2010年11月22日月曜日

IFRSの有給休暇についての誤解と違和感を解く

IFRSでは、未消化分の有給休暇が企業の負債となるため、費用を追加計上することになる、ということはご存知の方も多いと思います。今まで、日本基準では有給休暇については特に何も手当てされてこなかったことや、日本企業では一般的に、非常に多くの有給休暇が未消化分として残っていると考えられることから、日本の会計基準との違いの中でもクローズアップされることが多いトピックです。

とてもよく知られているトピックでありながら、誤解も多いようです。よくある誤解についていくつか取り上げます。

①有給休暇を現金で精算しない場合は費用の計上はいらない

これは間違いです。翌期に繰り越される有給休暇はすべて対象となります。未消化の有給休暇を現金精算できる規定があってもなくても、どちらの場合であっても、IFRSでは費用計上が必要になります。ちなみに、権利が繰り越されず、失効してしまう分は対象となりません。

②有給休暇を取得してもしなくても企業の人件費負担は変わらないのだから、IFRSの考え方はおかしいのではないか

確かに、有給休暇を取っても取らなくても、給与の額は変わることがありませんので、企業が給与として負担は有給休暇の取得の有無と関係ないと思ってしまいます。しかし、この考え方は、IFRSの考え方と違います。また、違うからといって日本の労働環境とIFRSがそぐわないということにもならないと思います。

IFRSが有給休暇の処理ついて問題にしているのは、企業が従業員から提供を受ける労働とその対価としての人件費の計上が一致することです。適切に人件費の計上を行なうには、給与を支払った時ではなく、労働が提供されたタイミングで費用を計上することが重要です。

例えば、当期に付与した有給休暇を取らないで働いていて、来期に繰り越して消化した場合を考えてみます。有給休暇を取得しなかった当期と取得した翌期で給与は変わりません。しかし、当期は有給休暇を取得しなかったので労働日数が増えている一方で、翌期においては有給休暇を取得したため労働日数が減っています。
当期に未消化の有給休暇を費用計上しないと、当期と翌期で労働の提供量が違うのに、同じ給与額だけが人件費として費用となってしまいます。それでは、労働の提供量とそれに対する費用が一致しません。

このような不一致は、有給休暇の消化が少ない日本ではあまり問題視されてこなかったという背景があると思います(逆に欧米では一般的に有給休暇の取得が進んでいると考えられるので、この不一致の解消は会計上も重要視されてきたのだと思います)。

③日本企業には多くの未消化有給休暇が残っているためIFRSが適用されると負担が非常に重くなる

この指摘は当たっていますが、影響は限定的である面もあります。まず、すべての未消化有給休暇の全部を費用計上するわけではなく、有給休暇の消化率を使用し、実際に翌期に消化されると予想される有給休暇分のみを費用計上の対象とします。したがって、有給休暇がたくさん残っている場合でも翌期に消化される可能性が低く見積もられれば、追加費用の負担額は小さくなります(有給休暇の取得が進んでいる企業はそもそも未消化分が少ないため、影響は少なくなります)。

また、IFRS適用初年度は日本基準から移行するため、この負担額がそのまま費用として企業業績に影響を与えることになりますが、翌年以降は負債として計上された額を洗い替えていくことになりますので、初年度よりも影響は小さくなります。

④給与と有給休暇の追加費用の計上で人件費の二重計上になる

前の項目でも説明しましたように、有給休暇の追加費用分は負債として計上され、翌期に取り崩されることになります。費用として計上されるタイミングだけを調整していることになるので、二重計上という問題は発生しません。

⑤有給休暇引当金という勘定科目で処理することになり、IFRSでは引当金処理を行なう

「有給休暇引当金」という勘定名をご存知の方も多いと思います。これは日本ではよく使われていますが、IFRSでは「引当金」と考えていません。引当金ではなく、経過勘定と考えられていて「未払従業員給与」と整理されています。これは筆者の推測なのですが、日本では、費用を実際の支払いよりも早いタイミングで費用計上することを、「引当て」、という言葉で表現することがあるので、そのような慣習から使われるようになった言葉なのではないかと思います。

IFRSの有給休暇は決して特殊な考え方をしているわけではありません。労働の提供のタイミングで人件費を計上しようというものです。この考え方は退職給付などにも表れていて、従業員に付与するもの(給与、ボーナス、退職金、福利厚生など)は基本的に労働の提供に関わらせて費用処理されることになります。



2010年11月16日火曜日

米国SECがIFRS検討ワークプランの経過を報告

SEC(証券取引委員会)では2010年10月29日にIFRS適用のためのワークプランについての経過報告を公表しました。そもそもこのワークプランというのは2010年2月にSECが発表したもので、アメリカにおけるIFRS適用に向けた作業を具体化するために作成されたもので、現在SECではこのワークプランに基づいてIFRS適用のための検討を進めています。

