2010年5月31日月曜日

直感的に受け入れられない利益を巡る問題:国際会計基準の金融負債

国際会計基準では金融商品会計の改訂が非常に重要な課題で、
急ピッチで作業が進められています。
といっても、
難しい論点が多いため、なかなか改訂作業がスケジュールどおりに
進んでいないのが現状です。

金融負債の評価について
2010年5月に、国際会計基準審議会(IASB)が公開草案の内容を変更する
という動きがありました。

金融負債の評価は
立場によって意見の違いが大きくなかなかアプローチが絞り込めていない状況でしたが、
ここで1つの解決案が示されたことになります。

もともと国際会計基準の金融商品会計では
公正価値オプションという会計処理が認められていて、
一定の要件を満たした金融商品は基準書の原則的な処理の代わりに、
時価評価を行ない、評価差額を当期の損益とする処理をすることができます。

金融資産、金融負債ともに公正価値オプションを適用することができるわけですが、
ここで金融負債に公正価値オプションが適用されると
大きな疑問が生じます。

例えば、企業の業績が悪化すると企業の信用リスクが高くなるので、
社債は金利が上昇し時価が下がります。
公正価値オプションではこのようなときに、社債といった金融負債を時価評価するので負債の額が少なくなります。
この減少額は利益になります。

公正価値による資産・負債の評価を重視する国際会計基準の理論では
特に問題はない、と結論づけられますが、
企業の信用リスクが悪化したことで利益が計上されるというのは
直感的におかしいのではないか、と疑問に思うのが当然です。

信用リスクの悪化による利益をどのように考えるかは
理論と直感で意見が大きく食い違います。

この問題についてはさまざまな意見がありましたが、
投資家からはやはり「直感」を重視する意見が多かったようです。
このような信用リスクの悪化による利益というのは
全く役に立たない情報である、という強い批判がありました。

そこで今回IASBは
公正価値オプションでは金融負債を時価評価する
ただし、
信用リスクにかかる変動についてはその他の包括利益に振り替える、
という新しい提案を行ないました。

理論的である公正価値による負債の評価を採用する一方で
直感と相容れない信用リスク悪化による利益計上を認めない、
両者を折衷した提案であるといえます。

これで負債の評価における信用リスクの扱いについては
方向性が定まったということになると思います。
今回の提案では
理論的な正しさを追求しながらも現実的な要請に対してできるだけ歩み寄り、
合意できるところから随時実行していくという
IASBの姿勢が表れていると思います。

2010年5月24日月曜日

未来の退職給付会計のアプローチ:IAS第19号公開草案

��010年4月に国際会計基準審議会(IASB)はIAS第19号の公開草案を公表しました。



今回の改訂では確定給付型の退職給付に関する規定の改訂が中心となっています。

もっとも注目されている改訂点は

数理計算上の差異などの遅延認識が廃止されたことです。

��この改定点について筆者が解説した記事も参考にしてください)

