2010年12月20日月曜日

IFRSヘッジ会計はどう変わったか ①

2010年12月、IASB(国際会計基準審議会)はヘッジ会計についての公開草案を公表しました。

今回はこの公開草案の中でも特に注目すべき点について説明していきたいと思います。

ヘッジ会計はリスクマネジメント活動に即したモデルに集約


今回の公開草案は、金融商品についての基準書であるIAS39号の置き換えのプロジェクトの一環として行なわれています。このプロジェクトの主な目的は、金融商品会計の簡素化であり、今回のヘッジ会計についても、詳細で複雑だった規定を廃止し、より原則主義の基準書に相応しい内容に簡素化が図られています。従来のIFRSで定められていたヘッジ会計は複雑な規定が多いことから、実際の企業のリスクマネジメント活動に即した処理ができないと言われていました。公開草案ではより、実際の企業活動を財務諸表に反映させられることが目的とされています。

公正価値ヘッジはキャッシュ・フロー・ヘッジに近い会計手法に変更


従来のIFRSではヘッジ会計を公正価値ヘッジとキャッシュ・フロー・ヘッジに分類して処理を分けていました。これは日本企業にはない考え方です。

公正価値ヘッジというのは、公正価値の変動リスクを回避するためのヘッジで、基本的に時価ヘッジ処理(ヘッジ対象とヘッジ手段を時価評価し、損益をP/L上に計上する)を行ないます。これに対して、キャッシュ・フロー・ヘッジはキャッシュ・フローの変動リスクを回避するためのヘッジで、繰延ヘッジ処理(ヘッジ手段の時価変動をその他包括利益とし、資本の部に計上する)を行ないます。ちなみに日本基準ではこの繰延ヘッジ処理がヘッジの原則的な処理とされています。

今回の公開草案では、この公正価値ヘッジの処理がなくなり、キャッシュ・フロー・ヘッジに近い処理を行なうことになりました。つまり、ヘッジ対象とヘッジ手段の時価評価による変動はその他包括利益として繰り延べることになります。日本基準の手法に近くなったということになります。

従来のIFRSのヘッジ会計は、企業がヘッジを実際にやっていたとしても適用が難しい場合があり、適用のハードルは高かったと思います。今回の改訂により、ヘッジ会計はより適用しやすくなるのではないでしょうか。次回は実務上の手続に影響を与える改訂内容をご紹介したいと思います。



2010年12月16日木曜日

「現場で使えるIFRS導入の実務」書籍プレゼントのお知らせ

今回は書籍プレゼント企画のご紹介です。


私と弊社IT担当の石井が共著で刊行いたしました「現場で使えるIFRS導入の実務」(日本実業出版社)が、ITmediaエンタープライズ書評に取り上げられ、抽選でプレゼントされます。


本書は、IFRS導入を経理部門だけでなく、社内の他部門の役割、システム対応、監査法人やコンサルティング会社との連携など、さまざまなプレーヤーの観点で、


いつ、何をすべきか、


という具体的な手順に焦点をあてて解説しています。


経理部門の方が参考にご覧いただくことが多いのですが、監査法人の方がクライアントに薦めてくださっていたり、システムやコンサルティング会社の方からも好評いただいたり、反響いただいております。


 


今回の書評では、岩谷誠治さんの「この1冊ですべてわかる 会計の基本」も紹介されています。会計の入門書はたくさんありますが、この本の特徴的なところは、仕訳や簿記を使わずに会計の基本を解説しているというところです。簿記をよく知らない方や経理経験のない方にもおすすめの入門書です。


 


是非、多くの方に手に取っていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。



2010年12月13日月曜日

IFRSヘッジ会計の公開草案

2010年12月、IASB(国際会計基準審議会)はヘッジ会計についての公開草案を公表しました。

ヘッジ会計についての改訂はIAS39号を置き換える金融商品のプロジェクトの一環として進められてきました。金融商品に関しては、金融資産の分類と測定、減損、そしてヘッジ会計が改訂の対象となっていましたが、特にこのヘッジ会計については改訂作業が大幅に遅れ、審議が難航していたものと考えられます。

ヘッジ会計とはそもそも何でしょうか。企業は直面するリスクを回避するためにさまざまな行動を行ないます。例えば、外貨建ての売掛金や買掛金等の債券や債務について、為替リスクの変動を回避するために、為替予約取引を行なうということは頻繁に行なわれています。また、変動金利の借入金について金利変動のリスクを回避するために、変動金利から固定金利に変換する金利スワップ取引を行なうこともあります。このような取引を行なったときに、原則的な会計処理をそのまま適用してしまうと、せっかくリスクを回避した効果が会計処理にはんえいできないことがあります。ヘッジ会計というのはこのようなリスク回避の行動を会計処理にも反映させていくために設けられた特別な会計処理です。

今回の改訂の目的はヘッジ会計の簡素化です。従来のIAS39号に規定されていたヘッジ会計は非常に適用が難しく複雑なものでした。

例えば、ヘッジ会計を適用するには、特別な処理を適用することになるために非常に厳しい要件をクリアしなければなりません。実際に企業が行なうリスクマネジメントの妨げとなっていたという批判がありました。その他にもヘッジ会計を適用する取引にはリスクを回避する関係性が認められなければなりませんが、適用時から継続してその関係性が認められなければなりません。そのテストも厳しい要件が定められており、ヘッジ会計が必要以上に制限されているという批判もあります。

ヘッジ会計の複雑性については、キャッシュ・フロー・ヘッジと公正価値ヘッジという2つの分類が問題にされていました。これは日本の会計基準にはない考え方です。IFRSでは何のリスクをヘッジするかという観点で、ヘッジ会計の処理を別々に定めています。キャッシュ・フローの変動リスクをヘッジする場合は、キャッシュ・フロー・ヘッジとされ、時価の変動リスクをヘッジする場合は、公正価値ヘッジと分類されます。それぞれ処理の方法が異なり、このような分類を設けることは非常にヘッジ会計を複雑にしていました。

このような批判を受け、IASBでは、新しいヘッジ会計を提案しました。この公開草案では、リスクマネジメントのための企業行動の目的に注目して、原則主義のアプローチを規定しようとしています。また、企業のリスクマネジメント活動が個々の資産や負債に与える影響が、財政状態や包括利益に適切に反映されることを目的としています。

この新しいヘッジ会計のモデルでは、企業のリスクヘッジを行なう目的に注目したアプローチとなっていて、個別の要件等は簡素化が図られています。さらに詳しい内容については、次回にご紹介する予定です。



2010年12月6日月曜日

FRS財団の「減価償却とIFRS」が日本に言いたいこと

IFRS適用において固定資産は非常に悩みの大きいトピックです。特に固定資産を多く保有する製造業にとっては、会計処理が変わることによる業務負荷も金額的なインパクトもかなり大きくなる場合があります。

そもそもの悩みの発端は、現在の日本基準では法人税法に基づく減価償却方法や耐用年数が認められているため、ほとんどの企業は法人税法による方法を採用していることにあります。日本基準でもIFRSでも経済的実態に即した減価償却が必要なのですが、日本基準にあるような容認規定は、IFRSでは通用しなくなると考えられるため、対応が必要になります。

ただ、経済的実態に即した減価償却といっても、どうやって実態を判断したら良いのか分からない、ということが多いようです。例えば、定額法と定率法を比べてみると、定率法は初期により多くの減価が発生するので、そのような減価が起きている状況というものを把握しなければなりません。実際に監査法人などにおいては定額法より定率法を採用する場合の方が判断の根拠をより多く求める、ということもあるようです。そのようなことから判断が難しいと感じられるせいか、IFRSでは定額法しか認められないのではないか、定率法は採用できないのではないか、という懸念が広くあるようです。

日本での「IFRSでは定率法が認められない」という誤解を解くために、今回IFRS財団から教育文書が公表されました。

しかし、この文書には、特別なことや新しい情報は書いてありません。定額法も定率法もその他の方法も減価償却方法に優劣というものはなく、実態に即していると判断したものを適用すれば良い、ということです。IAS16号をよく見なさい、ということになるでしょうか。

実際最近の日本企業の動向を見ていると、減価償却を定率法から定額法に変更するパターンが増えています。IFRSを念頭において会計方針を変更している企業もあるのではないかと思います。しかし、他の企業が変更したからといって皆同じように定額法を採用しなければならないわけではありません。どうしても他社事例や全体の傾向に集約しようとする流れになりやすいようですが、「実態に即した方法」というものはそういう流れの中にはないように思います。



2010年12月1日水曜日

aegif主催IFRSセミナー追加開催のお知らせ

先日お知らせしました弊社主催のIFRSセミナーは、すぐに満席となってしまいました。


こちらは明後日の開催となります。私のパートでは最新のIFRSの動向等お伝えする予定ですので、ご期待ください。


その他にも、現在の日本基準のもとでいかにIFRS適用を見据えた対応をしていくべきか、会計方針の変更等の実務上のポイント等も交えながらの解説がありますので、実務をご担当される方には非常に興味深い内容をお届けできると思います。


現在、このセミナーは追加開催の参加を受け付けております。


こちらもお席が少なくなってきておりますので、参加を希望される方はお早めにお申し込みください。


申し込みは弊社HPよりお願いいたします。


 


IFRSセミナー「IFRS適用に備え今しかできないこと、これからすべきこと」


日程 2011年1月12日(水)


時間 13:30〜16:00


会場 関東ITソフトウェア健保会館(東京都新宿区百人町2-27-6)


参加費 無料


定員 30名


 



2010年11月22日月曜日

IFRSの有給休暇についての誤解と違和感を解く

IFRSでは、未消化分の有給休暇が企業の負債となるため、費用を追加計上することになる、ということはご存知の方も多いと思います。今まで、日本基準では有給休暇については特に何も手当てされてこなかったことや、日本企業では一般的に、非常に多くの有給休暇が未消化分として残っていると考えられることから、日本の会計基準との違いの中でもクローズアップされることが多いトピックです。

とてもよく知られているトピックでありながら、誤解も多いようです。よくある誤解についていくつか取り上げます。

①有給休暇を現金で精算しない場合は費用の計上はいらない

これは間違いです。翌期に繰り越される有給休暇はすべて対象となります。未消化の有給休暇を現金精算できる規定があってもなくても、どちらの場合であっても、IFRSでは費用計上が必要になります。ちなみに、権利が繰り越されず、失効してしまう分は対象となりません。

②有給休暇を取得してもしなくても企業の人件費負担は変わらないのだから、IFRSの考え方はおかしいのではないか

確かに、有給休暇を取っても取らなくても、給与の額は変わることがありませんので、企業が給与として負担は有給休暇の取得の有無と関係ないと思ってしまいます。しかし、この考え方は、IFRSの考え方と違います。また、違うからといって日本の労働環境とIFRSがそぐわないということにもならないと思います。

IFRSが有給休暇の処理ついて問題にしているのは、企業が従業員から提供を受ける労働とその対価としての人件費の計上が一致することです。適切に人件費の計上を行なうには、給与を支払った時ではなく、労働が提供されたタイミングで費用を計上することが重要です。

例えば、当期に付与した有給休暇を取らないで働いていて、来期に繰り越して消化した場合を考えてみます。有給休暇を取得しなかった当期と取得した翌期で給与は変わりません。しかし、当期は有給休暇を取得しなかったので労働日数が増えている一方で、翌期においては有給休暇を取得したため労働日数が減っています。
当期に未消化の有給休暇を費用計上しないと、当期と翌期で労働の提供量が違うのに、同じ給与額だけが人件費として費用となってしまいます。それでは、労働の提供量とそれに対する費用が一致しません。

このような不一致は、有給休暇の消化が少ない日本ではあまり問題視されてこなかったという背景があると思います(逆に欧米では一般的に有給休暇の取得が進んでいると考えられるので、この不一致の解消は会計上も重要視されてきたのだと思います)。

③日本企業には多くの未消化有給休暇が残っているためIFRSが適用されると負担が非常に重くなる

この指摘は当たっていますが、影響は限定的である面もあります。まず、すべての未消化有給休暇の全部を費用計上するわけではなく、有給休暇の消化率を使用し、実際に翌期に消化されると予想される有給休暇分のみを費用計上の対象とします。したがって、有給休暇がたくさん残っている場合でも翌期に消化される可能性が低く見積もられれば、追加費用の負担額は小さくなります(有給休暇の取得が進んでいる企業はそもそも未消化分が少ないため、影響は少なくなります)。

また、IFRS適用初年度は日本基準から移行するため、この負担額がそのまま費用として企業業績に影響を与えることになりますが、翌年以降は負債として計上された額を洗い替えていくことになりますので、初年度よりも影響は小さくなります。

④給与と有給休暇の追加費用の計上で人件費の二重計上になる

前の項目でも説明しましたように、有給休暇の追加費用分は負債として計上され、翌期に取り崩されることになります。費用として計上されるタイミングだけを調整していることになるので、二重計上という問題は発生しません。

⑤有給休暇引当金という勘定科目で処理することになり、IFRSでは引当金処理を行なう

「有給休暇引当金」という勘定名をご存知の方も多いと思います。これは日本ではよく使われていますが、IFRSでは「引当金」と考えていません。引当金ではなく、経過勘定と考えられていて「未払従業員給与」と整理されています。これは筆者の推測なのですが、日本では、費用を実際の支払いよりも早いタイミングで費用計上することを、「引当て」、という言葉で表現することがあるので、そのような慣習から使われるようになった言葉なのではないかと思います。

