ

旬刊経理情報という雑誌に記事を書かせていただきました。



10月10日号の
「IFRS適用前に準備するポイントはここだ!関連会社の内部統制はこうする」という
ポイント解説の記事です。



IFRSの適用にあたっては関連会社の取扱いも変わっていきます。
現状ですと、関連会社についてはあまり親会社で把握していない場合もあると思います。
そこで今から行なうべき対応について、内部統制の観点も絡めて説明しています。



内部統制2年目以降の検討や、関連会社への対応にあたって
参考にしていただければ幸いです。



2009年10月5日月曜日

国際会計基準の紆余曲折:金融商品の評価が変わる

国際会計基準の基準書はたくさんありますが、その中で複雑で難解過ぎると悪評高いのがIAS39号「金融商品:認識及び測定」です。






IAS39号は1998年に公表されましたが、

前身となるIAS25号ができてから12年の歳月をかけて作られています。

この間にいろいろな例外処理や選択肢が作られ裁量の余地を残したり、

一方でそれらの規定が利益操作に利用されないよう要件を決め禁止事項を定めて厳格な処理を求めたり、と

項目がどんどん増えて今の複雑な基準書ができたわけです。




それに比べると今回の全面改訂はかなり急ピッチで進められています。

改訂の論点は現在以下の3つにしぼられています。




��1)金融商品の分類と測定

��2)金融商品の減損

��3)ヘッジ会計




今回は金融商品の分類と測定について、

最近の審議状況を見てみたいと思います。




現在の金融商品会計では金融商品を保有目的等から分類を行ない、

それによって評価方法が異なります。




売買して売却益を得るために持っている有価証券等の金融資産は、売買目的保有資産に分類します。



企業は値上がり益を獲得することが目的なので



時価の変動が企業の業績に反映されるべきと考えられます。

したがって、毎期金融資産を時価評価して評価損益を計上します。




一方、企業が保有する有価証券等の中には必ずしも売買することを目的に持っているとは言えないものもあります。





日本企業が多数保有している持ち合い株式等はこれに該当すると考えられます。

このような金融資産は売却可能保有資産に分類します。

これらの金融資産は時価の変動によるリスクにさらされているので、時価で評価します。





しかし、そもそも売ることを目的にしていないので、時価評価による評価損益を計上しません。






その他に、債券等は満期まで持って利息を受け取ろうという意図で保有することもあります。

これは満期保有投資に分類します。

満期まで持っているので時価の変動は関係ありません。

償却原価といって利息を除いた部分を金融資産として計上し、利息を利益として計上していきます。




このように、企業の意図によって会計処理が変わってしまいます。

企業が自ら保有目的を変えたと言って、



都合良く会計処理を変えてしまうことを認めるわけにはいきません。

そこで国際会計基準では分類に要件をつけて



安易に分類を変更することを禁止しています。




ところが、IASBは2008年10月に突如、



金融資産の再分類を認める改訂を出しています。




売買目的保有金融資産を他の分類に変更することが認められたのです。

世界的な金融危機の影響を受けて金融資産の多額の評価損が



企業業績を圧迫しかねないため、これを回避しようとする意図です。

この改訂は国際会計基準を設定する正規の手続を踏んでいません。

国際会計基準が公平で妥当な基準であるべきですが、



このような改訂はその根幹にかかわるような危険なやり方だったと思います。




この時の反省も踏まえ、

現在のIASBの審議ではこの金融商品の分類を簡素化することを検討しています。

現在の案では2分類になり、公正価値で評価するものと償却原価で評価するものに分けます。




端的に言うと貸付という金融取引の性格がなければ、公正価値で評価されることになるようです。




内容はかなり簡素化されることになりそうですが、今までよりも公正価値で評価する金融商品が増えることになると思います。

実務では、時価が簡単に分かるようなものなら問題ないのですが、



分からないものについては対応が難しい場合がありそうです。