2011年4月25日月曜日

IFRSにおけるリベートの会計処理

イージフの松岡です。


食品メーカーや家電メーカーなどの一般消費者向け製造業では、自社製品の販売促進策として卸売業者や小売業者、量販店にリベートを実施することが多々あります。このリベートには、対象製品の購買金額に応じて算定され、得意先に支払われるボリュームインセンティブと呼ばれる事後値引きや、得意先が保有する在庫に対して直近の卸売価格に基づくマージンを補償する在庫補償など多用な形態があります。


これら業界毎の商慣習から様々な形態をもつリベートについて、IFRSではどう取り扱われるのかについて解説します。


 


リベートは売上金額の減少


日本基準では、これらのリベートを販売促進費として販管費に計上している事例が少なくありません。これはIFRSでもそのまま認められるのでしょうか。


 

結論から述べると、販売済み製品に対する販売価格の修正あるいは売上代金の一部返金としての性格を有するリベートは、売上高の減額として処理することが求められます。


IFRSにおいて収益とは、企業が自己の計算により受領したか、または、受領しうる経済的便益の総流入だけを含むものとされています。収益は受領した、または、受領可能な対価の公正価値(企業が許容した値引きおよび割戻しの額を考慮後)により測定されなければならないと規定しています。


つまり、収益は企業が実際に受領できる金額によって測定しなければならないということになります。そのため、販売価格の一部減額あるいは売上代金の一部返金という性格を有するリベートは、売上高から控除する必要があります。


また、リベートを受取る側である卸売業者側では、リベートが製品仕入価格の修正としての性格を有するものであれば、収益としての計上ではなく、売上原価の減額として処理することになります。


ただし、リベートは一切費用計上が認められなくなるかというと、そうではありません。得意先での販売キャンペーン活動の経費の補填として支出された事が明確であるならば、費用計上する余地はあります。


   

リベートを合理的に見積もることが出来ない場合


では、リベートの計算要素が確定しない等、リベートを合理的に見積もる事が困難な場合には、どのように会計処理すべきでしょうか?


 

この場合、販売済み製品に対する将来の値引額を合理的に見積もることができるまで、当該製品の売上高を認識することはできません。


IFRSでは、収益の額を信頼性をもって測定できることを収益認識要件の一つとして求めています。リベートを合理的に見積もることが出来ないということは、売上金額を信頼性をもって測定できないということになり、売上を計上することは認められません。合理的に見積もることが可能になった段階で認識されることになります。


リベートの種類によっては、得意先の累計販売実績に応じてリベート金額が算定される等、メーカーから得意先への売上時点でリベートが確定しないものがあります。この場合、売上を認識するには、過去の実績や売上予測に基づいてリベートを合理的に見積もることが求められます。


また、特に在庫に関連して算定されるリベートは、金額を合理的に見積もるために、リベートの対象となる在庫残高を製品毎に把握する体制、ならびに得意先での購買・販売予測を可能とする過去の実績等の存在が、売上計上の必要条件になるでしょう。


 

とかく、リベートについては過去からの慣習ということで、明確な取り決めがないまま行われている事例も少なくありません。その場合、今一度、顧客とリベートの内容について確認し、エビデンスを揃えておくことが重要です。


   

松岡 佑三



2011年4月18日月曜日

IFRS適用前に対応したい決算期の統一

イージフの野口です。


IFRS適用で連結グループの決算体制をどうするか、という問題を抱えている企業は多いようです。まず最初に問題になってくるのが、決算期です。IFRSではグループ会社の会計方針、決算期の統一は重視されています。日本基準においても、基本的には会計方針や決算期はグループで同じにしなければならないわけですが、企業の実情に配慮して、ある程度緩和した運用が認められています。IFRSではそのような企業への配慮についてわざわざ規定をおくことはないので、各社が対応していかなくてはなりません。

決算期について、日本基準では3ヶ月以内の決算期のずれは許容されています。日本の多くの企業は3月決算であり、海外では12月を決算としているケースが多いため、このような実情に配慮した規定であるといえます。

海外に子会社等がある企業の多くはこのずれを利用して、海外の子会社では1月以降余裕を持った決算作業を行い、4月以降の親会社の連結決算作業に間に合わせられればよい、というスタンスでいられたと思います。

IFRSでは基本的に決算期は統一されていることが必要です(ただ絶対統一しなければならないかというのではなく、実務上不可能な場合は3ヶ月以内のずれは認められています)。多くの場合、決算期が違っていても、仮決算を組む等の対応ができると考えられるので、実務上不可能とはならないのではないかと考えられます。

実際にグループ会社の管理を考えると、決算期を統一することは、業績評価上も望ましいことです。また、決算期がずれていると、連結決算上も取引の差異調整などの手続に時間がかかることも多く、かえって手間がかかる面もあります。そのようなメリットも考えると、グループの決算期統一は、積極的に取り組むべき課題として捉えられるのではないでしょうか。