IFRSの有給休暇は決して特殊な考え方をしているわけではありません。労働の提供のタイミングで人件費を計上しようというものです。この考え方は退職給付などにも表れていて、従業員に付与するもの(給与、ボーナス、退職金、福利厚生など)は基本的に労働の提供に関わらせて費用処理されることになります。



2010年11月16日火曜日

米国SECがIFRS検討ワークプランの経過を報告

SEC(証券取引委員会)では2010年10月29日にIFRS適用のためのワークプランについての経過報告を公表しました。そもそもこのワークプランというのは2010年2月にSECが発表したもので、アメリカにおけるIFRS適用に向けた作業を具体化するために作成されたもので、現在SECではこのワークプランに基づいてIFRS適用のための検討を進めています。

SECによるワークプランでは、IFRSの基準そのものについて以下の項目が挙げられています。
・アメリカにおける報告基準としてのIFRSの発展状況と適用可能性
・投資家の利益保護のための基準開発機関の独立性

また、アメリカでのIFRS移行については以下の項目が挙げられています。
・IFRSについての投資家の理解と教育
・会計基準の変更によるアメリカでの規制環境への影響
・適用企業(大企業および小規模企業)におけるシステム、契約形態、企業統治や訴訟対応等を含めた影響
・人的資源の整備

このレポートはまだ途中経過を報告しているものであるため、SECからはどのようにIFRSを評価するのか結論は出ていません。しかし、確実にIFRS適用に向けて作業のスピード感が感じられます。

特に、IFRSの基準そのものを評価する中で、FASB(米国財務会計基準審議会)の役割についても検討が行われています。各国のIFRS適用のアプローチについて調査をしています。世界の各国でとられているアプローチは主に2つあります。

1つはコンバージェンスアプローチという方法で、IFRSを直接採用することはせずに、各国の会計基準をIFRSに近づけるというものです。この方法では規制当局は自国の会計基準を保持でき、自国の利益を守ることができます。しかし絶えずIFRSに近づけるよう努力を続ける必要があります。このような方法は中国などで採用されています。

もう1つのアプローチがエンドースメントアプローチです。これはEUなどで採用されていて、IFRSを各国で採用するために承認手続を設定する方法です。EUの場合は、この承認手続の間にIFRS自体が修正されたことがあり、承認手続によってIFRSの設定に影響を与えようとしています。

FASBがどのような役割を担うことになるかはこれからさらに検討が必要とされており、現時点ではまだ分かりません。しかし、FASB委員長はFASBがグローバルな会計基準の発展に重要な役割を担うことになるという声明は出されています。確かに、アメリカ自体は米国の会計基準そのものを取り下げてしまうということはしないでしょうし、FASBの役割を強化することと、IFRSの適用は相反するものではないと考えているのでしょう。

日本については、今のところ、完全なアドプションを予定しており、エンドースメントなどを必要とするEUなどよりも、早いタイミングでIFRSを受け入れて行くことになります。このような各国の戦略の違いにより、今後のIFRSへの影響力にも差がつくと考えられます。



2010年11月10日水曜日

aegif主催IFRSセミナーのお知らせ

セミナーのお知らせです。


弊社主催のIFRSセミナーを開催することになりました。


今回のセミナーは単に2015年に予定されているIFRS適用を目指しているものではなく、日本基準適用の今考えなくてはならないことにも焦点を当てます。


実際のところ、IFRSについては、情報収集を中心に取り組みまだ実際の行動を起こしていない企業もあると思います。確かに、IFRS適用による影響は企業ごとで差があり、影響が比較的少ない企業もあります。


し かし、IFRS適用前に現状の日本基準の中で考えなければならない問題もあるのです。最近、特に多くの企業が検討しているのが、会計方針の変更です。 IFRS適用前にIFRSを見越した方針の変更を行うことによって、財務上有利なインパクトを先取りしたり、IFRSに対する取り組みを前進させたり、さ まざまな効果が得られることになります。


 しかし、現実にそのような変更を行うには、監査人の監査手続や、判断が重要となり、難しいものです。そこでそのような中で、現在の日本基準で会計方針の変更を行なう時のポイントや企業の実例等を交えて解説いたします。


また、そのような対応を進めていく上でも不可欠なのが、やはりIFRSに対する正しい理解です。IFRS自体の改訂が頻繁に行なわれている中、2015年のIFRSがどうなるのか、一番注目されている収益認識を中心に動向を紹介します。


IFRSはまだ先のこと、とお考えの方、将来のIFRSはどうなるのか、と疑問を持っている方などに是非参加していただきたいと思います。今後の対応の参考になるような情報をできるだけたくさんお伝えし、疑問や不安を解消していきます。


 


IFRSセミナー「IFRS適用に備え今しかできないこと、これからすべきこと」


日程 2010年12月2日(木)


時間 13:30〜16:00


会場 関東ITソフトウェア健保会館(東京都新宿区百人町2-27-6)


参加費 無料


定員 30名 


 


ご興味のある方は是非ご参加ください。


申し込みは弊社HPよりお願いいたします。



2010年11月8日月曜日

IFRS、SOXに日本はどう対応していくか

現在、日本の内部統制報告書制度は見直しが進められています。これからIFRSとSOX両方に対応していかなくてはならない日本企業としては内部統制報告書制度の動向も注目していかなくてはなりません。2010年10月に金融庁から内部統制報告書制度の見直し案が提示されました。
今回提案されている内容は以下のとおりになります。



(1)企業の創意工夫を活かした監査人の対応の確保
(2)中堅・中小上場企業向けの簡素な内部統制の取組みの「事例集」の作成
(3)内部統制の柔軟な運用手法を確立するための見直し
(4)「重要な欠陥」の用語の見直し 

提案全体を通して、内部統制制度の運用を簡素化するものとなっています。たとえば、業務プロセスの評価手続をローテーション化できることを明確にしたり、全社的な内部統制の評価方法の簡素化を定めたりなど、柔軟な運用を確立することを目指そうとしています。企業に過度な負担をかけることがないように、という配慮によるものだと思います。内部統制報告書制度に対する日本の対応としては、簡素化が1つの流れになっています。

SOXが簡素化されてきている中で、IFRSは、日本ではコンバージェンス、さらにはアドプションという形で存在感を増してきています。どちらも日本にとって、海外発の制度を導入することになるわけですが、IFRSとSOX2つの制度は全く逆方向と言っていいほど違う指向性があります。

SOXはアメリカでエンロン等の企業不正事件をきっかけに始まったもので、簡単に言ってしまえば、企業内の手続や会計処理に焦点を当てて、会計基準が適切に運用していこうとするものです。

IFRSはエンロン等の事件によりアメリカの会計基準の信頼性が失墜していく中で、急速に広まっていきました。IFRSはSOXとは全く違った方法で、エンロン等の企業不正に対する対処方法を指向しているといえます。つまり、企業の手続などを監視して適正性を担保していくのではなく、公正価値評価という「公正」な評価方法というアプローチを導入しようとしています。

IFRSでは社内の統制や管理についてなんら言及はありませんし、むしろそういう管理には適していない印象を受けます。社内の業績管理とIFRSとの間で整合を取るのが難しく問題なることが実際に起きていますが、そもそもIFRSは社内の管理等には向いていない会計基準であると思います。

このように全く違う方向の制度を両方運用することになる日本では、混乱も起きかねないと思います。懸命な対応としては、当然のことですが、SOXが簡素化される方向にしたがっていくことです。IFRS適用においても実際のSOX対応は、早期に着手することにメリットはあまりなく、直前にやることになるのではないかと思います。

本来の開示制度そのものの制度設計を考えれば、SOX自体をなくしてしまうという選択肢もあります。日本の開示制度はIFRS導入を控えて見直しが必要となっているのです。



2010年11月1日月曜日

金融負債の評価について新しいIFRSが公表される

2010年10月28日に国際会計基準審議会(IASB)が金融商品会計の基準書(IFRS第9号)に新しい規定を追加しました。金融商品に関する規定は金融危機以後、早急に対応すべき課題として急ピッチで改訂が進められてきましたが、改訂作業は難航しています。今回の新しい規定の公表も非常に難しい問題を抱えていたため、ようやく公表に至った、という印象です。

今回公表された新しい規定では、金融負債(営業債務、借入金、デリバティブなど)についての会計処理が扱われています。

これまでのIFRSでは、通常の金融負債は償却原価で評価し、デリバティブといった特殊なものは時価で評価することになっていました。ちなみに日本基準では通常の金融負債は債務額で評価することになっていますので、実効金利による利息計算が不要となっています。

また、IFRSではこの他に選択規定が認められていて、時価で評価を行なうという公正価値オプションを採用することができます。IFRSでは公正価値(端的に言えば時価)による評価を重視しているので、この公正価値オプションには、できるだけ幅広く公正価値評価を適用しようとする考え方が表れています。

しかし、この公正価値オプションを金融負債に適用すると、非常に変な現象が起きてしまいます。金融負債の時価というのは、債務者の信用リスクが反映されることになります。つまり、金融負債を計上している企業自身の信用リスクが高くなるとそれが、負債の時価にその上昇したリスクが織り込まれ、負債の価値が低くなります。負債が減少すると、その差額は利益として処理されます。

実際に、近年の金融危機ではこの公正価値オプションを選択している金融機関が、自己の信用リスクが高くなったことで多額の利益を計上しました。企業自身の業績悪化で倒産リスクが高くなったことで、利益を計上できる、というのはおかしい話です。非常に問題視されました。

そこで、今回の新規定では金融負債の全般的な評価方法については、これまでの方法を踏襲しつつも、問題となった公正価値オプションの場合のみ、信用リスクの変動によるについては損益としてではなく、その他の包括利益として処理することが定められました。この変更により、信用リスクの増大による利益計上という問題を解決しようとしています。

当初、公開草案ではその他の包括利益による処理を2段階で行なう複雑な方法が提案されていました。一度損益としても計上した上で、その他の包括利益にその額を移すというものです。しかし、財務諸表を必要以上に複雑にするということで強い反対を受けたようです。また、損益として計上したものをその他の包括利益に移すという方法も今までにないやり方であり、そもそも、包括利益とは何なのかきちんと議論されていないでこのような処理を導入することを問題視する声もあったようです。

今回公正価値の問題が1つクリアされましたが、まだ解決されていない問題もありますし、新しい問題が提起されることもあると思います。さまざまな問題にいかに取り組んでいくか、これからもIFRSの動向を追いかけて考えていきたいと思います。



2010年10月19日火曜日

IFRSセミナーのお知らせ(10月〜12月開催)

今回はセミナーのお知らせです。10月から12月にかけてセミナーで講演させていただきます。一般に参加募集を行なっているものから順番にご紹介します。


 



  • 第4回CGSAセミナー2010


中央大学国際会計研究科主催のIFRSセミナーです。「IFRSの導入に向けての事業会社の取り組み」と題して、すでに企業の第一線でIFRSに取り組んでおられる実務家の方にこれまでの経験や課題などをお話いただけます。アガットコンサルティングの武田さんとともに、コンサルタントととして、それらの課題の解決策に迫っていきたいと思います。


私も今から非常に楽しみにしているセミナーです。


日  時:2010年12月4日(土)
時  間:13:30~15:00
場  所:中央大学市ケ谷田町キャンパス
参加費:無料
定  員:70名 (先着順)


お申し込みは中央大学HPよりお願いいたします。


 



  • IFRSと監査法人の視点、コンサルタントの視点


こちらはアビタスで開催されるセミナーです。IFRS対応には監査人やコンサルタントとの協力関係が不可欠です。今回はそれぞれの視点から見るIFRS対応の課題を解説します。新日本有限責任監査法人のシニアパートナー大和氏をお招きし、IFRSに対する監査法人の視点を解説していただきます。コンサルタントの視点については、私が担当させていただきます。新しい収益認識基準を取り上げて原則主義の適用ポイントを実例を挙げて考えていこうと思っています。


日  時:2010年11月17日(水)
時  間:14:00~16:30
場  所:アビタス八重洲校
参加費:5,000円(IFRSコンソーシアム会員は無料)
定  員:80名 (先着順)


お申し込みはIFRSコンソーシアムHPよりお願いいたします。


 



  • 与信管理・販売管理におけるIFRSの影響


IFRSの影響というといろいろな切り口ですでに語られてきていますが、与信管理や販売管理については基準書改訂が控えているので、何が起きるのかきちんと把握できていない方がおおくいらっしゃいます。このセミナーでは最新のIFRSの動向を踏まえ、与信管理や販売管理の担当者が知っておくべきIFRSを解説します。経理担当でない方の参加も歓迎しています。難しい用語を使わないように平易な解説を心がけますので、ご期待ください。


日  時:2010年10月28日(木)
時  間:13:30~15:00
場  所:TKP大手町カンファレンスセンター EAST カンファレンス6
※このセミナーはリスクモンスター会員限定のセミナーとなっており、一般募集は行なっておりません。


お申し込みはリスクモンスターHPよりお願いいたします。


 


IFRSのセミナーはかなりの数が開催されていますが、私のセミナーではできるだけ実例などを交えながら現場で使える情報を発信していきたいと考えています。参加者の皆様からの質問も大歓迎です。充実したセミナーにしたいと思います。よろしくお願いします。



2010年10月18日月曜日

日本企業が知っておくべき中国のIFRS事情

いろいろな企業の方とお話してもっともよく聞くIFRS対応の懸念点というのは、連結グループ会社での対応をどのように進めるかという問題です。海外に盛んに進出している企業はもちろんのことですが、主に国内でビジネスを展開している企業であっても中国などアジア地域に子会社を保有しているケースはよくあります。しかし、現地の会計がどのようになっているかは把握しきれていないことが多いようです。今回はこの近くて遠い中国の会社の場合を取り上げてみたいと思います。

