2010年6月28日月曜日

国際会計基準で当期利益は不要になるのか

国際会計基準は日本基準と根本的に考え方が違います。
このことが個々の規定内容に違いが生じる原因となっています。
今回は財務諸表を作る側の企業だけでなく、見る側にとっても重要な問題である「表示」について考えてみたいと思います。

国際会計基準と日本基準の根本的な考え方の違いでもっとも重要なものに、国際会計基準の採用する「資産負債アプローチ」と日本基準の「収益費用アプローチ」があります。財務諸表に表示される情報の中で何が一番重視するのか、両者は全く正反対の考え方になります。歴史的にみても会計制度はこの二つのアプローチの間で揺れ動いて発達してきています。

これまで長い間、収益費用アプローチが世界的に見ても優勢でした。このアプローチでは損益計算書に表示される収益から費用を差し引いて求められる当期利益が企業業績を示す情報として重要視します。その反面、貸借対照表の資産や負債の価値はあまり重視しないので、企業の保有する資産の時価が低くなっていてもそれが反映されていなかったり、損益計算をより適切に行なおうと計算上擬製された資産や負債が計上されたりします。
そのような状況が行き過ぎると、企業の財政状態が分かりにくいと批判されるようになります。

そこで企業の財政状態を示す貸借対照表を重視しする資産負債アプローチの考え方が採用されるようになってきたわけです。
資産負債アプローチでは、できる限り貸借対照表の資産や負債を時価で評価することになります。時価という客観性の高い評価を行なって財政状態の透明性が確保しようとします。そしてこの考え方を突き詰めると、企業の業績というものは、損益計算ではなく、貸借対照表の純資産の増加分によって図られるべきということになります。この純資産の増加分を包括利益と呼んでいます。収益費用アプローチで重視された損益計算によって出される当期利益とは違うものです。

それでは、売上から費用を差し引いて計算される当期利益は、国際会計基準では重要でなくなってしまうのでしょうか。理論上は包括利益がもっとも重要ということになりますが、現実には当期利益こそ重要な業績指標と考えられていることが多いようです。

現在国際会計基準委員会(IASB)ではこの包括利益の表示方法をめぐって改訂審議が続いています。
長年IASBでは当期利益を廃止して包括利益による業績表示を目指してきましたが、反対があまりにも多く、未だに実現していません。現状ではご存知の通り、当期利益を表示した後の末尾に包括利益を表示する包括利益計算書が採用されています。しかし、この方法だけでなく、損益計算書と包括利益計算書を分ける2計算書方式も認められています。

現在の審議ではこの2計算書方式を廃止しようという提案がなされています。この提案は2010年5月に公開草案として公表されています。

実際、投資家にとっても当期利益を重視して企業の評価を行っている場合が多く、企業としても当期利益を末尾に表示する損益計算書を採用したいという意見が根強くあります。そこで公開草案では当期利益の重要性を軽く見ているわけではないというスタンスを示すため、公開草案では新しい計算書の名前を「当期純利益及びその他包括利益計算書」としています。非常に長い名前で実務上は定着しないかもしれません。

今回の提案は、さまざまな意見を集約し譲歩をしながらも、国際会計基準では包括利益重視を実現しようとするIASBの強い意図が表れているようにも思います。



2010年6月14日月曜日

国際会計基準の金融商品会計に遅れをとるな

金融商品会計については現行のIAS第39号が改訂されている最中ということもあり、「あまりよく分からない」という感想をよく聞きます。実際に私も質問をよく受けるのですが、多くの方が難しさと同時に重要性も感じているようです。

そこで現在の金融商品会計の状況を簡単におさらいします。

IASB(国際会計基準審議会)は金融商品会計の改訂を以下の3つのフェーズで進めています。

①金融商品の分類と測定

このフェーズでは金融資産と金融負債それぞれについて検討することになっています。
金融資産についてはすでに改訂が終わり、IFRS第9号として公表されています。IFRS第9号について解説した記事もありますので、参考にしてください。

簡単にまとめると、有価証券などの金融資産は公正価値で測定するものと償却原価で測定するものの2分類により、評価を行ないます。

この分類では、
・金融資産について貸付金としての性格がある
・企業としてもその金融資産の元本と利息を回収するように管理を行なっている
という要件を満たした場合に償却原価で測定するものと判定されることになります。つまり、株式などの有価証券、組込みデリバティブなど多くの金融資産は公正価値で測定することになります。これまでの企業の保有目的などに基づいた分類とは違う考え方になりました。

一方、金融負債は現在公開草案を公表し検討が続けられています。

金融負債は公正価値オプションを選択した場合、企業自身の業績悪化により倒産リスクが高まると自己の負債の公正価値が下がり、その分利益が認識されるという処理がなされてきました。企業の業績が悪化すると利益が出るのはおかしいと批判が多かった問題点が扱われています(こちらも過去の記事を参考にしてください)。

②減損
先に触れた金融資産の分類で償却原価で測定されるものについては減損会計が適用されます。国際会計基準では公正価値で評価しない資産は基本的に減損の規定が作られています。
減損についても公開草案が出ています。公開草案では金融資産の将来キャッシュ・フローの割引現在価値が簿価と比べて低くなる場合、この差額を減損として損失処理することを提案しています。

③ヘッジ会計
ヘッジ会計というのは原則的な処理をするならば損益として認識されているはずのものを認識しないという特殊な処理を認めるものです。非常に例外的といえる処理であるため、例外や複雑な規定をできるだけ排除したいと考える国際会計基準の方向性と相容れない部分があります。
そこでヘッジ会計の適用範囲を狭め、処理自体も大幅に簡素化するという方向で審議が進められています。しかし、公開草案は当初昨年末までの公表が予定されていましたが、現在もまだ公開草案は出ていません。

このように金融商品会計の改訂で扱われているトピックは非常に重要なもので金融機関だけでなく一般事業会社にも影響があります。すでに公表されたIFRS第9号が公開されるまでの流れを見ても、基準書が確定するまでさまざまな議論が戦わされ、最終の決定が確認できるまで気が抜けない状態でした。

2010年中にはこれらのフェーズすべてが完了する計画となっています。金融商品会計の動向がこれから大いに注目されることになると思います。