2010年3月29日月曜日

国際会計基準は企業の資金調達にメリットとなるのか

国際会計基準は最近日本でもかなり注目を集めるようになりました。

会計基準の話とはいえ、単なる経理処理の問題では済みません。

国際会計基準ベースで企業の決算を開示することになるので

企業と投資家のコミュニケーションは大きく変わることになります。

国際会計基準は広く世界で採用されているので

資金調達の面で以下のようなメリットがあると言われています。


  • 海外企業と財務諸表の比較可能性が高まり、海外の投資家にもアピールできる

  • 財務諸表の透明性が高まり、資本調達コストが低くできる

  • グローバルでの資金調達が容易になり、資金調達の選択肢を広げることができる


一般論でよく言われていることとはいえ、本当にそうなのか、という疑問があります。

この疑問に対して、すでに国際会計基準が定着しているEUでは実証研究が試みられています。

そのひとつに、国際会計基準が企業の資金調達コストにどのような影響を与えているか

調査しているものがあります。

それによると、


  • 比較的規模の大きい企業で

  • エクイティファイナンスを中心に行なっている

  • 海外からの投資の比率が高い


という企業については、資金調達コストが下がっているという報告が多いようです。

また、EU諸国ではドイツなどのように強制適用の前に

国際会計基準の任意適用を認めている国もありました。

そのような国で任意適用を行なった企業の方が強制適用時に導入した企業より

資金調達コストが低くなる傾向を示したということです。

(ICAEW: EU IMPLEMENTATION OF IFRS AND THE FAIR VALUE DIRECTIVE)

このような実証研究もまだ初期段階で確定的な結論が得られるところまでには至っていないのですが、

企業財務への影響を考える上で参考になります。

国際会計基準は投資家保護を非常に重視している会計基準です。

財務やIRといった観点からも国際会計基準導入の意味を考えるべきです。



2010年3月15日月曜日

退職給付引当金の積み立て不足を巡る日本と世界の最新動向

従業員への退職金は

企業にとって非常に大きい債務なのですが、

実際に支払われるのは従業員が退職した後ずっと先のこととなります。

このように、すぐ支払わなくてはならない買掛金や支払う期日が決まっている借入金等

他の債務とは違う性質があるため、

企業年金などの退職給付に関する会計処理は以下のような特別な方法がとられています。

まず、従業員が退職してから払う退職金の額を見積もって、

そこから割引計算を行なうことによって現在の債務を算定します。

そして、年金資産としてすでに積み立てている資産分を差し引いた純額が

企業が負担している債務なのですが、見積りで計算を行なっているため実際の額と差が生じます。

それらについて、一気にオンバランスせず、

プラスになったりマイナスになったりする毎年の差異が

長期にわたって相殺され解消されるはずなので平準化して処理します。

具体的には差異の部分については従業員の勤務期間などの年数をかけて償却することとしています。

つまり、償却が済んでいないものは未認識項目としてオフバランスされることになります。

また、この償却の方法については日本基準が一定の年数で定額の償却を行なうのに対して、

国際会計基準ではコリドーアプローチという違う方法が採用されています。

しかし、この未認識項目をオフバランスする、という考え方は覆されようとしています。

例えば、経営破綻したGMには従業員の医療保障など多額の従業員給付が未認識であったことも話題になりましたし、

日本でもJALの退職年金が非常に経営を圧迫していたことがクローズアップされました。

経営を圧迫しかねない大きな債務を計上しないというのはおかしいという意見が多くなりました。

国際会計基準では

コリドーアプローチといった遅延認識は廃止して

これまでの未認識項目をすべて即時認識するという方針がすでに決まっています。

しかし、具体的にどのような処理にするかというところでは

審議が難航しているようです。

現在のところ、

勤務費用と利息費用を当期利益で認識し、

数理計算上の差異と年金資産からの収益(一部は当期利益で認識されます)を

その他の包括利益で認識することが暫定的に決定してます。

退職給付の未認識項目は負債の部に一括して計上することが

日本の会計基準でも採用されることになりました。

日本基準を適用している現状でも国際会計基準の影響は非常に大きいと思います。

退職金制度については企業の財政状態を一気に悪化させる可能性もあるので

制度の見直しや資本増強などの対応が必要となる企業が多いと考えられます。



2010年3月1日月曜日

SECが国際会計基準の導入への声明を発表

アメリカでの国際会計基準の適用については前共和党政権下で推し進められてきましたが、

政権交代と世界的な経済危機といった状況の変化もありトーンダウンしている様子でした。

また、国際会計基準の設定にはEUの政治的圧力などの影響を受けているのではないか、という疑念もあり、

国際会計基準の導入について懐疑的な意見も出ていたようです。

すでに世界的には多くの国で適用されている国際会計基準ですが、

アメリカの動向は非常に重要な問題です。

現在は米国会計基準と国際会計基準はコンバージェンスプロジェクトを通じて両者を近づけようとしています。

アメリカの場合は、国際会計基準の改訂と同時に行なわれているので、米国会計基準の考え方が国際会計基準にも大きな影響を与えています。

日本で進められているコンバージェンスでは、日本基準が国際会計基準の規定を取り込んでいくことになるので、

米国会計基準と国際会計基準のコンバージェンスの後を追いかけているような形になっています。

アメリカがどのような判断をするかということが、日本の制度にも大きな影響を与えます。

そのような状況の中、2010年2月24日にSECから声明文が出されました。

ここではSECが国際会計基準の導入を推進していくことが確認されています。

アメリカの国際会計基準導入に向けての準備作業が進められていくことになりますが、

これまでの計画よりも長い準備期間を取ることになっています。

コンバージェンスやその他の準備作業を進めて2011年にIFRS導入を決定することはこれまでと変わりがないのですが、

企業での準備期間がかかると考え2015年より早い段階での適用はないとされています。

これまでは3年の準備期間を想定していましたが、

アメリカで4〜5年の準備期間が必要と考えるのは妥当なところだと思います。

ヨーロッパは大体3年程度で概ねスムーズな移行がなされたと言われていますが、

イギリスなどかなり国際会計基準に近い会計基準を持っていた国もありましたし、

実際には間に合わず「やっつけ仕事」での対応を行なったため過大な負担を負った企業もあるようです。

EUでの反省として、早い段階から準備しておけばよかった、という声は多いのです。

SECでは教育と経験を通じて十分な準備を行なうことの必要性を改めて指摘していますが、

企業での取り組みが重要であることはSECの指摘を待つまでもなく、これまでと変わりありません。

日本で国際会計基準を導入しないということはまず考えられませんので、置かれている状況は同じです。

標準的に考えても5年くらいという息の長い取り組みになりますが、着実に進めていかなくてはなりません。