まず、海外のグループ会社のIFRS対応上重要な課題は主に以下の2点にあります。中国固有の事情を含めて順に解説していきます。

・会計方針の統一
会計方針の統一についてはIFRSベースで親会社と合わせることになりますので、現地での会計処理をきちんと指導しなくてはなりません。中国では2007年に公表された新企業会計準則によってIFRSとのコンバージェンスが進んでいます。その点では日本よりも対応は進んでいるといえます。したがって、現地の会計基準で記帳している中国のグループ会社はほとんどIFRSに従った会計処理ができていると考えている方も多いと思います。

しかし、新企業会計準則は上場会社など一部の企業が強制適用となっており、それ以外の企業は旧企業会計準則を適用できます。日系の中国企業は必ずしも新企業会計準則を適用しているとは限りませんので注意が必要です。

日本の親会社は現地の企業が新基準と旧基準のどちらを採用しているのか、実際にどのような会計処理を行なっているのかを把握しなければなりません。

・決算期の統一
IFRSでは原則としてグループ会社の決算期は親会社と統一しなくてはなりません。ただし、実務上不可能である場合は、3ヶ月までの決算期のずれが認められています。
日本企業は3月決算が多いのですが、中国では決算期は12月と法律上決まっているため中国の本決算は変更することができません。そこで中国のグループ会社については何らかの対応が必要となってきます。

多くの場合、仮決算を行なうことが必要となり、3月にもう一度決算を行なうことになります。グループ会社側で人員体制を整備することができればいいのですが、必ずしも現地企業には十分な人材が揃っているとは限りません。これまでは12月から3月の期間を利用して中国のグループ会社は決算に余裕を持つことができたわけですが、仮決算ではそのような余裕はなくなります。決算の早期化も視野に入れた対応が必要となってきます。

現地で対応が難しい場合は、親会社で連結処理上の修正を行なうといった方法もあります。この場合でも修正の基礎資料は現地から提出してもらう必要があるのでやはり現地での負担が生じることになります。

その他にも、このまま3ヶ月のずれを維持することも1つの方法ではあります。しかし、これは実務上不可能な場合に限られるので、まずは原則的な方法を検討しておく必要があるでしょう。1つ注意しておきたいのは「実務上不可能な場合」というのは企業固有の事情を検討することになるので、他社事例で中国の会社が仮決算ができているからといって自社においても同じ対応をしなくてはならないというわけではないということです。決算期の異なる企業が一律にすべて仮決算を行なうことになるとは限らないのです。

また、3ヶ月のずれを放置しておくとその期間に発生した重要な変動の調整や、連結処理の親子会社間取引の差異分析などの手続が面倒になります。そのような点も考慮した上でどのような対応が一番効率的か考えるべきです。

海外のグループ会社に対する管理が十分にできていないと感じている企業は意外と多いという印象を受けます。早い段階から密接にコミュニケーションを取ることが円滑な対応につながると思います。




2010年10月12日火曜日

IFRSで激変する利益と日本の平準化した利益

近年のIFRSの改訂は様々な分野に及んでいます。これらの改訂により企業の業績の見え方は大きく変わってきています。特に利益の見え方は大きく変化しています。

日本の会計では利益というと営業利益、経常利益、当期利益と段階別に表示します。営業利益というのは会社のビジネスによる利益であり、売上から売上原価や人件費や減価償却費などを差し引いて計算します。経常利益はそれに本業のビジネス以外の損益を加えます。支払利息や受取配当金など財務上の損益がここで考慮されます。さらに、臨時、例外的な特別損益を加えたものが当期利益です。臨時、例外的な損益というと、固定資産の売却やリストラ費用など毎期継続して発生しない項目が含まれます。このような利益の表示方法は日本独特のもので、IFRSや米国基準にはないものです。

一般的に、企業で、損失はできるだけ下の項目(特別損失として当期利益にのみ含める)に区分して営業利益や経常利益を平準化するという傾向があります。

また日本基準ではこれらの利益計算に含まれない項目もあります。代表例がその他有価証券の評価差額です。その他有価証券というのは株式など有価証券の会計上の分類の1つで持ち合い株式が主にあてはまります。そのような株式はたとえ時価が上がったり下がったりしても、売るつもりもないのに持っているだけで利益や損失を計上するのはおかしい、と日本基準では考えます。そこでこれらの投資を時価評価したときの評価差額は損益として計上しません。

このように企業は利益を平準化するのが望ましいとこれまで考えてきていましたし、日本の会計基準自体も利益を平準化する考え方で規定が定められています。

そもそも例に挙げたその他有価証券の会計処理もIFRSや米国基準を参考に決められたものなので、従来はIFRSでも利益を平準化することが重要視されていました。しかし、近年はこのような考え方は採用されていないのです。以下にその例を挙げます。

①有価証券の評価差額
IFRSでも日本基準と同じような考え方のもと有価証券の時価の変動部分を利益計算から除外していました。しかし、新しい金融商品会計では原則時価評価する有価証券などの変動額はすべて損益とする改訂がなされました(その他包括利益に計上することもできます)。

②退職給付
退職給付は従来の未認識項目がその他の包括利益として利益計算に含まれることになりました。これまでは数理計算上の差異のうち、一部を毎期償却するという処理が行なわれていましたが、退職給付債務の変動がそのまま利益に影響することになります。

これらの例によく表れていますが、IFRSでは企業のビジネスがうまくいっているのかということより、株式市場などマーケットの状況で企業の利益は大きくぶれることになります。企業にとってはコントロールが難しい要因で利益が大きく動くことになるので必ずしも望ましいとは言えないかもしれません。しかし、現在財務諸表の利用者(投資家)から求められている情報とはそういう要因もそのまま含んでいる利益なのです。マーケットのリスクにさらされているなら、それをそのまま伝えてほしい、当期にあった事態をそのまま示してほしい、ということなのです。

IFRSにより利益は大きく変わります。実態を反映する会計基準とは何なのか、改めて考えなくてはならないと思います。



2010年10月4日月曜日

概念フレームワークに見るIFRSの感覚と日本の感覚の違い

IASB(国際会計基準審議会)とFASB(米国財務会計基準審議会)は共同で財務諸表の概念フレームワークの改訂を進めています。段階的に改訂を進めていく予定になっており、2010年9月に最初のフェーズが完了しました。これで、財務諸表の概念フレームワークの中でも、一般的に利用される財務諸表の目的、と有用な財務情報の質的特性が新しいものに置き換わりました。

財務諸表の概念フレームワークというのは、他のIFRSの基準書とは違って、企業がどのような会計処理をしなければならないとか、どういう情報を開示しなければならないとか、ルールを定めているわけではありません。あくまでガイドです。しかし、IFRSの各基準書はこの概念フレームワークに沿って個々の規定を定めているわけで、概念フレームワークがIFRS全体の思考を支えてるのです。

IFRSを考えるとき、どうしても基準書に定められている個々の基準書の内容に注目してしまいがちですが、概念フレームワークが何を定めているのかということは、IFRSの本質を知る上で重要です。IFRSが日本の会計基準と全く違う思考のもとに成り立っていることを考えるとおろそかにはできないところです。

今回は、その新しい概念フレームワークの中に、IFRSについての議論で見落とされがちなポイントがありますので紹介します。それは重要性、という考え方です。日本の会計でも企業会計原則の中で重要性の原則が出てきます。重要性の乏しいものについては本来の厳密な処理をしなくても簡便的な方法でよい、ということです。特に私たちにとっても新しいものではありません。

概念フレームワークの中では、その情報が省略されたり間違って報告されたりした場合、財務諸表の利用者の意思決定に影響を与えるかどうかという観点で重要性を規定しています。また、重要性というのはその情報の質的、量的側面から企業が個別に判断するものとしています。したがって、このような企業個別の事情については基準書の中で考慮することはないし、画一的な重要性の基準値を設けるようなこともない、ということになります。

IFRSに基づいた会計処理を考えるとき、なぜか「出荷基準は認められない」「減価償却の定率法は認められない」「子会社の決算期は絶対親会社と統一しなければならない」と画一的に語られてしまうことが多いように思います。確かに、基準書には原理原則しか書いていないのでそれをそのままあてはめれば、そのような議論になってしまいがちだと思います。しかし、そのような基準書の原則は個別の企業の事情を敢えて考慮しない、それは各自が判断すべき、という概念フレームワークに基づいてのものなのです。このような画一的な議論ばかりでは判断を誤ってしまいかねません。

IFRSについて、概念フレームワークなどIFRSの大枠の考え方に触れることで、個別論点はもっと柔軟に考えることができると思います。このようなIFRSの考え方を身につけることが一番重要なことです。


2010年9月27日月曜日

ムービング・ターゲットのIFRSが変えないもの

IFRSは改訂が続いており、基準書自体が大きく変わっている最中です。「ムービング・ターゲット」と言われ、改訂が頻繁であることがIFRSの適用を難しくさせる要因となっています。
 
基準書の改訂が多い理由は米国基準とのコンバージェンスが大詰めを迎えているためです。2011年中までに米国基準との共通化を達成するために双方の会計基準を置き換えています(アメリカの動向についてはこちらの記事を参考にしてください)。このコンバージェンスプロジェクトでは非常に広範囲な問題が取り上げられ、多くの基準書が改訂の対象となっています。しかし、2011年の期限を守るため、プロジェクトでの優先順位が低いものについては、検討が後回しにされることになっています。これらの項目については当面大幅な改訂が行なわれることはありません。普段は、何が変わるか、ということをいつも注目しますが、今回は何が変わらないのか、ということを確認しておきたいと思います。

①財務諸表の表示
財務諸表の表示では、キャッシュ・フロー計算書を直接法に一本化するということが提案されてきました。しかしこの問題については先送りされることが決まっています。
キャッシュ・フロー計算書は直接法と間接法という2つの作成方法があります。直接法はキャッシュ・フローを営業取引(売上代金の入金額や仕入代金の支払額など)の種類別に表示します。したがって日々のキャッシュを増減させる取引についてどの種類の取引によるものなのか記録し、集計できなくてはなりません。取引の記録も煩雑ですし、システム上の対応も必要不可欠です。それに対して、間接法では、キャッシュ・フローを税引前当期純利益からの調整項目を表示するので、基本的に前期と当期のB/Sと当期のP/Lをもとに作成することができます。間接法は直接法よりも簡単にキャッシュ・フロー計算書を作成できるわけです。
現在日本の会計基準でもIFRSでもキャッシュ・フロー計算書は直接法と間接法のどちらでも採用できるので、多くの企業が間接法でキャッシュ・フロー計算書を作成しています。
IFRSで直接法に一本化されると、多くの企業ではキャッシュ・フロー計算書を作成するために多大なコストを追加負担しなければなりません。それだけのコストに見合ったベネフィットがあるのか、つまり、投資家にとってそれだけ有用な情報になるのか、というところは議論の余地があり、今後もっと時間をかけて検討されることになっています。

②負債と資本の区分
負債と資本を分けるということは会計では最も基本的な原則の1つです。しかし、近年いろいろなタイプの株式が発行されるようになり、株式といっても借入と似たような性質を持つものもあります。また、国によっては借入という形式を取りながらも、実質的に債権者が株主のような権利を持っている場合もあります。何を資本とすべきなのかというのは古くて新しい問題です。
IASBでは、これまでの検討で普通株式のみを資本とするアプローチを改訂案として支持してきましたが、このアプローチも問題が多く、当面は現行の規定を維持し、時間をかけて検討するということに方向転換しました。

これらのプロジェクトは先送りにされたので、基準書が大幅に改訂されることは当面ありません。いつ検討が再開されるかは明確になっていませんが、コンバージェンスプロジェクトが完了した後はしばらく基準書の大幅な改訂をしないことが予定されています。日本がIFRS適用を予定している2015年頃は、アメリカの適用も想定されているため、まだ再開されていないと思います。このようなIFRSの改訂スケジュールを考えると、2015年頃というのは日本がIFRSを適用するのに適当なタイミングではないかと思います。


2010年9月21日火曜日

日本に影響を与えるアメリカのIFRS対応

アメリカがIFRSを導入するか、2011年に決定することになっています。この決定は日本の今後の対応にも影響すると考えられ、非常に注目されています(日本のIFRSに関する状況はこちらの記事を参考にしてください)。今回は最近のアメリカでのIFRSを巡る動きについて考えたいと思います。

現在米国会計基準とIFRSは、米国財務会計基準審議会(FASB)と国際会計基準審議会(IASB)がコンバージェンスプロジェクトにを進めています。コンバージェンスが達成されることはアメリカでのIFRS導入の条件となっています。IASBは国際会計基準の発展にはアメリカの参加が不可欠であると考えており、コンバージェンスプロジェクトは絶対達成させなくてはならないところです。

現在のIFRSは世界の多くの国で採用されるようになったとはいえ、まだまだEU諸国の影響を多く受けています。例えば、2008年にIASBが正式な基準書設定の手続を飛ばして、突如基準書の改訂を行なったことがありました。金融商品についての改訂で、売買目的で保有している金融資産について短期で売買する意図がなくなったものは、分類を変更して、時価評価をしないことができるという内容でした。世界的な金融危機を受けて時価評価による多額の損失計上を回避できるという措置だったわけですが、この改訂はEUの強い圧力によるものだったと言われています。