SECによるワークプランでは、IFRSの基準そのものについて以下の項目が挙げられています。
・アメリカにおける報告基準としてのIFRSの発展状況と適用可能性
・投資家の利益保護のための基準開発機関の独立性

また、アメリカでのIFRS移行については以下の項目が挙げられています。
・IFRSについての投資家の理解と教育
・会計基準の変更によるアメリカでの規制環境への影響
・適用企業(大企業および小規模企業)におけるシステム、契約形態、企業統治や訴訟対応等を含めた影響
・人的資源の整備

このレポートはまだ途中経過を報告しているものであるため、SECからはどのようにIFRSを評価するのか結論は出ていません。しかし、確実にIFRS適用に向けて作業のスピード感が感じられます。

特に、IFRSの基準そのものを評価する中で、FASB(米国財務会計基準審議会)の役割についても検討が行われています。各国のIFRS適用のアプローチについて調査をしています。世界の各国でとられているアプローチは主に2つあります。

1つはコンバージェンスアプローチという方法で、IFRSを直接採用することはせずに、各国の会計基準をIFRSに近づけるというものです。この方法では規制当局は自国の会計基準を保持でき、自国の利益を守ることができます。しかし絶えずIFRSに近づけるよう努力を続ける必要があります。このような方法は中国などで採用されています。

もう1つのアプローチがエンドースメントアプローチです。これはEUなどで採用されていて、IFRSを各国で採用するために承認手続を設定する方法です。EUの場合は、この承認手続の間にIFRS自体が修正されたことがあり、承認手続によってIFRSの設定に影響を与えようとしています。

FASBがどのような役割を担うことになるかはこれからさらに検討が必要とされており、現時点ではまだ分かりません。しかし、FASB委員長はFASBがグローバルな会計基準の発展に重要な役割を担うことになるという声明は出されています。確かに、アメリカ自体は米国の会計基準そのものを取り下げてしまうということはしないでしょうし、FASBの役割を強化することと、IFRSの適用は相反するものではないと考えているのでしょう。

日本については、今のところ、完全なアドプションを予定しており、エンドースメントなどを必要とするEUなどよりも、早いタイミングでIFRSを受け入れて行くことになります。このような各国の戦略の違いにより、今後のIFRSへの影響力にも差がつくと考えられます。



2010年11月10日水曜日

aegif主催IFRSセミナーのお知らせ

セミナーのお知らせです。


弊社主催のIFRSセミナーを開催することになりました。


今回のセミナーは単に2015年に予定されているIFRS適用を目指しているものではなく、日本基準適用の今考えなくてはならないことにも焦点を当てます。


実際のところ、IFRSについては、情報収集を中心に取り組みまだ実際の行動を起こしていない企業もあると思います。確かに、IFRS適用による影響は企業ごとで差があり、影響が比較的少ない企業もあります。


し かし、IFRS適用前に現状の日本基準の中で考えなければならない問題もあるのです。最近、特に多くの企業が検討しているのが、会計方針の変更です。 IFRS適用前にIFRSを見越した方針の変更を行うことによって、財務上有利なインパクトを先取りしたり、IFRSに対する取り組みを前進させたり、さ まざまな効果が得られることになります。


 しかし、現実にそのような変更を行うには、監査人の監査手続や、判断が重要となり、難しいものです。そこでそのような中で、現在の日本基準で会計方針の変更を行なう時のポイントや企業の実例等を交えて解説いたします。


また、そのような対応を進めていく上でも不可欠なのが、やはりIFRSに対する正しい理解です。IFRS自体の改訂が頻繁に行なわれている中、2015年のIFRSがどうなるのか、一番注目されている収益認識を中心に動向を紹介します。


IFRSはまだ先のこと、とお考えの方、将来のIFRSはどうなるのか、と疑問を持っている方などに是非参加していただきたいと思います。今後の対応の参考になるような情報をできるだけたくさんお伝えし、疑問や不安を解消していきます。


 


IFRSセミナー「IFRS適用に備え今しかできないこと、これからすべきこと」


日程 2010年12月2日(木)


時間 13:30〜16:00


会場 関東ITソフトウェア健保会館(東京都新宿区百人町2-27-6)


参加費 無料


定員 30名 


 


ご興味のある方は是非ご参加ください。


申し込みは弊社HPよりお願いいたします。



2010年11月8日月曜日

IFRS、SOXに日本はどう対応していくか

現在、日本の内部統制報告書制度は見直しが進められています。これからIFRSとSOX両方に対応していかなくてはならない日本企業としては内部統制報告書制度の動向も注目していかなくてはなりません。2010年10月に金融庁から内部統制報告書制度の見直し案が提示されました。
今回提案されている内容は以下のとおりになります。



(1)企業の創意工夫を活かした監査人の対応の確保
(2)中堅・中小上場企業向けの簡素な内部統制の取組みの「事例集」の作成
(3)内部統制の柔軟な運用手法を確立するための見直し
(4)「重要な欠陥」の用語の見直し 

