2010年4月26日月曜日

金融庁の「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」を誤解しない

2010年4月、金融庁から「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」という文書が公表されました。

国際会計基準について誤解を招く情報が流布しているという指摘が多く、よくある事例を取り上げて正しい理解を促そうとしています。

以前、内部統制報告制度(J-SOX)が導入されるときにも
情報が錯綜し対応する企業で混乱が生じ、
金融庁は似たような文書を公表したことがありました。
この時は文書の公表が遅かったという批判があり、
今回は早めの対応を行なったというところでしょう。

内容を見てみると、
全般的事項として

「ITシステムの全面的な見直しが必要か」
「社内の人材のみではIFRSに対応できないのではないか」
「監査が厳しくなるのではないか」

といった「誤解」が取り上げられています。
どの「誤解」についても金融庁は
NO
と答えています。

システムは
必要な範囲で改修を行なえばいいのだし、
人材も
社内で研修や検討を進めることで体制を整えることも可能です。
監査についても
会計処理の考え方を自ら説明することが重要なのであって
厳しくなるわけではないということになります。

確かにその通りです。
国際会計基準が導入されるからといって
業務もシステムも監査もすべてが
全く変わってしまうということではありません。

しかし、何も変わらないということは絶対にありません。
具体的には何が変わるのでしょうか。
個別的事項を見てみます。

個別的事項として挙げられているものをいくつか例示すると、

「売上計上基準に出荷基準や工事進行基準が適用できなくなるのではないか」
「減価償却方法は定率法が使えなくなるのではないか」

といったものがあります。これらは変わるとしたら影響が大きいところです。

金融庁の説明では
売上の出荷基準も減価償却の定率法も
国際会計基準で禁止されているわけではなく、
基準のプリンシプル(原則)に照らして判断する、
ということになっています。

つまり、何を変えるのかは
企業が自分で判断しなければならないのです。

誤解は解かれましたが、誤解がなくなって一安心、ではなく、
実は非常に難しい問題に直面していることが分かります。

日本の会計基準は細則があったので、
「基準のここに従う、実務指針のこの規定を使う」ということで
会計処理は決まっていましたが、
国際会計基準ではそうはいきません。
「企業の実態を理解して、プリンシプルに照らして判断する」ことが必要なのです。

日本の会計基準は基準そのものだけでなく、
実務指針がたくさん用意され、
それらには日本の慣行や実務への配慮がうまく織り込まれているので
プリンシプルに照らしていちいち判断するという余地は少なく
使い勝手が良かったと思います。
しかし、国際会計基準は非常にシンプルで、
そういう行き届いた配慮はありません。
適用には専門的な判断を必要とします。

確かに国際会計基準が導入されるからといって
システムを入れ替えなくてはならないということはなく、
高いコンサルティングを入れたり、
大手の監査法人に監査人を変更したりすることも必須ではありません。

しかし、国際会計基準を適用することは
原則主義の会計基準の導入であり
今まで経験したことのないことに自分たちが直面することになります。
用意周到であるには超したことがありません。
いろいろな情報がありますが、今回の金融庁の文書も含めて
「誤解」することなく、国際会計基準への理解を深めていくことが重要です。

2010年4月19日月曜日

国際会計基準と株価の気になる関係


国際会計基準は投資家のための会計基準です。
投資家への情報提供が重視されていて、
その企業が投資に値する価値があるのか
ということを判断するために必要な情報を開示することが求められています。
この「必要な情報」は非常に広範にわたっていますので、
これから国際会計基準を適用することになる日本企業では
開示に対しても準備をしっかりと進めていかなくことが重要です。

それだけいろいろな情報を開示した結果、
市場ではどのような反応が起きるのでしょうか。

市場の反応についてはEUの国々を事例として国際会計基準と株価の関連性を検証したいくつかの研究があります。

それによると
イギリスやフランスの市場において、
国際会計基準の適用初年度後、最初の3ヶ月の株価の変動と
各国の会計基準と国際会計基準による利益額の差異には
高い相関関係があったという報告があります。
(ICAEW: EU IMPLEMENTATION OF IFRS AND THE FAIR VALUE DIRECTIVE)

このような研究はまだ初期段階で
今後より実証研究が進められることになると思います。

最近は新興国などの株式市場が急成長を遂げていますが、
日本市場もヨーロッパに並んで大きな株式市場です。
日本市場においても国際会計基準の適用の影響は大きいと思います。

国際会計基準が適用されることにより、企業の利益の額は大きく変わる場合があります。
投資家に対してきちんと説明をして情報を伝えていかなくてはなりません。

2010年4月5日月曜日

国際会計基準でキャッシュ・フロー計算書は変わる?変わらない?

キャッシュ・フロー計算書は
貸借対照表、損益計算書とともに企業の財務諸表として定着していますが、
企業の本業に関連するキャッシュの流れを示す
営業活動によるキャッシュ・フローの表示方法は
直接法と間接法のどちらかを任意で選択することができます。
これは日本基準も国際会計基準も同じです。

現状では日本でも海外でも
間接法を採用している企業がほとんどです。
オーストラリアでは直接法のみと決められているので、
直接法での開示がなされているようです。

間接法が主流なのは作成しやすいからです。
間接法では損益計算書の利益の額から
キャッシュ・フローの増減項目を調整しキャッシュ・フローを求めます。
損益計算書と期首と期末の貸借対照表があれば作成できます。

それに対して直接法では
仕入れや販売などに使ったキャッシュ・フローをそれぞれ集計します。
取引ごとのキャッシュ・フローを記録しなければならなくなるので
システム上対応が必要となりますし、取引の処理も手間がかかります。

国際会計基準審議会(IASB)では現在
財務諸表の表示全般を検討していて、その中に
キャッシュ・フロー計算書を直接法に統一するという提案があります。

かなり前から提案はなされているのですが、
作成の負担が重すぎるということで反対意見も多く、
なかなか結論が出ません。

コンバージェンスプロジェクトとして
米国会計基準とも足並みを揃えて改訂する予定となっており、
双方で合意に達するのが難しいようです。
このようなときには
「難しい問題はとりあえず置いておいて、お互い歩み寄りやすいところから合意していく」という方法がよくとられます。

そこで、
金融機関のキャッシュ・フロー計算書は直接法に統一するということが
暫定的に合意されています。

最終的に金融機関のみに限定されるのか、すべての企業に直接法が適用されるのか、まだはっきりとは分からない状況です。
直接法に統一されるとキャッシュ・フロー計算書作成の負担は非常に
重くなります。
日本企業での国際会計基準適用に際して重要な課題になってくると思います。

プロジェクトのスケジュールによると
もうそろそろ公開草案が出される予定です。
どのようなものになるのか注目されます。