特定の国が強い影響力を持っている状況では高品質で多くの国で受け入れられる会計基準にはなれません。IASBとしてもこのような改訂はやりたくないわけです。EU以外の力のある国がIFRSを導入し、影響力が分散されることが期待されています。

ところが、米国基準とのコンバージェンスプロジェクトは困難が続いています。当然米国基準とIFRSの間に考え方に違いがあります。プロジェクトのスケジュールが遅れがちで、なかなか双方が合意に達することが難しいようです。プロジェクトのスケジュールは見直しがなされ、優先順位をつけて対応していますが、2011年という最終ゴール時点は変わっていません。2011年までIFRSは重要な改訂が続くことになります。

IFRSを巡っては各国のさまざまな利害関係者が議論を戦わせて、成り立っています。理論的な正しさ、も追求されるべきですが、すべてがIFRSの原理原則に従っているとは限りませんし、そもそも原理原則自体さえ修正されていく可能性があると思います。今がIFRSの将来を決める非常に重要な時期なのです。

2010年9月13日月曜日

日本はIFRSを適用しない、という期待

今回はIFRSをめぐる日本の状況について考えてみたいと思います。

日本でもIFRSを扱った記事や書籍、セミナーなどたくさんあり、多くの方がそれらでよく勉強されているという印象を受けます。知識が増えた分、IFRSに対していろいろな不安を抱いている方もたくさんいるようです。今回はそれら疑問について考えてみたいと思います。

疑問①日本は結局IFRSを導入しないのではないか
IFRSを導入するメリットが感じられない企業の方に多いようです。確かに資金調達や事業展開など海外も視野に入れている企業にとってはIFRSはメリットがありますが、そうでなければ、コストがかかる話、にしか思えないのかもしれません。また、アメリカが本当にIFRSを導入するのか、というところに疑問を持たれていることとも関係していると思います。

もうすでにご存知のことと思いますが、現在IFRSに収斂、または適用を行なっていない国は、アフリカ地域を除くと、アメリカと日本ぐらいです。日本だけが今後世界の中で孤立して独自の会計基準を適用していくという状況は考えにくいのではないでしょうか。
アメリカについては、SECがアメリカでのIFRS適用は2015年以降とする考えを表明しており、これがアメリカでの「後退」と捉えられているようです。しかし実際には2015年をめどにIFRSを導入する意欲が政権交代後に示されていると理解すべきではないでしょうか。IFRSとUSGAAPのコンバージェンスプロジェクトは、アメリカが導入の判断を行なう2011年に向けて現在進められています。コンバージェンスプロジェクトがどれだけの成果を上げられるかということが重要になってくると思いますが、アメリカは着実に動いてきていると考えるべきです。

疑問②IFRSの日本向け解釈指針が作成されるのではないか
原則主義のIFRSは解釈が難しく、しかも日本の慣行に特別配慮しているわけではないので適用には判断が必要となります。日本の会計基準のような細則や実務指針がないのです。そこで解釈指針のようなものが日本向けにできるのではないか、と期待されている方がいらっしゃいます。

現状では金融庁もASBJも公認会計士協会も、あまりそのような指針を作ることは考えていないようです。そもそもIASBがそのような国別の指針などを作ることを反対していて、そのような指針を各国で作るとたくさんのIFRSが存在することになってしまうと懸念しているのです。日本に対しても指針を作らないことを勧めています。日本としては、今更この路線からはずれたくないのではないかと思います。

ちなみに、すでに日本ではIFRSが法的に認めているわけですが、その中でもカーブアウトを行なっていません。カーブアウトとというのはIFRSの一部を採用しないことで、EUなどでは行なわれています。EUの各国ではIFRSの適用には承認手続が必要でその承認が通っていないものは適用されていません。EUなどでさえ、カーブアウトを行なっている中で、日本は敢えてそのようなことはせず、full IFRSを適用しようとしているわけです。ここで日本版のIFRS解釈指針を出してしまえば、それは日本版IFRSであって真にfull IFRSではなくなってしまうのです。

疑問③それではどうしたらいいのか
日本がIFRS適用をするのは確実で、適用を助けてくれる指針も出ないであろうという状況で、日本企業はどのように対応していけばいいのでしょうか。

まずはIFRSという会計基準に「慣れる」べきです。IFRSの知識をすでにつけていらっしゃる方が多いので、それを実践に移すことです。自社としてはどういう適用をするべきなのか、実際に会計方針を考えてみることが必要なのではないでしょうか。
一般的にIFRSと自社の会計処理を比較する差異分析を最初に行ないます。ここで会計基準の項目を羅列するだけでなく、どのようにその規定を判断するのかというところまで考えなくては、本当の意味での分析はできません。そのような深いレベルでの分析を行なってみることが本当の意味でのIFRSの適用に必要です。

IFRSを自社に適用すると何が問題になるのか、ということを具体的に考えるのが取り組みへの第一歩として重要です。

2010年9月7日火曜日

リースの貸し手と借り手は鏡の関係に:IFRSリースの公開草案

2010年8月に国際会計基準審議会(IASB)からリース取引について基準書の公開草案が公表されました。リースをどのように会計処理すべきなのか、考え方は大きく変わりました。

これまでは「モノを借りて使用し、リース料を支払う」というリース取引について、それが実質的に「モノを買って使用し、代金を延べ払いにする」のと同じと考えられる場合は、モノを買ったのと同じ処理をすることが必要でした。つまり、モノを買ったとはいえないような取引はリース料だけを費用として処理することになります。この考え方はIFRSでもUSGAAPでも日本基準でも基本的に同じでした。そこで、現実にはいろいろな方法で「モノを買った」と判定されないような取引を仕組んでリース取引が行なわれるようになりました。

このような状況に対して、財務諸表の透明性を確保するためにリース取引の抜け道をなくすような改訂が提案されています(借り手の新しい会計処理についてはこちらの記事をご覧ください)。

今回は貸し手側の会計処理がどのように変わるのかを見ていきたいと思います。公開草案で提案されている使用権モデルの原則は貸し手と借り手の会計処理が対称になることです。借り手でリース料の支払い義務として負債を認識したのであれば貸し手もそのリース料を受け取る権利を資産として計上しよう、ということを考えています。

具体的には貸し手の会計処理については2つのアプローチがあります。履行義務アプローチと認識中止アプローチで、どちらを適用するかは、貸し手がリースを行なう資産について重要なリスク、便益が借り手に移転しているかどうか、によって決まります。

リースされる資産についてのリスクと便益が貸し手側に残っているという場合、その資産は貸し手の経済的資源であり、貸し手はその資産を使用することを借り手に約束しているものと考えます。履行義務アプローチです。
そこで、資産は貸し手にオンバランスしたままになります。貸し手が使用するという約束が貸し手の履行義務であり、リース負債として認識します。リース負債は当初リース債権(借り手から受けるリース料)と同額となり、リース期間にわたって履行義務を果たすのに伴って、収益を認識します。そして、リースする資産については減価償却を行なっていきます。

一方、資産のリスクと便益が借り手に移転していると考えられる場合は、認識中止アプローチを適用します。こちらのアプローチではリースされる資産のうち借り手に移転している部分については認識を中止し、オフバランスします。基本的にリース債権の現在価値と認識を中止した部分の差額が収益として認識され、その後実効金利法によりリース債権の利息部分の収益認識がなされます。この方法は現行のファイナンス・リース取引の処理と似ています。

基本的にオンバランスするリース料の見積りは貸し手も借り手も同じ方法で行なうことが求められています。しかし、契約を更新するか、中途解約するか、といったオプションも含めて50%超の可能性がある最長のリース期間を見積もる、といった具合に貸し手と借り手それぞれの独自に判断することが必要となるので、その結果得られる見積りは違いがあると考えられます。実際には貸し手と借り手が全く対称の鏡の関係になるとは限りませんが、理論的には整合したモデルになっていると思います。

公開草案からさらに具体的な問題点が検討されていくことになります。今後公表される基準書も注目すべきです。


2010年9月1日水曜日

飛行機は航空会社のものかリース会社のものか:IFRSリースの公開草案

2010年8月に国際会計基準審議会(IASB)からリース取引について基準書の公開草案が公表されました。リース会計については現在進行しているIFRSの改訂プロジェクトの中でも特に注目されているトピックのひとつです。なぜなら、これまでのリース取引の会計処理を抜本的に変更することが予定されているからです。

今回の公開草案で最も大きな変更点は従来はオフバランス処理が認められていたリースについてもオンバランスが要求されていることです。

現行の基準ではリース取引をファイナンス・リース(キャピタル・リース)とオペレーティング・リースの2種類に分け、ファイナンス・リースについてはリースを資産として計上することが必要でした。

公開草案ではこの分類がなくなります。すべてのリース取引について資産を「使用する権利」を資産として計上することになります。
従来は実質的に借り手側がリース資産を所有しているのと変わらないような使用状況である場合にファイナンス・リースとして借りている側が資産計上を行なってきましたが、「使用する権利」に着目しているため、オペレーティング・リースであっても資産計上が必要となります。

実際に計上する金額の決め方も従来の方法とは変わります。
特徴的なのはリース期間やリース契約についている条件についての考え方です。
リース期間については、解約や延長などのオプションを考慮した上で一番長くリースを行なう期間とします。一番長くなるリース期間が実際にリースを行なう期間となるかは50%超の可能性であることが必要なので、契約内容から企業としてどのような使用期間を想定するか検討する必要があります。
また、使用状況などによってリース料が変わる条件付きのリース契約や中途解約の罰則金などについてはその発生可能性を加重平均で評価することになります。

従来のリース基準では契約ではなく取引の実態を検討することが求められてきましたが、今回の公開草案ではリース契約をした後にリース資産をどれだけ使用するのか、というところを考えなくてはならなくなります。今まではいろいろな手法でオフバランス処理ができる場合がありましたが、これからはオフバランスのメリットを取るのは非常に難しくなると思います。
Sir. David Tweedie IASB議長がリース会計について「自分が死ぬまでに航空会社のBSに資産計上されている飛行機に乗りたい」というコメントをしていました。
まさにそれが実現する公開草案が公表されたわけです。

2010年8月27日金曜日

「現場で使えるIFRS導入の実務」Amazon国際会計カテゴリ1位獲得

7月末に日本実業出版社から刊行いたしました「現場で使えるIFRS導入の実務」がついにAmazonの国際会計カテゴリで1位を獲得しました。


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ありがとうございます。

企業の経理部門、システム部門などの担当者の方、監査法人の方やコンサルティング会社の方などいろいろな方に読んでいただけているようです。

実際にこの本の対象となっている読者の方に手に取っていただけて非常にうれしく思います。正直なところ、この本は実務書なので、IFRS関連書籍の中でも気軽に読めるムックや、やさしい入門書などより敷居が高いと思っていました。このような実務書になるとそれほど買っていただけないのではないか、という気持ちもありました(著者としては売れてほしいのですが)。

しかし、入門書の次に読むような本書にこれだけ反響があるということは、それだけ多くの人にとってIFRS導入への関心が非常に高いということだと思います。

IFRSについて否定的な見方をする方も多くいらっしゃいますが、本当の問題点というのは実際に企業での適用が進まないと見えてこないと思います。IFRSにはもっと大きな問題があるかもしれません。世界の中で見たら日本の動きは少し遅れ気味ではないでしょうか。本書が多くの企業でIFRS導入に向けて動き出すことを後押しできればと思います。

まだ本書をご覧になっていない方、書店でも扱っていますので是非手に取ってみてください。

Amazonのリンクはこちらからです。

よろしくお願いします。



2010年8月23日月曜日

IFRS 工事進行基準廃止による新たな課題

国際会計基準審議会(IASB)が2010年6月に公表した新しい収益認識に関する公開草案では、あらゆる取引について統一した収益認識のアプローチを提案しています。現行のIFRSではIAS第18号が収益認識の一般的な基準書となっていますが、その他にもIAS第11号では工事契約について別の収益認識の基準が定められています。現行の規定では、通常の物品の販売などはIAS第18号により物品が相手先に移転した時に収益を認識しますし、建設業などではIAS第11号により工事進行基準による収益認識を行なってきました。

今回の改訂ではこれらの基準書が統一されるので、IAS第11号は廃止され、それにより工事進行基準も廃止することが提案されています。そもそもIFRSでは原則主義を基本としている以上、例外事項はできるだけ排除することが望ましいと考えられています。例外事項をたくさん設けてしまっては結局細則主義と同じことになってしまうからです。収益認識についても工事契約だけ特別扱いして別の規定を作ることは不必要なことであるというのがIASBの意見です。

では、工事進行基準を廃止するのなら、工事契約についてはすべて工事完成基準を適用しなければならないのか、非常に活発な議論がこれまで行なわれてきました。新しい収益認識のアプローチでは、履行義務を識別しその義務が果たされ支配が移転する時点に注目して収益を認識します(このアプローチの考え方についてはこちらの記事を参考にしてください)。工事契約にあてはめると、工事が完成して建物を顧客に引き渡したときに支配が移転すると考え、やはり工事完成基準を適用するのではないか、とも考えられますが、IASBによるとこれは必ずしもそうではない、と明言しています。

取引の実態を検討してみると、工事契約は「支配が継続的に移転」しているといえる場合があり、そのような継続的な移転においては例えば工事の完成度合い、インプットの投入度合い、時間の経過などを基準とした収益認識をすることになるということなのです。つまり、工事進行基準に限りなく近い方法で収益認識を行なうことになります。

このような方法で収益認識を行なうにはどのような条件をクリアしておくことが必要なのか、主に以下のようなポイントがあります。
・法的な権利を顧客が有しているか 
・顧客が追加コストを負担するか
・顧客が建物を物理的に所有しているか