しかし、その他にも重要な改訂がなされており、退職給付会計の考え方が大きく変わります。



現行のIAS第19号では

退職給付費用は

・勤務費用

・利息費用

・年金資産の期待収益

・数理計算上の差異の償却額

・過去勤務費用

などの総額でした。

これは日本基準でも同じです。



一方、公開草案ではこれまで1つにまとめられていた退職給付費用を

以下の構成要素に分けて表示することになります。



・雇用の構成要素(勤務費用)ーー当期損益

・財務の構成要素(財務費用)ーー当期損益

・再測定の構成要素(数理計算上の差異など)ーーその他の包括利益



基本的に、

現行の退職給付会計で勤務費用や利息費用、年金資産の期待運用収益は

当期損益として認識することになります。



その他の数理計算上の差異など利回りやその他の数理計算の仮定の変動によって生じる差異は

すべてその他の包括利益で認識することになります。



そして、

財務費用の計算はこれまでの計算手法と異なります。

財務費用には退職給付債務の割引計算に伴う利息費用と

年金資産からの期待運用収益が含まれることになりますが、

期待運用収益の計算には

これまでの期待運用収益率は使いません。

退職給付債務の割引率と同じになります。



財務費用を生じさせる資産側と債務側のどちらからも同じ利率で計算するのが整合的と考えられるからです。



ちなみに

日本基準では割引率の決定に国債の利回りを参照しますが、

国際会計基準では優良社債の利回りに基づくことになります。

国債の利回りは退職給付債務の額が過大になると考えられているため、

採用することはできません。



このように国際会計基準では退職給付会計の考え方が変わってきています。

退職給付会計は特別な計算手法を用いることもあり難しい分野ですが、

どのような考え方になっているのか仕組みをしっかりおさえておくべきところです。

2010年5月12日水曜日

5月26日セミナーのご案内

この度、

金融財務研究会主催のセミナーを開催することになりました。

IFRSの情報収集、勉強を熱心にやっておられる方が多く、

次に「何をやるべきか」を知り、行動に移る段階にきているのではないかと思います。

そこで、今回のセミナーは、

初年度必須経営課題への対応

〜IFRS適用への優先課題〜

と題しまして、

適用初年度に焦点を当てて、日本企業の課題を確認していこうと思います。

適用初年度はIFRS第1号といった特別な会計処理の適用がありますし、

日本基準からIFRSへ移行したことによる影響が期首の剰余金の修正という形で一気に出ます。

このような初年度特有の論点は見落としがちですが、むしろ重要な問題で必ずおさえておくべきです。

また、

初年度までに対応しなければならない課題はいろいろありますが、

グループ会社管理や資産管理、投資戦略などの見直しなども必要となってきます。

早い段階から着手すべき優先課題を把握し取り組まなければなりません。

このように見落としがちな問題や優先課題とその対応方法を解説していきます。

今後の対応準備の進め方など、日本の先行事例なども交えて、お話していきたいと考えています。

日時:2010年5月26日(水)13時より

場所:金融財務研究会本社ビル グリンヒルビル セミナールーム(茅場町)

ご興味のある方は

金融財務研究会のHPよりお申し込みください。



2010年5月10日月曜日

企業年金のリスクに向き合う:国際会計基準退職給付会計の改訂案

2010年4月に国際会計基準審議会(IASB)からIAS第19号の公開草案が発表されました。
今回の改訂は主に確定給付型の退職給付を対象としています。

改訂事項で一番大きな変化は
退職給付にかかる資産と債務の変動がすべて当期に認識することとなり
コリドー・アプローチや遅延認識が廃止された、という点です。

コリドー・アプローチというのは退職給付にかかる数理計算上の差異が
一定の額(年金資産か退職給付債務の額が大きい方の10%)を
コリドー(回廊)として、コリドーの範囲内の変動は認識しないというものです。

日本基準にはコリドー・アプローチがありませんが、
重要性基準という考え方を採用しているので、
国際会計基準と同じように一定の数理計算上の差異を認識しないことになります。

どちらの基準においても一定の枠を超えた数理計算上の差異を
一定の年数で償却するなどの遅延認識が行なわれてきました。

公開草案ではこのようなコリドーや遅延認識を廃止することが提案されていますが、
すべての変動を当期損益として認識するわけではありません。

退職給付にかかる変動を今までとは違った方法で分解し、別々に認識します。

公開草案では
・雇用の構成要素(勤務費用)ーー当期損益
・財務の構成要素(財務費用)ーー当期損益
・再測定の構成要素(数理計算上の差異など)ーーその他の包括利益

基本的に、
現行の退職給付会計で勤務費用や利息費用、年金資産の期待運用収益は
当期損益として認識することになります。

その他の数理計算上の差異など利回りやその他の数理計算の仮定の変動によって生じる差異は
すべてその他の包括利益になります。

一般的に、この新しい方法を適用すると
退職給付会計で当期損益に与える影響は小さくなり、
その他の包括利益として認識する金額は大きく、さらに毎期大きく変動する可能性があります。
そして、企業の純資産も大きく変動するリスクにさらされます。

このような会計処理は国際会計基準より前にイギリスですでに導入されていたそうです。
イギリスでもこの処理の導入には企業からの反発が大きかったものの、
導入後はマネジメントが退職給付や年金の運用状況をそれまで以上に
真剣に議論するようになったそうです。

国際会計基準では投資家保護が目的であり、
資産や負債の期末時点での価値が財務諸表に表示されるように
個々の会計基準を定めています。
企業年金も例外ではなく、
たとえ年金資産の運用悪化が一時的な市場の変動であっても、
割引率の変動が経営上回避できないものであっても、
その状況を財務諸表上に表示されなければならないと考えるのです。

国際会計基準はこの目的のためにこれからもまだまだ変わっていくことになります。
しっかりフォローしていくことが重要です。