2011年3月28日月曜日

会計システムのIFRS対応~複数帳簿と単一帳簿 (その2)

イージフの松岡です。前回からの続きで、会計システムのIFRS対応の2パターンについてさらに掘り下げ、連結決算手続きを親会社と子会社でどのように分担するかについて解説します。


 


複数帳簿方式


最初に、グループ各社がローカル基準とIFRSの元帳を持つ複数帳簿方式の連結決算手続きを説明します。各社は、IFRS元帳から作成したIFRSベースの個別財務諸表を連結パッケージとして親会社に提出します。親会社の連結チームでは、各社のIFRSベースの個別財務諸表を連結会計システムに取り込んでIFRSベースの連結財務諸表を作成します。


この方法は、親会社の連結チームとグループ各社での作業負担を小さくできますが、グループ各社に、新しい会計システムを導入しなければならないため、システムへの投資負担は、大きくなります。


 

単一帳簿組替方式


次に、グループ各社がローカル基準の元帳のみを持ち、連結決算手続きの中でIFRSへ組み替える方式を説明します。この場合、親会社の連結チームで組み替える方法と、グループ各社で組み替える方法の2通りがあります。


まず1つ目、連結チームがIFRSへ組替える方式を説明します。これは、グループ各社で、ローカル基準で個別財務諸表を作成して、それを親会社の連結チームへ提出し、親会社の連結チームでそれをIFRSベースの財務諸表に組み替えを行い、連結会計システムに取り込んでIFRSベースの連結財務諸表を作成するというものです。


この方法は、親会社の連結チームの作業負担が大きくなるというデメリットがありますが、グループ各社は、今まで通りの決算書を作成するだけなので、グループ各社の作業負担を小さくできる、というメリットがあります。


 

次に、グループ各社がIFRSへ組替える方式を説明します。これは、グループ各社が、ローカル基準の個別財務諸表をIFRSベースに組替えて、それを親会社の連結チームへ提出し、親会社の連結チームは、連結会計システムに取り込んでIFRSベースの連結財務諸表を作成するというものです。


この方法は、親会社の連結チームの作業負担を小さくできますが、逆に、グループ各社で組み替え作業が発生するため、グループ各社の作業負担が大きくなります。


 

EUの傾向を踏まえての検討ポイント


この中で、EUの企業が多く採用している方式はどれでしょうか?


単一帳簿組替方式の2パターンが主流だそうです。親会社の連結チームで組み替える方式か、グループ各社で組み替える方式です。日本企業においても、EU同様にこの2つが主流になると思います。


複数帳簿方式が採用されない要因として、グループ全社の会計システムを更新するのは、コストと時間がかかることがネックになることがあげられます。連結会社数が多く手作業での組み替えでは不可能な大企業は別として、中堅上場企業では、コストベネフィットの観点から導入に至っていないようです。


 

連結子会社が10社以下であれば、単一帳簿方式の親会社で組み替える方法が、ベストでしょう。親会社の連結チームは、いずれにせよIFRS導入に向けて人的リソースを拡充することになるので、追加的な負荷も吸収できます。また、組み替え作業を連結チームに一元化することで、連結調整の品質を一定に保つことができ、さらに、その組み替えの過程で子会社の決算書を詳細に検討することで子会社管理にも資するというメリットがあります。


 

いずれにせよ、各社の企業規模や子会社管理のあり方によってベストな選択肢は異なります。それぞれのメリット・デメリットを勘案して、グループ全体でもっとも適した方法を採用することが必要になります。


 

松岡 佑三



2011年3月22日火曜日

会計システムのIFRS対応~複数帳簿と単一帳簿 (その1)

イージフの松岡です。


今回から2回にわたり会計システムのIFRS対応について解説します。


ローカルの個別、IFRSの連結


IFRSが適用されるのはあくまでも連結財務諸表であり、グループ各社の個別財務諸表については会社法や税法の関係から、当面IFRSは適用されず、日本基準により作成されます。また在外子会社についても、日本と同様に個別財務諸表は現地ローカル基準しか認められていないことが少なくありません。