法的な権利関係については、たとえば顧客の所有地で工事を行なっている場合はその上に建つ建物も一体として顧客のものと考えらています(この考え方は、イギリスのなどの法概念に基づいているようです)。
物理的な所有については、たとえ法的な所有権を有していなくても顧客の土地上の建物であれば、物理的な所有をしていると考えられることになります。

新しいアプローチは非常に概念的で実務上の適用が難しいのですが、工事進行基準からの変更はとても重要な問題ですので、慎重な検討が必要です。
ちなみに今回の記事はKPMGの解説を参考にしています。より詳細な内容に興味のある方はこの解説もご覧ください。

2010年8月7日土曜日

「現場で使えるIFRS導入の実務」好評いただいています

7月末に刊行いたしました「現場で使えるIFRS導入の実務」(日本実業出版社)はおかげさまで好評いただいています。ありがとうございます。

書店を回ってみたのですが、丸善本店では2ヵ所に平積みにしていただいていました。紀伊國屋書店南口店でも平積みしていただいています(写真は紀伊國屋書店南口店です)。




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Amazonでも好評発売中です。レビューありがとうございます。

日本経済新聞の7月30日の2面に広告も出していただきました。


日経広告

ブログでは
■財務アナリストの雑感■ シーズン3
■CFOのための最新情報■ 
の著名なブロガーの方が取り上げてくださいました。ありがとうございます。
どちらのブログも以前から読ませていただいていたので、本当にうれしいです。

今書店ではIFRS関連本が非常にたくさん出ています。自分が本を出すことになるまで書店を見て回ることgがなかったので、この状況には正直驚きました。


私がIFRSに取り組むようになった当初は海外大手会計事務所が出している解説本の翻訳くらいしかなかったように思います。どうやってIFRSの勉強をしてきたのかと聞かれることがあるのですが、私の場合は、IFRSの基準書そのものやIASBのホームページで公表されている文書が基本で、それに海外の大手会計事務所のニュースレターくらいしか参考となるものがありませんでした。そこから得られた情報を日本企業の問題として考えていくわけですが、やはり判断が必要とされる基準書なので自分一人の考えでは心もとないことがあります。そういったときに、書籍はまとまった形で考え方を知ることができるので役立てられると思います。

「現場で使えるIFRS導入の実務」については、IFRS導入のプロジェクトいかに進めるべきか、ということに焦点を当てているので、IFRSについてのあらゆる問題に回答できているわけではありません。もう少し踏み込んでほしいところ、などもご意見いただいています。しかし、今はたくさんの書籍が出ているのでいろいろな本を見て参考にするのがいいのではないかと思います。
私の本がIFRSに関する議論を深めるきっかけとなれば幸いです。
ご興味がある方は是非手に取ってみてください。よろしくお願いします。


2010年8月2日月曜日

ソフトウェアビジネスとIFRSの収益認識

2010年6月に国際会計基準審議会(IASB)が公表した国際会計基準(IFRS)の新しい収益認識基準についての公開草案では、企業がいつ、いくらの売上を計上するのか、統一的な基準を定めています。この公開草案ではあらゆる取引に共通するアプローチを提供しています。(アプローチについてはこちらの記事を参考にしてください。)ただし、この統一されたアプローチは原則を定めているに過ぎません。実際の企業活動はさまざまで、個々の取引についてどのように適用すればいいのか判断に迷うところです。


今回はソフトウェアについて考えてみたいと思います。ソフトウェア、コンテンツといった形がないものについての会計処理は伝統的な会計の考え方をそのままあてはめるのが難しく、近年の会計ではこのような無形のものをどのように扱うのかが重要な問題と考えられています。

新しいIFRSのアプローチに従うとソフトウェアのライセンスが排他的であるかどうかがポイントとなります。
例えば、ソフトウェアの経済的耐用年数全期間にわたって排他的な権利を顧客に与える場合、これは知的財産の販売と考えます。顧客に権利を付与した時点に売上を計上することになります。
現実にはこのような場合よりも経済的耐用年数よりも短い期間の使用許諾の方が多いと思います。この場合は、その権利が排他的か否かによって処理が変わってきます。排他的な権利である場合は、履行義務は時間の経過とともに果たされていくと考えるので、時間の経過に伴って売上を計上します。
排他的でない権利である場合は、履行義務は使用許諾の付与のみに関連すると考えます。顧客が使用許諾が得られた時点で売上を計上することになります。

ちなみに、日本の会計基準では「研究開発費等に係る会計基準」の中にソフトウェアについての会計処理が定められています。また売上の処理については、「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い」が参照されることが多いと思います。
現行の日本基準では、使用許諾が排他的であるか否かという判定が求められていません。この判定により売上の計上基準が変わる可能性があります。

IFRSを実際に適用していくにあたっては判断に迷うところがたくさんあるのですが、ソフトウェアライセンスなどの知的財産権についてはIFRSの適用が難しい分野の1つだと思います。

2010年7月31日土曜日

「現場で使えるIFRS導入の実務」(日本実業出版社)刊行のお知らせ

















今日は書籍の紹介です。

この度、弊社ITコンサルタントの石井との共著でIFRSの実務書を刊行しました。

「現場で使えるIFRS導入の実務」というタイトルです。

本書は、経理部門を中心とした「現場の視点」で「経営層」「SIer」「コンサルタント」「担当監査人」「各現業部門」「子・グループ会社の経理部門」という関係者とともに、具体的にどのようにプロジェクトを進めていくか解説しています。

IFRS導入への課題は、会計処理、業務変更、システム対応、内部統制への対応と、非常に範囲が広いのですが、プロジェクトにまつわるすべての工程を時系列に沿って説明しています。

IFRSが適用されるまでに、いつ何をしなければならないのか、読者の方々に具体的イメージを持っていただくことが狙いです。

IFRSは日本の会計基準に慣れている私たちにとって理解しづらい会計基準です。そのようなこともあり、これまでのIFRS関連書籍は基準書そのものの解説に焦点を当てているものが多かったと思います。

本書はその基準を適用していく上でより実践的な課題とその対処法を取り上げています。IFRSの知識がなくても理解できるように平易な解説を心がけました。各企業の実務担当者の方々がIFRSに取り組む際に、本書が足がかりになればと思います。

本日7月30日の日本経済新聞朝刊2面に書籍の広告を出していただきました。

Amazonでは取り扱いが始まっており、一般書店でも並び始めているということです。是非ご覧いただければと思います。

よろしくお願いします。

「現場で使えるIFRS導入の実務」目次

序章 IFRS導入以前に、最低限知っておくべき基礎知識

第1章 IFRS導入の影響と導入工程を把握する

第2章 調査・計画段階① 0か月目  プロジェクトチームの立ち上け

第3章 調査・計画段階② 1か月目  各差異分析の立案と実施

第4章 調査・計画段階③ 4か月目 方針とスケジュールの作成

第5章 計画実行段階① 7か月目 会計方針の決定と文書化

第6章 計画実行段階② 10か月目  新業務の定義、システムの改修、規程の改訂

第7章 計画実行段階③ 7~30か月目  トライアル実施と開始貸借対照表の作成

第8章 IFRS体制構築後の運用監視段階

第9章 各業務・システム設計におけるポイント①

    ~販売業務、購買・生産業務、資産管理業務

第10章 各業務・システム設計におけるポイント②

     ~財務管理業務、人事管理業務、決算業務



2010年7月26日月曜日

IFRSの収益認識:新アプローチで製品保証の処理が変わる

��010年6月に国際会計基準審議会(IASB)より公表された収益認識についての公開草案は、収益の処理について包括的な基準を定めることを目標としています。そこでは新しいアプローチが提案され、個々の会計処理にさまざまな影響を与えられると考えられています。新しいアプローチについてはこちらの記事を参考にしてください。

今回は新しいアプローチによると製品保証はどのように扱うのか、考えてみたいと思います。
よく製品を購入したときに一定期間の製品保証がサービスとして受けられたり、別途オプションとして保証を受けられたりすることがあります。家電製品を買った時のことを考えていただけると分かりやすいかもしれません。従来の国際会計基準の考え方では製品保証により将来提供する保証サービスを引当金として計上することになっていました。しかし、新しいアプローチでは製品保証を引当金とする考え方はしません。

今回の公開草案では、製品保証を2つのタイプに分けます。
①企業が顧客に製品を引き渡す前にすでにあった不具合が引き渡してから見つかった場合
②顧客に引き渡した後に顧客が製品を使用したことにより不具合が発生した場合
①の場合では、そもそもきちんとした製品が顧客に引き渡されていなかったことになるので、製品の引渡し、という当初企業が果たすべき義務が果たされていなかったと考えます。
②の場合は、①と違って製品の引渡しという義務自体は履行されています。しかし、引渡し後の不具合に対応するという別の義務を企業が負っていると考えることになります。

このように2つのパターンに整理されましたが、どちらの場合も共通することがあります。製品を引き渡した時に企業が負っている義務の一部が履行されていないということです。新しい収益認識のアプローチでは企業の顧客に対する履行義務が果たされた時に収益を認識します。そこで、どちらのパターンであっても、製品保証については収益を認識せず、保証サービスの提供に伴って認識することになります。

公開草案の例をもとにもう少し具体的に説明します。
製品を引き渡した時には販売価格全部を売上として計上しません。例えば、1,000円の製品を1,000個販売し、その製品には90日間の保証期間がついているとします。
従来ならば1,000x1,000=1,000,000円
が売上になります。
しかし、新しいアプローチでは過去の実績から1%が保証サービスにより交換することになる部分を見積もります。たとえば、保証サービスにより返品されるのが1%と見積もられた場合、1,000個のうちの1%である10個分の
1,000x10=10,000円
は売上として計上しません。
1,000,000-10,000=990,000円
が販売時の売上になります。この売上に計上されていない10個分は企業の棚卸資産として計上し続けます。実際の保証期間が終了したときに売上となります。

このように個々の取引を照らして考えてみると、新しい収益認識のアプローチはさまざまな影響があります。他の影響についても引き続き考えていきたいと思います。

2010年7月12日月曜日

IFRSの新しい収益認識アプローチ

��010年6月に国際会計基準の収益認識について公開草案が公表されました。
これまではIAS第18号「収益」やIAS第11号「工事契約」といった基準書によって売上の処理が定められていましたが、新しい公開草案に置き換わることになります。

日本での国際会計基準適用を考える上で「売上を計上するタイミングが変わる可能性がある」というトピックは重要な問題としてよく挙げられているので、ご存知の方が多いと思います。
日本の会計基準では売上の計上は特に明文化された基準がなくそれまでの慣行に従って決めていることが多いのですが、国際会計基準では計上の要件が定められているため、この要件に照らすと従来の日本の慣行が認められなくなるのではないか、ということが問題とされていたのです。

今回公表された国際会計基準の公開草案では、この要件についても従来のものから変更されています。

従来のIAS第18号では重要なリスクと経済的便益が買い手に移転しているかを重要視していました。つまり、物の占有や所有権の移転などによって収益を認識することになるのが一般的ということになります。そこで物品の販売では出荷時ではなくて先方の検収時に収益を認識すべき場合があると指摘されています。しかし、ただ単純に所有権の移転時に収益認識をしなければならない、というわけではありません。あくまでも取引の実態を総合的に考えて判断することが必要となるので一律に出荷基準が否定されているわけではないのです。

今回の公開草案ではリスクと便益ではなく、支配の移転を重視します。新しいアプローチでは以下の手順で収益を認識します。

1.顧客との契約を識別する
2.顧客への履行義務を独立して識別する
3.取引価格を決定する
4.取引価格を各履行義務に配分する
5.各履行義務を果たした時点に配分された取引価格を収益認識する

1.契約の識別では文書での契約だけでなく口頭や黙示の契約も含めて考えることになりますが、多くの場合は1つの契約書をもって識別することになると思います。

しかし、2.履行義務の識別では1つの契約から複数の履行義務を分けることになる場合もあります。例えば、物品の販売で、顧客に引き渡した後に発生した故障についての製品保証を行なう場合がありますが、これは製品の引渡しとは別の独立した履行義務となります。

3.取引価格の決定では、実際に販売により回収できる金額が取引価格となります。多くの場合が契約上の販売価格となる場合が多いと考えられますが、貨幣の時間価値や顧客の信用リスクにより調整が必要となることがあります。

このように新しいアプローチでは履行義務を別個に把握することが特徴となっています。個々の履行義務が果たされ、物やサービスが実際に顧客の支配となったタイミングで、実際に受け取ることができる金額を収益として認識することになります。

結局のところ、現実の取引に照らして新しいアプローチによりどれだけ収益の認識方法が変わるか、というのが気になるところです。なかなかアプローチを説明しただけでは判断が難しいと感じられる方が多いと思いますが、多くの取引については現行のIAS第18号における処理と大きく変わらないのではないかという印象を受けます。

しかしながら、一部の取引については影響が出る場合があると考えられます。どのような影響が考えられるかは次回取り上げていく予定です。



2010年6月28日月曜日

国際会計基準で当期利益は不要になるのか

国際会計基準は日本基準と根本的に考え方が違います。
このことが個々の規定内容に違いが生じる原因となっています。
今回は財務諸表を作る側の企業だけでなく、見る側にとっても重要な問題である「表示」について考えてみたいと思います。

国際会計基準と日本基準の根本的な考え方の違いでもっとも重要なものに、国際会計基準の採用する「資産負債アプローチ」と日本基準の「収益費用アプローチ」があります。財務諸表に表示される情報の中で何が一番重視するのか、両者は全く正反対の考え方になります。歴史的にみても会計制度はこの二つのアプローチの間で揺れ動いて発達してきています。