提案全体を通して、内部統制制度の運用を簡素化するものとなっています。たとえば、業務プロセスの評価手続をローテーション化できることを明確にしたり、全社的な内部統制の評価方法の簡素化を定めたりなど、柔軟な運用を確立することを目指そうとしています。企業に過度な負担をかけることがないように、という配慮によるものだと思います。内部統制報告書制度に対する日本の対応としては、簡素化が1つの流れになっています。

SOXが簡素化されてきている中で、IFRSは、日本ではコンバージェンス、さらにはアドプションという形で存在感を増してきています。どちらも日本にとって、海外発の制度を導入することになるわけですが、IFRSとSOX2つの制度は全く逆方向と言っていいほど違う指向性があります。

SOXはアメリカでエンロン等の企業不正事件をきっかけに始まったもので、簡単に言ってしまえば、企業内の手続や会計処理に焦点を当てて、会計基準が適切に運用していこうとするものです。

IFRSはエンロン等の事件によりアメリカの会計基準の信頼性が失墜していく中で、急速に広まっていきました。IFRSはSOXとは全く違った方法で、エンロン等の企業不正に対する対処方法を指向しているといえます。つまり、企業の手続などを監視して適正性を担保していくのではなく、公正価値評価という「公正」な評価方法というアプローチを導入しようとしています。

IFRSでは社内の統制や管理についてなんら言及はありませんし、むしろそういう管理には適していない印象を受けます。社内の業績管理とIFRSとの間で整合を取るのが難しく問題なることが実際に起きていますが、そもそもIFRSは社内の管理等には向いていない会計基準であると思います。

このように全く違う方向の制度を両方運用することになる日本では、混乱も起きかねないと思います。懸命な対応としては、当然のことですが、SOXが簡素化される方向にしたがっていくことです。IFRS適用においても実際のSOX対応は、早期に着手することにメリットはあまりなく、直前にやることになるのではないかと思います。

本来の開示制度そのものの制度設計を考えれば、SOX自体をなくしてしまうという選択肢もあります。日本の開示制度はIFRS導入を控えて見直しが必要となっているのです。



2010年11月1日月曜日

金融負債の評価について新しいIFRSが公表される

2010年10月28日に国際会計基準審議会(IASB)が金融商品会計の基準書(IFRS第9号)に新しい規定を追加しました。金融商品に関する規定は金融危機以後、早急に対応すべき課題として急ピッチで改訂が進められてきましたが、改訂作業は難航しています。今回の新しい規定の公表も非常に難しい問題を抱えていたため、ようやく公表に至った、という印象です。

今回公表された新しい規定では、金融負債(営業債務、借入金、デリバティブなど)についての会計処理が扱われています。

これまでのIFRSでは、通常の金融負債は償却原価で評価し、デリバティブといった特殊なものは時価で評価することになっていました。ちなみに日本基準では通常の金融負債は債務額で評価することになっていますので、実効金利による利息計算が不要となっています。

また、IFRSではこの他に選択規定が認められていて、時価で評価を行なうという公正価値オプションを採用することができます。IFRSでは公正価値(端的に言えば時価)による評価を重視しているので、この公正価値オプションには、できるだけ幅広く公正価値評価を適用しようとする考え方が表れています。

しかし、この公正価値オプションを金融負債に適用すると、非常に変な現象が起きてしまいます。金融負債の時価というのは、債務者の信用リスクが反映されることになります。つまり、金融負債を計上している企業自身の信用リスクが高くなるとそれが、負債の時価にその上昇したリスクが織り込まれ、負債の価値が低くなります。負債が減少すると、その差額は利益として処理されます。

実際に、近年の金融危機ではこの公正価値オプションを選択している金融機関が、自己の信用リスクが高くなったことで多額の利益を計上しました。企業自身の業績悪化で倒産リスクが高くなったことで、利益を計上できる、というのはおかしい話です。非常に問題視されました。

そこで、今回の新規定では金融負債の全般的な評価方法については、これまでの方法を踏襲しつつも、問題となった公正価値オプションの場合のみ、信用リスクの変動によるについては損益としてではなく、その他の包括利益として処理することが定められました。この変更により、信用リスクの増大による利益計上という問題を解決しようとしています。

当初、公開草案ではその他の包括利益による処理を2段階で行なう複雑な方法が提案されていました。一度損益としても計上した上で、その他の包括利益にその額を移すというものです。しかし、財務諸表を必要以上に複雑にするということで強い反対を受けたようです。また、損益として計上したものをその他の包括利益に移すという方法も今までにないやり方であり、そもそも、包括利益とは何なのかきちんと議論されていないでこのような処理を導入することを問題視する声もあったようです。

今回公正価値の問題が1つクリアされましたが、まだ解決されていない問題もありますし、新しい問題が提起されることもあると思います。さまざまな問題にいかに取り組んでいくか、これからもIFRSの動向を追いかけて考えていきたいと思います。