よって、IFRS適用後は、個別財務諸表は日本基準および現地ローカル基準(以下、ローカル基準)により作成し、連結財務諸表は、IFRSにより作成することになります。


会計システムのIFRS対応とは、単にIFRSに対応できるシステムを導入することのみならず、ローカル基準にも対応できるようにすることをいいます。IFRSとローカル基準への対応に関しては、複数帳簿方式と単一帳簿組替方式という2つのパターンに大別することができます。


 

複数帳簿方式


複数帳簿方式は、各社で取引の原始記録を元帳に転記する段階からローカル基準とIFRSの両方で記帳する方式です。ひとつの取引について、ローカル基準での仕訳とIFRSでの仕訳を生成し、それぞれの元帳に転記します。各社は、ローカル基準とIFRSの2つの元帳をもつことになります。


ローカル基準の個別財務諸表を作成する際にはローカル元帳から作成し、IFRSベースの連結財務諸表を作成する際にはIFRS元帳から作成します。元帳の段階から両者が分けられているので、ローカル基準とIFRSで組替えを行う必要がなく、決算時の作業負荷が抑えられ財務諸表を迅速に作成できる点がメリットです。一方、複数元帳に対応した会計システムを導入するには、時間とコストがかかる点がデメリットです。


  


単一帳簿組替方式


単一帳簿組替方式は、各社で従来通りローカル基準で取引の原始記録を元帳に記帳し、連結財務諸表作成に際しては、連結決算手続の中でローカル基準からIFRSへ組み替える方式です。


これは、単体会計システムの改修を必要としないため、システム投資負担と業務プロセスの変更を回避ができる点がメリットです。一方、IFRSベースの連結財務諸表を作成するのにローカル基準からの組み替え作業を必要とするので、連結決算手続きに工数と時間がかかる点がデメリットです。




理想は複数帳簿、現実的には単一帳簿 


今後も毎期継続していくものなので、可能ならばシステム対応してスピーディーに処理できる複数帳簿方式を採用することが理想的ですが、導入のハードルが高いことから、多くの企業にとっては単一帳簿組替方式が現実的な対応方法になると思います。


次回は、上記の2パターンについてさらに掘り下げ、連結決算手続きを親会社と子会社でどのように分担するかについて解説します。


 

松岡 佑三



2011年3月14日月曜日

結果だけを知りたい投資家、プロセスを管理する管理会計

イージフの松岡です。


 2月14日のエントリーより、IFRS時代の管理会計の続きです。


 これまでの日本基準では財務会計をそのまま管理会計に用いても大きな問題は生じませんでしたが、IFRS導入後はそうはいきません。以下、IFRSの特徴である資産・負債アプローチと時価主義に焦点を当てて、財務諸表の性質(意味するところ)の変化が管理会計に与える影響を解説します。


 


資産・負債アプローチ


資産・負債アプローチでは、まず資産・負債の定義を明確に定め、その差額として純資産を定義します。そして、純資産の前期からの増加額を利益とします。BSが主でPLが従です。BSで算出される純資産から従属的にPLの利益は算出されます。


株価に関心がある投資家からは、財務諸表はその会社の株価の参考情報として有用であることを望みます。資産・負債アプローチは、株価の参考情報として最も基本となる純資産を正確に算定することに主眼を置いています。


このアプローチは、管理会計としてはどうでしょうか?管理会計で使われる資料といえば、部門別PLや製品別PLが頭に浮かびます。これらに象徴されるように管理会計では、プロセスであるフロー(利益)に着目しています。ストック(純資産)はフローの結果であって、フローこそが管理の対象であるためです。


 


時価主義


 IFRSでは、広範囲にわたって時価会計を求めています。例えば、固定資産の時価評価も可能であり、ブランド価値を時価評価する考えもあり、金融商品は基本的にすべて時価評価であり、負債についても時価評価対象となっています。これは、先の資産・負債アプローチとも整合する考え方です。その時々の時価(公正価値)を重視して、ある時点の資産・負債を正確に算定することで、ある時点の純資産を正確に算定できるようにしています。