これまで長い間、収益費用アプローチが世界的に見ても優勢でした。このアプローチでは損益計算書に表示される収益から費用を差し引いて求められる当期利益が企業業績を示す情報として重要視します。その反面、貸借対照表の資産や負債の価値はあまり重視しないので、企業の保有する資産の時価が低くなっていてもそれが反映されていなかったり、損益計算をより適切に行なおうと計算上擬製された資産や負債が計上されたりします。
そのような状況が行き過ぎると、企業の財政状態が分かりにくいと批判されるようになります。

そこで企業の財政状態を示す貸借対照表を重視しする資産負債アプローチの考え方が採用されるようになってきたわけです。
資産負債アプローチでは、できる限り貸借対照表の資産や負債を時価で評価することになります。時価という客観性の高い評価を行なって財政状態の透明性が確保しようとします。そしてこの考え方を突き詰めると、企業の業績というものは、損益計算ではなく、貸借対照表の純資産の増加分によって図られるべきということになります。この純資産の増加分を包括利益と呼んでいます。収益費用アプローチで重視された損益計算によって出される当期利益とは違うものです。

それでは、売上から費用を差し引いて計算される当期利益は、国際会計基準では重要でなくなってしまうのでしょうか。理論上は包括利益がもっとも重要ということになりますが、現実には当期利益こそ重要な業績指標と考えられていることが多いようです。

現在国際会計基準委員会(IASB)ではこの包括利益の表示方法をめぐって改訂審議が続いています。
長年IASBでは当期利益を廃止して包括利益による業績表示を目指してきましたが、反対があまりにも多く、未だに実現していません。現状ではご存知の通り、当期利益を表示した後の末尾に包括利益を表示する包括利益計算書が採用されています。しかし、この方法だけでなく、損益計算書と包括利益計算書を分ける2計算書方式も認められています。

現在の審議ではこの2計算書方式を廃止しようという提案がなされています。この提案は2010年5月に公開草案として公表されています。

実際、投資家にとっても当期利益を重視して企業の評価を行っている場合が多く、企業としても当期利益を末尾に表示する損益計算書を採用したいという意見が根強くあります。そこで公開草案では当期利益の重要性を軽く見ているわけではないというスタンスを示すため、公開草案では新しい計算書の名前を「当期純利益及びその他包括利益計算書」としています。非常に長い名前で実務上は定着しないかもしれません。

今回の提案は、さまざまな意見を集約し譲歩をしながらも、国際会計基準では包括利益重視を実現しようとするIASBの強い意図が表れているようにも思います。



2010年6月14日月曜日

国際会計基準の金融商品会計に遅れをとるな

金融商品会計については現行のIAS第39号が改訂されている最中ということもあり、「あまりよく分からない」という感想をよく聞きます。実際に私も質問をよく受けるのですが、多くの方が難しさと同時に重要性も感じているようです。

そこで現在の金融商品会計の状況を簡単におさらいします。

IASB(国際会計基準審議会)は金融商品会計の改訂を以下の3つのフェーズで進めています。

①金融商品の分類と測定

このフェーズでは金融資産と金融負債それぞれについて検討することになっています。
金融資産についてはすでに改訂が終わり、IFRS第9号として公表されています。IFRS第9号について解説した記事もありますので、参考にしてください。

簡単にまとめると、有価証券などの金融資産は公正価値で測定するものと償却原価で測定するものの2分類により、評価を行ないます。

この分類では、
・金融資産について貸付金としての性格がある
・企業としてもその金融資産の元本と利息を回収するように管理を行なっている
という要件を満たした場合に償却原価で測定するものと判定されることになります。つまり、株式などの有価証券、組込みデリバティブなど多くの金融資産は公正価値で測定することになります。これまでの企業の保有目的などに基づいた分類とは違う考え方になりました。

一方、金融負債は現在公開草案を公表し検討が続けられています。

金融負債は公正価値オプションを選択した場合、企業自身の業績悪化により倒産リスクが高まると自己の負債の公正価値が下がり、その分利益が認識されるという処理がなされてきました。企業の業績が悪化すると利益が出るのはおかしいと批判が多かった問題点が扱われています(こちらも過去の記事を参考にしてください)。

②減損
先に触れた金融資産の分類で償却原価で測定されるものについては減損会計が適用されます。国際会計基準では公正価値で評価しない資産は基本的に減損の規定が作られています。
減損についても公開草案が出ています。公開草案では金融資産の将来キャッシュ・フローの割引現在価値が簿価と比べて低くなる場合、この差額を減損として損失処理することを提案しています。

③ヘッジ会計
ヘッジ会計というのは原則的な処理をするならば損益として認識されているはずのものを認識しないという特殊な処理を認めるものです。非常に例外的といえる処理であるため、例外や複雑な規定をできるだけ排除したいと考える国際会計基準の方向性と相容れない部分があります。
そこでヘッジ会計の適用範囲を狭め、処理自体も大幅に簡素化するという方向で審議が進められています。しかし、公開草案は当初昨年末までの公表が予定されていましたが、現在もまだ公開草案は出ていません。

このように金融商品会計の改訂で扱われているトピックは非常に重要なもので金融機関だけでなく一般事業会社にも影響があります。すでに公表されたIFRS第9号が公開されるまでの流れを見ても、基準書が確定するまでさまざまな議論が戦わされ、最終の決定が確認できるまで気が抜けない状態でした。

2010年中にはこれらのフェーズすべてが完了する計画となっています。金融商品会計の動向がこれから大いに注目されることになると思います。



2010年5月31日月曜日

直感的に受け入れられない利益を巡る問題:国際会計基準の金融負債

国際会計基準では金融商品会計の改訂が非常に重要な課題で、
急ピッチで作業が進められています。
といっても、
難しい論点が多いため、なかなか改訂作業がスケジュールどおりに
進んでいないのが現状です。

金融負債の評価について
2010年5月に、国際会計基準審議会(IASB)が公開草案の内容を変更する
という動きがありました。

金融負債の評価は
立場によって意見の違いが大きくなかなかアプローチが絞り込めていない状況でしたが、
ここで1つの解決案が示されたことになります。

もともと国際会計基準の金融商品会計では
公正価値オプションという会計処理が認められていて、
一定の要件を満たした金融商品は基準書の原則的な処理の代わりに、
時価評価を行ない、評価差額を当期の損益とする処理をすることができます。

金融資産、金融負債ともに公正価値オプションを適用することができるわけですが、
ここで金融負債に公正価値オプションが適用されると
大きな疑問が生じます。

例えば、企業の業績が悪化すると企業の信用リスクが高くなるので、
社債は金利が上昇し時価が下がります。
公正価値オプションではこのようなときに、社債といった金融負債を時価評価するので負債の額が少なくなります。
この減少額は利益になります。

公正価値による資産・負債の評価を重視する国際会計基準の理論では
特に問題はない、と結論づけられますが、
企業の信用リスクが悪化したことで利益が計上されるというのは
直感的におかしいのではないか、と疑問に思うのが当然です。

信用リスクの悪化による利益をどのように考えるかは
理論と直感で意見が大きく食い違います。

この問題についてはさまざまな意見がありましたが、
投資家からはやはり「直感」を重視する意見が多かったようです。
このような信用リスクの悪化による利益というのは
全く役に立たない情報である、という強い批判がありました。

そこで今回IASBは
公正価値オプションでは金融負債を時価評価する
ただし、
信用リスクにかかる変動についてはその他の包括利益に振り替える、
という新しい提案を行ないました。

理論的である公正価値による負債の評価を採用する一方で
直感と相容れない信用リスク悪化による利益計上を認めない、
両者を折衷した提案であるといえます。

これで負債の評価における信用リスクの扱いについては
方向性が定まったということになると思います。
今回の提案では
理論的な正しさを追求しながらも現実的な要請に対してできるだけ歩み寄り、
合意できるところから随時実行していくという
IASBの姿勢が表れていると思います。

2010年5月24日月曜日

未来の退職給付会計のアプローチ:IAS第19号公開草案

��010年4月に国際会計基準審議会(IASB)はIAS第19号の公開草案を公表しました。



今回の改訂では確定給付型の退職給付に関する規定の改訂が中心となっています。

もっとも注目されている改訂点は

数理計算上の差異などの遅延認識が廃止されたことです。

��この改定点について筆者が解説した記事も参考にしてください)

しかし、その他にも重要な改訂がなされており、退職給付会計の考え方が大きく変わります。



現行のIAS第19号では

退職給付費用は

・勤務費用

・利息費用

・年金資産の期待収益

・数理計算上の差異の償却額

・過去勤務費用

などの総額でした。

これは日本基準でも同じです。



一方、公開草案ではこれまで1つにまとめられていた退職給付費用を

以下の構成要素に分けて表示することになります。



・雇用の構成要素(勤務費用)ーー当期損益

・財務の構成要素(財務費用)ーー当期損益

・再測定の構成要素(数理計算上の差異など)ーーその他の包括利益



基本的に、

現行の退職給付会計で勤務費用や利息費用、年金資産の期待運用収益は

当期損益として認識することになります。



その他の数理計算上の差異など利回りやその他の数理計算の仮定の変動によって生じる差異は

すべてその他の包括利益で認識することになります。



そして、

財務費用の計算はこれまでの計算手法と異なります。

財務費用には退職給付債務の割引計算に伴う利息費用と

年金資産からの期待運用収益が含まれることになりますが、

期待運用収益の計算には

これまでの期待運用収益率は使いません。

退職給付債務の割引率と同じになります。



財務費用を生じさせる資産側と債務側のどちらからも同じ利率で計算するのが整合的と考えられるからです。



ちなみに

日本基準では割引率の決定に国債の利回りを参照しますが、

国際会計基準では優良社債の利回りに基づくことになります。

国債の利回りは退職給付債務の額が過大になると考えられているため、

採用することはできません。



このように国際会計基準では退職給付会計の考え方が変わってきています。

退職給付会計は特別な計算手法を用いることもあり難しい分野ですが、

どのような考え方になっているのか仕組みをしっかりおさえておくべきところです。

2010年5月12日水曜日

5月26日セミナーのご案内

この度、

金融財務研究会主催のセミナーを開催することになりました。

IFRSの情報収集、勉強を熱心にやっておられる方が多く、

次に「何をやるべきか」を知り、行動に移る段階にきているのではないかと思います。

そこで、今回のセミナーは、

初年度必須経営課題への対応

〜IFRS適用への優先課題〜

と題しまして、

適用初年度に焦点を当てて、日本企業の課題を確認していこうと思います。

適用初年度はIFRS第1号といった特別な会計処理の適用がありますし、

日本基準からIFRSへ移行したことによる影響が期首の剰余金の修正という形で一気に出ます。

このような初年度特有の論点は見落としがちですが、むしろ重要な問題で必ずおさえておくべきです。

また、

初年度までに対応しなければならない課題はいろいろありますが、

グループ会社管理や資産管理、投資戦略などの見直しなども必要となってきます。

早い段階から着手すべき優先課題を把握し取り組まなければなりません。

このように見落としがちな問題や優先課題とその対応方法を解説していきます。

今後の対応準備の進め方など、日本の先行事例なども交えて、お話していきたいと考えています。

日時:2010年5月26日(水)13時より

場所:金融財務研究会本社ビル グリンヒルビル セミナールーム(茅場町)

ご興味のある方は

金融財務研究会のHPよりお申し込みください。



2010年5月10日月曜日

企業年金のリスクに向き合う:国際会計基準退職給付会計の改訂案

2010年4月に国際会計基準審議会(IASB)からIAS第19号の公開草案が発表されました。
今回の改訂は主に確定給付型の退職給付を対象としています。

改訂事項で一番大きな変化は
退職給付にかかる資産と債務の変動がすべて当期に認識することとなり
コリドー・アプローチや遅延認識が廃止された、という点です。

コリドー・アプローチというのは退職給付にかかる数理計算上の差異が
一定の額(年金資産か退職給付債務の額が大きい方の10%)を
コリドー(回廊)として、コリドーの範囲内の変動は認識しないというものです。

日本基準にはコリドー・アプローチがありませんが、
重要性基準という考え方を採用しているので、
国際会計基準と同じように一定の数理計算上の差異を認識しないことになります。

どちらの基準においても一定の枠を超えた数理計算上の差異を
一定の年数で償却するなどの遅延認識が行なわれてきました。

公開草案ではこのようなコリドーや遅延認識を廃止することが提案されていますが、
すべての変動を当期損益として認識するわけではありません。

退職給付にかかる変動を今までとは違った方法で分解し、別々に認識します。

公開草案では
・雇用の構成要素(勤務費用)ーー当期損益
・財務の構成要素(財務費用)ーー当期損益
・再測定の構成要素(数理計算上の差異など)ーーその他の包括利益

基本的に、
現行の退職給付会計で勤務費用や利息費用、年金資産の期待運用収益は
当期損益として認識することになります。

その他の数理計算上の差異など利回りやその他の数理計算の仮定の変動によって生じる差異は
すべてその他の包括利益になります。

一般的に、この新しい方法を適用すると
退職給付会計で当期損益に与える影響は小さくなり、
その他の包括利益として認識する金額は大きく、さらに毎期大きく変動する可能性があります。
そして、企業の純資産も大きく変動するリスクにさらされます。

このような会計処理は国際会計基準より前にイギリスですでに導入されていたそうです。
イギリスでもこの処理の導入には企業からの反発が大きかったものの、
導入後はマネジメントが退職給付や年金の運用状況をそれまで以上に
真剣に議論するようになったそうです。

国際会計基準では投資家保護が目的であり、
資産や負債の期末時点での価値が財務諸表に表示されるように
個々の会計基準を定めています。
企業年金も例外ではなく、
たとえ年金資産の運用悪化が一時的な市場の変動であっても、
割引率の変動が経営上回避できないものであっても、
その状況を財務諸表上に表示されなければならないと考えるのです。

国際会計基準はこの目的のためにこれからもまだまだ変わっていくことになります。
しっかりフォローしていくことが重要です。

2010年4月26日月曜日

金融庁の「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」を誤解しない

2010年4月、金融庁から「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」という文書が公表されました。

国際会計基準について誤解を招く情報が流布しているという指摘が多く、よくある事例を取り上げて正しい理解を促そうとしています。

以前、内部統制報告制度(J-SOX)が導入されるときにも
情報が錯綜し対応する企業で混乱が生じ、
金融庁は似たような文書を公表したことがありました。
この時は文書の公表が遅かったという批判があり、
今回は早めの対応を行なったというところでしょう。

内容を見てみると、
全般的事項として

「ITシステムの全面的な見直しが必要か」
「社内の人材のみではIFRSに対応できないのではないか」
「監査が厳しくなるのではないか」

といった「誤解」が取り上げられています。
どの「誤解」についても金融庁は
NO
と答えています。

システムは
必要な範囲で改修を行なえばいいのだし、
人材も
社内で研修や検討を進めることで体制を整えることも可能です。
監査についても
会計処理の考え方を自ら説明することが重要なのであって
厳しくなるわけではないということになります。

確かにその通りです。
国際会計基準が導入されるからといって
業務もシステムも監査もすべてが
全く変わってしまうということではありません。

しかし、何も変わらないということは絶対にありません。
具体的には何が変わるのでしょうか。
個別的事項を見てみます。

個別的事項として挙げられているものをいくつか例示すると、

「売上計上基準に出荷基準や工事進行基準が適用できなくなるのではないか」
「減価償却方法は定率法が使えなくなるのではないか」

といったものがあります。これらは変わるとしたら影響が大きいところです。

金融庁の説明では
売上の出荷基準も減価償却の定率法も
国際会計基準で禁止されているわけではなく、
基準のプリンシプル(原則)に照らして判断する、
ということになっています。

つまり、何を変えるのかは
企業が自分で判断しなければならないのです。

誤解は解かれましたが、誤解がなくなって一安心、ではなく、
実は非常に難しい問題に直面していることが分かります。

日本の会計基準は細則があったので、
「基準のここに従う、実務指針のこの規定を使う」ということで
会計処理は決まっていましたが、
国際会計基準ではそうはいきません。
「企業の実態を理解して、プリンシプルに照らして判断する」ことが必要なのです。

日本の会計基準は基準そのものだけでなく、
実務指針がたくさん用意され、
それらには日本の慣行や実務への配慮がうまく織り込まれているので
プリンシプルに照らしていちいち判断するという余地は少なく
使い勝手が良かったと思います。
しかし、国際会計基準は非常にシンプルで、
そういう行き届いた配慮はありません。
適用には専門的な判断を必要とします。

確かに国際会計基準が導入されるからといって
システムを入れ替えなくてはならないということはなく、
高いコンサルティングを入れたり、
大手の監査法人に監査人を変更したりすることも必須ではありません。

しかし、国際会計基準を適用することは
原則主義の会計基準の導入であり
今まで経験したことのないことに自分たちが直面することになります。
用意周到であるには超したことがありません。
いろいろな情報がありますが、今回の金融庁の文書も含めて
「誤解」することなく、国際会計基準への理解を深めていくことが重要です。

2010年4月19日月曜日

国際会計基準と株価の気になる関係


国際会計基準は投資家のための会計基準です。
投資家への情報提供が重視されていて、
その企業が投資に値する価値があるのか
ということを判断するために必要な情報を開示することが求められています。
この「必要な情報」は非常に広範にわたっていますので、
これから国際会計基準を適用することになる日本企業では
開示に対しても準備をしっかりと進めていかなくことが重要です。

それだけいろいろな情報を開示した結果、
市場ではどのような反応が起きるのでしょうか。

市場の反応についてはEUの国々を事例として国際会計基準と株価の関連性を検証したいくつかの研究があります。

それによると
イギリスやフランスの市場において、
国際会計基準の適用初年度後、最初の3ヶ月の株価の変動と
各国の会計基準と国際会計基準による利益額の差異には
高い相関関係があったという報告があります。
(ICAEW: EU IMPLEMENTATION OF IFRS AND THE FAIR VALUE DIRECTIVE)

このような研究はまだ初期段階で
今後より実証研究が進められることになると思います。

最近は新興国などの株式市場が急成長を遂げていますが、
日本市場もヨーロッパに並んで大きな株式市場です。
日本市場においても国際会計基準の適用の影響は大きいと思います。

国際会計基準が適用されることにより、企業の利益の額は大きく変わる場合があります。
投資家に対してきちんと説明をして情報を伝えていかなくてはなりません。

2010年4月5日月曜日

国際会計基準でキャッシュ・フロー計算書は変わる?変わらない?

キャッシュ・フロー計算書は
貸借対照表、損益計算書とともに企業の財務諸表として定着していますが、
企業の本業に関連するキャッシュの流れを示す
営業活動によるキャッシュ・フローの表示方法は
直接法と間接法のどちらかを任意で選択することができます。
これは日本基準も国際会計基準も同じです。

現状では日本でも海外でも
間接法を採用している企業がほとんどです。
オーストラリアでは直接法のみと決められているので、
直接法での開示がなされているようです。

間接法が主流なのは作成しやすいからです。
間接法では損益計算書の利益の額から
キャッシュ・フローの増減項目を調整しキャッシュ・フローを求めます。
損益計算書と期首と期末の貸借対照表があれば作成できます。

それに対して直接法では
仕入れや販売などに使ったキャッシュ・フローをそれぞれ集計します。
取引ごとのキャッシュ・フローを記録しなければならなくなるので
システム上対応が必要となりますし、取引の処理も手間がかかります。

国際会計基準審議会(IASB)では現在
財務諸表の表示全般を検討していて、その中に
キャッシュ・フロー計算書を直接法に統一するという提案があります。

かなり前から提案はなされているのですが、
作成の負担が重すぎるということで反対意見も多く、
なかなか結論が出ません。

コンバージェンスプロジェクトとして
米国会計基準とも足並みを揃えて改訂する予定となっており、
双方で合意に達するのが難しいようです。
このようなときには
「難しい問題はとりあえず置いておいて、お互い歩み寄りやすいところから合意していく」という方法がよくとられます。

そこで、
金融機関のキャッシュ・フロー計算書は直接法に統一するということが
暫定的に合意されています。

最終的に金融機関のみに限定されるのか、すべての企業に直接法が適用されるのか、まだはっきりとは分からない状況です。
直接法に統一されるとキャッシュ・フロー計算書作成の負担は非常に
重くなります。
日本企業での国際会計基準適用に際して重要な課題になってくると思います。

プロジェクトのスケジュールによると
もうそろそろ公開草案が出される予定です。
どのようなものになるのか注目されます。



2010年3月29日月曜日

国際会計基準は企業の資金調達にメリットとなるのか

国際会計基準は最近日本でもかなり注目を集めるようになりました。

会計基準の話とはいえ、単なる経理処理の問題では済みません。

国際会計基準ベースで企業の決算を開示することになるので

企業と投資家のコミュニケーションは大きく変わることになります。

国際会計基準は広く世界で採用されているので

資金調達の面で以下のようなメリットがあると言われています。


  • 海外企業と財務諸表の比較可能性が高まり、海外の投資家にもアピールできる

  • 財務諸表の透明性が高まり、資本調達コストが低くできる

  • グローバルでの資金調達が容易になり、資金調達の選択肢を広げることができる


一般論でよく言われていることとはいえ、本当にそうなのか、という疑問があります。

この疑問に対して、すでに国際会計基準が定着しているEUでは実証研究が試みられています。

そのひとつに、国際会計基準が企業の資金調達コストにどのような影響を与えているか

調査しているものがあります。

それによると、


  • 比較的規模の大きい企業で

  • エクイティファイナンスを中心に行なっている

  • 海外からの投資の比率が高い


という企業については、資金調達コストが下がっているという報告が多いようです。

また、EU諸国ではドイツなどのように強制適用の前に

国際会計基準の任意適用を認めている国もありました。

そのような国で任意適用を行なった企業の方が強制適用時に導入した企業より

資金調達コストが低くなる傾向を示したということです。

(ICAEW: EU IMPLEMENTATION OF IFRS AND THE FAIR VALUE DIRECTIVE)

このような実証研究もまだ初期段階で確定的な結論が得られるところまでには至っていないのですが、

企業財務への影響を考える上で参考になります。

国際会計基準は投資家保護を非常に重視している会計基準です。

財務やIRといった観点からも国際会計基準導入の意味を考えるべきです。



2010年3月15日月曜日

退職給付引当金の積み立て不足を巡る日本と世界の最新動向

従業員への退職金は

企業にとって非常に大きい債務なのですが、

実際に支払われるのは従業員が退職した後ずっと先のこととなります。

このように、すぐ支払わなくてはならない買掛金や支払う期日が決まっている借入金等

他の債務とは違う性質があるため、

企業年金などの退職給付に関する会計処理は以下のような特別な方法がとられています。

まず、従業員が退職してから払う退職金の額を見積もって、

そこから割引計算を行なうことによって現在の債務を算定します。

そして、年金資産としてすでに積み立てている資産分を差し引いた純額が

企業が負担している債務なのですが、見積りで計算を行なっているため実際の額と差が生じます。

それらについて、一気にオンバランスせず、

プラスになったりマイナスになったりする毎年の差異が

長期にわたって相殺され解消されるはずなので平準化して処理します。

具体的には差異の部分については従業員の勤務期間などの年数をかけて償却することとしています。

つまり、償却が済んでいないものは未認識項目としてオフバランスされることになります。

また、この償却の方法については日本基準が一定の年数で定額の償却を行なうのに対して、

国際会計基準ではコリドーアプローチという違う方法が採用されています。

しかし、この未認識項目をオフバランスする、という考え方は覆されようとしています。

例えば、経営破綻したGMには従業員の医療保障など多額の従業員給付が未認識であったことも話題になりましたし、

日本でもJALの退職年金が非常に経営を圧迫していたことがクローズアップされました。

経営を圧迫しかねない大きな債務を計上しないというのはおかしいという意見が多くなりました。

国際会計基準では

コリドーアプローチといった遅延認識は廃止して

これまでの未認識項目をすべて即時認識するという方針がすでに決まっています。

しかし、具体的にどのような処理にするかというところでは

審議が難航しているようです。

現在のところ、

勤務費用と利息費用を当期利益で認識し、

数理計算上の差異と年金資産からの収益(一部は当期利益で認識されます)を

その他の包括利益で認識することが暫定的に決定してます。

退職給付の未認識項目は負債の部に一括して計上することが

日本の会計基準でも採用されることになりました。

日本基準を適用している現状でも国際会計基準の影響は非常に大きいと思います。

退職金制度については企業の財政状態を一気に悪化させる可能性もあるので

制度の見直しや資本増強などの対応が必要となる企業が多いと考えられます。



2010年3月1日月曜日

SECが国際会計基準の導入への声明を発表

アメリカでの国際会計基準の適用については前共和党政権下で推し進められてきましたが、

政権交代と世界的な経済危機といった状況の変化もありトーンダウンしている様子でした。

また、国際会計基準の設定にはEUの政治的圧力などの影響を受けているのではないか、という疑念もあり、

国際会計基準の導入について懐疑的な意見も出ていたようです。

すでに世界的には多くの国で適用されている国際会計基準ですが、

アメリカの動向は非常に重要な問題です。

現在は米国会計基準と国際会計基準はコンバージェンスプロジェクトを通じて両者を近づけようとしています。

アメリカの場合は、国際会計基準の改訂と同時に行なわれているので、米国会計基準の考え方が国際会計基準にも大きな影響を与えています。

日本で進められているコンバージェンスでは、日本基準が国際会計基準の規定を取り込んでいくことになるので、

米国会計基準と国際会計基準のコンバージェンスの後を追いかけているような形になっています。

アメリカがどのような判断をするかということが、日本の制度にも大きな影響を与えます。

そのような状況の中、2010年2月24日にSECから声明文が出されました。

ここではSECが国際会計基準の導入を推進していくことが確認されています。

アメリカの国際会計基準導入に向けての準備作業が進められていくことになりますが、

これまでの計画よりも長い準備期間を取ることになっています。

コンバージェンスやその他の準備作業を進めて2011年にIFRS導入を決定することはこれまでと変わりがないのですが、

企業での準備期間がかかると考え2015年より早い段階での適用はないとされています。

これまでは3年の準備期間を想定していましたが、

アメリカで4〜5年の準備期間が必要と考えるのは妥当なところだと思います。

ヨーロッパは大体3年程度で概ねスムーズな移行がなされたと言われていますが、

イギリスなどかなり国際会計基準に近い会計基準を持っていた国もありましたし、

実際には間に合わず「やっつけ仕事」での対応を行なったため過大な負担を負った企業もあるようです。

EUでの反省として、早い段階から準備しておけばよかった、という声は多いのです。

SECでは教育と経験を通じて十分な準備を行なうことの必要性を改めて指摘していますが、

企業での取り組みが重要であることはSECの指摘を待つまでもなく、これまでと変わりありません。

日本で国際会計基準を導入しないということはまず考えられませんので、置かれている状況は同じです。

標準的に考えても5年くらいという息の長い取り組みになりますが、着実に進めていかなくてはなりません。



2010年2月16日火曜日

IFRSアカデミー@Roppongi Hillsのお知らせ

この度、

IFRSアカデミー@Roppongi Hills 

IFRS, Strategy and Value -IFRS における経営戦略と企業価値

と題して特別ワークショップを開催することになりました。

IFRSがひとつのブームとなっているような状況ですが、

結局IFRSが企業経営に与える影響とは何なのでしょうか。

「企業経営が大きく変わる」と騒がれたり、「騒ぐ程大きな影響はない」と静観したり、

いろいろな論調で語られていますが、

そろそろ経営者としてIFRSをどう捉えるのか、考えておく時期にきているのではないでしょうか。

このワークショップでは、株式会社スリー・シー・コンサルティングの武田さん、株式会社イージフの会計コンサルティングチームといった会計士による特別講義により、

IFRSの理解を深め、CEOやCFOの方同士での情報共有を図りながら経営上の影響を考えていきます。

六本木ヒルズのカンファレンスルームにて軽食をとりながら、IFRSと企業経営について考えてみませんか。

【IFRSアカデミー@Roppongi Hills】

日程:2010年 3月4日(木)、4月8日(木)、5月13日(木) 全3日間

時間:18:00〜21:00

     (会場では軽食をご用意しております)