こうして作られる財務諸表は、企業の瞬間的な公正価値を示すものとなります。もし、これを管理会計にも用いたとすると、決算日の純資産が最大化されるように短期的な利益の追求が目標となってしまいます。


日本基準では、時価会計が強制されているのは有価証券くらいであり、固定資産も負債も取得原価で評価されています。結果、毎期の利益が比較的安定し、長期的視点にたった経営が自然と志向されてきました。


 


フロー志向の管理会計はストック志向のIFRSには馴染まない


日本基準は、期間損益計算と取得原価主義をキーワードとしており、各期の予算、損益管理を重視する内部管理目的の管理会計と親和性が高かったといえます。


一方、IFRSは資産・負債アプローチと時価主義をキーワードとしており、投資家の目線から投資価値評価のために純資産が重視されており、利益は純資産の差額として算定されるにすぎず、利益獲得のプロセスが見えづらくなっています。


以上の観点から、資産・負債アプローチと時価主義をとっているIFRSでは、フローを管理する管理会計とは馴染まないということができます。経営者がマネジメントできるのは株主価値という結果に至るプロセスであるところ、IFRSではプロセスとしての収益・費用及び利益情報が見えにくくなっており、必ずしも経営管理に有用な情報とはなっていません。そこで、IFRS時代には各社がそれぞれ自社にあった管理会計をもつ必要があるのです。


松岡 佑三



2011年3月7日月曜日

過年度遡及修正についての日本基準とIFRSの違い

イージフの野口です。
日本基準のコンバージェンスはIFRSとの差異を解消するために進められています。いろいろな基準が次から次へと公表されていますが、最近の会計基準は財務諸表の表示に関連したものが多くなっています。「包括利益の表示に関する会計基準」や「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」がそれに該当します。

「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」については、過年度遡及修正が導入されるところが非常に影響が大きいところだと思います。この会計基準により、会計方針の変更と表示方法の変更については遡及修正が必要になります。会計上の見積りの変更については、遡及修正が不要です。

そこで、何が会計方針の変更で何が会計上の見積りの変更であるかは、実務上非常に重要な問題になってきますが(表示方法の変更については分類が難しいことはないと思います)、この分類は意外と明確に判断できるものではなく、難しいのです。

実は、IFRSともこの考え方には違いがあります。コンバージェンスの目的で作られた会計基準といっても、日本基準はこれまでの日本での考え方を踏襲しているため、このような差異が残っています。会計基準の中で紹介されていますが、減価償却方法がこの違いを端的に表しています。

減価償却方法の変更は、IFRSでは会計上の見積りの変更としていますが、日本基準ではこれまでの日本基準の考え方を踏襲し、会計方針の変更に分類されます。ということは、日本基準では減価償却方法の変更を行った場合、会計方針の変更となるので遡及修正が必要となると考えられますが、会計基準では、会計方針の変更と会計上の見積りの変更の区別が困難な場合として、遡及修正を求めない、という説明をしています。従来の考え方を変えないが、取り扱いはIFRSとの整合を優先するということになります。いいところ取りをしているような格好になっているのですが、非常に難しい話です。実際これまでの実務でも、何を会計方針として、何を見積りとするのかは、非常に解釈が難しかったのですが、これまで以上に判断に迷うことになります。

このように日本で進められているコンバージェンスというものは和魂洋才というのか、日本基準独自の考え方を維持しつつ、IFRSと整合した取り扱いになるように規定する、しかも、日本の実務に配慮した指針や具体的基準等も設けるという非常に(ある意味ではよくできている)複雑なものとなっているように思います。

このような複雑になった日本の会計基準に対応し、さらにはIFRSへの適用を見据え準備を進めていくための実務書を紹介します。

武田雄治さんの「包括利益・過年度遡及の決算対応—財務諸表の表示が変わる!」(中央経済社)です。武田さんは開示という観点で決算早期化、IFRSに至るまで、いろいろな問題を論じています。実務では、決算作業が順調に進んでも最後の開示作業でミスが生じて短信や有報で間違えてしまうということがよくあります。理論的な問題をおさえるだけでなく、そのような実務の課題へも配慮されている本だと思います。実務に携わる方には非常に参考になるのではないでしょうか。


野口由美子