場所:六本木ヒルズ内・六本木アカデミーヒルズ 49Fカンファレンスルーム

対象者:CFO・CEO、または同等の方

参加費:¥31,500(税込)

     *3回セット。各回の個別のお申し込みは受付ておりません。

定員:28名

     *定員になり次第締め切りとさせていただきますので、予めご了承ください

主催:株式会社イージフ/株式会社スリー・シー・コンサルティング

講師

  株式会社スリー・シー・コンサルティング

  コンサルティング事業部長・公認会計士 武田雄治



  株式会社イージフ

  公認会計士 藤井健一郎

  公認会計士 野口由美子

  公認会計士 中川 宏介

お申し込みはは弊社HPからお願いいたします。



国際会計基準の収益認識が改訂される:製品保証はどう扱う?

国際会計基準と日本の会計基準の特徴的な違いとして
収益認識はトピックとしてよく取り上げられます。

日本の会計基準ではこれまで収益認識について定める会計基準がなく、商慣行などに基づいて売上を計上してきました。
それに対して、国際会計基準では基準書に収益認識の要件が
定められています。
売上を「実現主義」で認識するという考え方は同じなのですが、
国際会計基準の要件に照らすと、
日本基準での売上計上タイミングと違う場合が出てくると考えられています。

しかし、一方で国際会計基準側でも収益認識は見直しがなされています。
国際会計基準審議会(IASB)では去年収益認識に関する討議資料を公表しています。
2010年の第2四半期には公開草案を出し、
2011年には基準書が改訂される予定です。

現在検討されている収益認識とはどのようなものなのでしょうか。

討議資料では「顧客との契約」に注目した収益の認識基準が提案されています。
契約上の履行義務が果たされた時、というのが収益認識のポイントになります。

たとえば、製品保証などで、製品に欠陥があった場合、
欠陥品については交換しなければならないという取引はよくありますが、
このような取引はどう考えるのでしょうか。

製造上欠陥のある製品を交換しなければならない契約であれば、
欠陥品を引き渡しても契約上の義務を履行したことにはなりません。
そこで、
欠陥のある製品を交換することが求められる場合には、企業は、そのような製品に対しては収益を認識しないことになります。

また、
欠陥のある資産を修理することが求められる場合には、企業は、修理によって交換することが必要となる構成要素に対応する部分に対しては、収益を認識しません。

このように製造上の欠陥を保証するものではなく、
製品保証の目的が、製品引渡後に生じた欠陥をカバーするものである場合は、
その保証は独立した履行義務を生じさせると考えて、
別の義務を認識します。
そのため、取引価格の一部を当該履行義務に配分する処理を行ないます。

通常、製造上の欠陥が存在する製品については交換が必要になることが多いと考えられます。
返品や交換については、これまで取引会社間の慣行で対応してきた場合も多く、
はっきりと契約で明記されていないこともあります。
改めて、取引先との契約関係を見直すことから始める必要があるでしょう。

国際会計基準の基準書として確定するのにはまだ時間がありますが、
収益認識の改訂については随時動向を追っていきたいと思います。

2010年2月8日月曜日

時価が分からないときの時価会計とは

国際会計基準では、

よく紹介されているように

時価会計、公正価値による測定を重要視します。

IFRS第9号に規定されている金融商品の測定では、

特定の要件を満たした金融資産は償却原価で測定することになりますが、

それ以外は公正価値で測定することになります。

また、

固定資産の会計処理では

日本基準にはない、再評価モデルが認められます。

再評価モデルを選択すると固定資産を取得原価で据えおかずに、

公正価値で再評価を行なうことになります。

非常に公正価値の適用場面は多いので、

公正価値についてはいろいろな基準書で別々に規定が定められてきましたが、

現在、公正価値測定ガイダンスの公開草案が公表されており、

どのように公正価値による測定を行なうのか、包括的なガイダンスが検討されています。

そこではどのように公正価値を測定するのか参照する情報や評価技法について決められるわけですが、

むしろ問題になるのは、

公正価値、時価が入手できない場合です。

公正価値測定ガイダンスの公開草案でマーケットデータなどが分からない場合でも

仮想市場を想定した価格を算定することを提案していますが、

具体的な方法については触れられておらず問題になっていました。

そこで、国際会計基準審議会(IASB)ではこの問題についてコメントを募集し、

日本公認会計士協会からも意見を出しています。

この中では、

日本の場合も市場の発達した国に比してマーケットデータの制約が大きいという問題が

実務上存在すると指摘しています。

個別に非上場株式と事業用資産の公正価値測定について具体的なガイダンスの必要性を述べています。

今後どのようなガイダンスが出されるか注目していきたいところです。

それにしても、

日本公認会計士協会が意見内で日本は市場の発達した国ではないと認めていることもありますが、

日本がIFRSの時価会計とつきあっていくというのは苦労が多いのかもしれません。



2010年2月1日月曜日

IFRS導入のコストをかけない

日本でのIFRSの導入にあたって
早期適用を検討している大企業などでは
すでに全社プロジェクトとして動き出しているところもあるようです。



しかし、多くの企業では
本格的な検討に着手し始めているとはいえ、
プロジェクトの発足というところまで進んでいないかもしれません。



背景には
最近の経済情勢がなかなか上向いてこないことや、
まだまだ日本でどのような適用になるのか見えてこないという
もどかしさもあるようです。



IFRSの対応で、実際にまず問題になってくるのは
コストのことだと思います。
実際のコストを見積るには調査、検討が必要になりますが、
海外の例を参考にすることもできます。



イングランド・ウェールズ勅許会計士協会(ICAEW)がEUのIFRS導入についての報告書を出しています。
日本の私たちにも非常に参考になります。
ここでのEUの事例では以下のようになっています。


               

売上高500Mユーロ(625億円)以下の企業  売上高の0.31(2億円弱)



売上高500M5000Mユーロ(625億円〜6,250億円)の企業  売上高の0.05(3千万円〜3億円)



売上高5000Mユーロ(6,250億円)以上の企業  売上高の0.05(3億円以上)



EU Implementation of IFRS and the Fair Value Directive)



(円換算は1ユーロ=125円で換算)






大企業ほど導入にコストがかかるのは予想通りだと思います。



しかし、小規模の企業と中規模の企業で比較すると逆転して、規模の小さい企業の方がコストがかかってしまうという状況が生じています。



一般的には大企業の方が複雑な取引が多いなどの理由で、IFRS対応のコストがかかると考えられますが、



そのこと以上に、小規模な企業では内部の人員だけでは対応できず外部のリソースに頼らなくてはならない部分が多くなりコストがかかっているようです。



また、この報告書で大企業では導入時のコストが高くなるがその後のランニングコストは大企業の方が低くなっていると指摘されています。



実際にIFRSの対応を検討してみると、簡単にいうと、



初期投資を増やしてシステムなどで対処するか、



マニュアル作業を増やして「力技」で対処するか、



という選択肢を考えることになる場面が多いと思います。



IFRSへの修正を手作業で行なうといった対処法は初期の導入コストを減らすことができますが、



その後ずっと作業負荷が重くなってしまい、経理部門を中心に負担が大きくなるでしょう。



だからといって、すべてをシステム処理にすれば解決、というものでもありません。



費用対効果でみていくことになるでしょう。



どのように導入コストを抑えていくか、ということが重要なのは確かですが、



うまく対処していくには、やはり早期から検討を進めていくことが必要だと思います。












2010年1月25日月曜日

国際会計基準の引当金が変わる:IAS37の公開草案

国際会計基準審議会(IASB)は2010年1月にIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」の改訂を再提案する公開草案を公表しました。



この公開草案では、引当金の測定方法が大幅に変更されることになります。



現行の規定では、引当金は
(1)過去の事象の結果として現在の義務を有していて
(2)義務を履行するための経済的便益のある資源が流出する可能性が高く
(3)金額を信頼性を持って見積可能である
ことが要件になっています。
基準書に明記されていることで、(2)の「可能性が高い」というのは50%を超える可能性を指しています。



現行では発生する可能性が低ければ引当金を認識することはありません。
認識する場合は支払金額の最善の見積りにより測定されることになり、最も可能性の高い金額をもって引当金とする場合が多いと考えられます。
また支払金額自体も直接的な費用のみで検討していると思います。



一方、今回の公開草案では
企業が有する義務の期待現在価値を測定するアプローチが採用されています。
このアプローチでは、企業の義務について予想されるすべての結果を加重平均して測定されます。
可能性が50%以下の場合でも、期待値の加重平均で認識が必要となります。
また、直接的な費用だけでなく、義務の履行に必要な間接的な費用も含まれることになります。
この加重平均した金額から貨幣の時間価値を考慮して割り引きます。



今回の公開草案によると、それだけでなく期待値から実際の支払額が乖離するリスクも見積もらなくてはなりません。
例を見ると、5%など率でこのリスクを見積もることが想定されているようですが、実際には判断が難しいところだと思います。



引当金の計上が必要になる場合というのは、
和解金や違約金など企業にとって債務を負うだけでなく企業イメージの低下など悪影響を及ぼすことが多いので、
現実には計上が遅れがちになるようです。
今回の公開草案では発生可能性がそれほど高くなくても引当金が必要となるので、引当金の計上が早い段階で行なわれます。
実務への影響は大きいのではないでしょうか。



2010年1月18日月曜日

国際会計基準導入のカギは:先行導入国に学ぶ

日本でも国際会計基準が適用される見通しとなり、
各方面で着々と準備が進められています。



企業会計審議会などから国際会計基準の日本語訳が発行されました。
金融庁からは国際会計基準に基づく連結財務諸表の開示例が公表されています。
個々の企業でも国際会計基準自体を知るという段階から
自社の影響を分析するといった検討が始まっています。



こうなってくると、先行して国際会計基準を適用している海外の状況が気になってきます。



2011年に国際会計基準を適用するカナダでは、
すでに本番に向けて日本より先行して準備が進められています。



カナダでもやはり導入にあたっての混乱はあったようで、
ひとつ問題になったのが、ガスなどの料金規制産業に属する企業の会計処理です。
このような企業では原価を料金として回収し、一定の利益を確保した上で
超過した分は還元します。
このような企業活動の会計処理についての基準書がなかったのです。



カナダからの問題提起についてはインドでも同様の問題が指摘され、
またすでに導入されているEUなどでも同じ問題が認識されました。



そこで、国際会計基準審議会(IASB)は新しい基準書を開発することにしました。
カナダからの問題提起が2008年で、
2009年にはプロジェクトが発足し、現在公開草案が公表されています。
2010年の上期には基準書の公表となる予定です。



このように新規の国によって問題点が発見され、
新しい基準書が作成されるということがあるのです。



IASB議長が指摘していますが、
新しく導入した国では必ずといっていいほど
予期できないような思いがけない問題が起きるものです。
それに対してIASBも十分なサポートを行なっていくとのことですが、
問題の発見にはその国での十分な検討が必要になります。



今年は日本でも国際会計基準についての議論が活発になって
国際会計基準の発展に貢献できるような問題提起ができればいいと思います。



重要なのは、早期発見、早期対応、ということではないでしょうか。





2010年1月13日水曜日

IFRSセミナーのお知らせ

今日はセミナーのお知らせです。



昨年に続き、金融財務研究会でセミナーを開催します。



IFRS金融商品の入門から最前線へ
        〜最新の基準書IFRS第9号を中心に〜



ということで、昨年公表されたIFRS第9号の内容を中心に解説します。



最近いろいろな場でIFRSの話をさせていただくことが増えましたが、基本的な考え方や用語を改めて確認しておく必要性を感じている方が多くいらっしゃるように思います。



いきなり各論に入ってしまうと、基本的な概念が分からないため内容を誤解してしまうことも多いようです。



このセミナーでは基本的な考え方を理解することに重点を置き、IFRSの会計観を改めて確認したいと考えています。



また、最新の基準書や審議の動向を紹介するので、最前線の話題にも多く触れることができます。



1月29日の午後に開催します。
興味のある方は是非ご参加ください。



お申し込みは金融財務研究会のHPよりお願いいたします。