とはいえ、親会社でなく、特に海外の子会社で決算体制を変えることになるので、簡単に達成できることではありません。本番の決算で失敗して、決算発表が遅れてしまうということは絶対避けたいところです。確実に対応していくには、他の課題より優先して取り組むことが一番です。

IFRSを実際に適用することになる前に、決算期の統一は先にクリアするという方針をとる企業は実際に増えてきています。そのような対応は非常に有効だと思います。


 


野口由美子



2011年4月11日月曜日

デュー・プロセスについて

イージフの松岡です。


2011年は、SECが米国企業へのIFRS導入の判断をすることから、米国会計基準とIFRSのコンバージェンスが急ピッチで進められており、IFRSから公開草案等の公表が相次いでいます。ここで、IFRSはどのような手続きを経て作成されるのでしょうか。IFRSを作成し公表する手続きをデュー・プロセス(due process)といいます。所定の手続きを経て基準が開発されることは、IFRSの透明性を確保するために重要であり、世界各国でIFRSが信用され導入されるためにも必須の要件になります。


今回は、このデュー・プロセスについて解説します。


 

デュー・プロセスの過程と公表される資料


デュー・プロセスは、大きく以下のような手続きから構成されます。


1.論点の識別・協議と審議事項の決定


IASBに寄せられた意見や助言を考慮してIASBスタッフは、ある議題に関する論点を収集します。その中で、どの議題を優先するのかIFRS財団評議員会や各国の会計基準設定主体等、利害関係者と意見交換を行い、審議事項を決定します。




2.コメント募集のための討議資料(Discussion Paper:DP)の作成・公表


審議事項に関して論点の包括的な概要、論点に対するアプローチ、IASBの予備的見解をまとめたDPを公表し、広く利害関係者からコメントを募集します。受領したコメントはIASBのサイトで公開されます。コメント募集期間は4~6ヶ月程度です。




3.コメント募集のための公開草案(Exposure Draft:ED)の作成・公表


DPに対して寄せられたコメントを踏まえて、IASBで論点を審議し解決した後、EDを作成、公表しコメントを募集します。コメント募集期間は2~4ヶ月程度です。




4.基準書および結論の背景の公表


EDから派生した論点についてIASBで審議し、基準書を作成します。IASBで可決後に基準書が公表されます。基準の開発にあたっての審議の過程や、重要な論点についての決定の根拠について結論の背景が基準書とともに公表されます。基準書の公表後、適用されるまでには通常1~2年の期間が設けられます。




5.適用後レビュー


IASBは、新たな基準書が適用されてから2年後に、適用後レビューを実施します。これは、その基準が当初の意図通りに機能しているかを検証するために行われます。


 

デュー・プロセスを省略した事例


このようにIASBは、デュー・プロセスを厳格に定めていますが、そこには過去の苦い教訓があります。それは、2008年の金融危機下に、デュー・プロセスを省略して金融商品に係る基準の改訂を行ったことです。


この時IASBは、市場の状況からこの問題を緊急に対応すべきとのEUからの要請を受けて、IASC財団(現:IFRS財団)の支持を得て公開草案を発行せずに、改訂基準を発行しました。新基準の発行はEUからの要請があってからわずか1週間ほどでなされました。


 

100年に一度の危機における動揺から引き起こされた事象ですが、IFRSが信頼され世界各国で受け入れられるためには、その基準の作成・公表過程が公明正大に行われなければなりません。


   

松岡 佑三



2011年4月4日月曜日

今立ち返るべきIFRSの基本

イージフの野口です。今回はIFRSの総論的なトピック、IFRSの基本について解説していきます。IFRSについて書籍や雑誌、セミナー等いろいろな機会を利用して勉強されている方にとって、今さらIFRSの基本、といっても知っているようなことばかりだと思います。しかし、最近特にこのような基本について誤解があると感じることが多いので、あえて取り上げてみます。

原則主義
IFRSは原則主義の基準です。日本やアメリカの会計基準等は細則主義という立場を取っているのと対照的です。原則主義の基準ということは、あくまでも基準で示しているのは原理原則だけであり、その個別的な適用や具体的な方法については企業がそれぞれ判断することになります。

ということを多くの方がご存知なのですが、その一方で、日本でのIFRS適用にして指針のようなものが公表されるのではないか、同業他社と足並みを揃えた形で適用したい、という声もよく聞きます。IFRSを初めて適用する企業の本音だろう、と気持ちは分かりますが、このようなことを求めること自体が、細則主義によるものではないでしょうか。

日本が独自にIFRSの日本での適用指針を作ったら、そのことはIFRSの原則主義に反することになり、日本版IFRSができてしまいます。現在の日本の立場は、IFRSそのものを適用することなので、このようなことはできないのです。


また、同業他社のやり方も気になるところだと思いますが、他社のやり方というのはあくまでも参考で、自社の適用は独自に決めなくてはなりません。これまでの日本基準の適用においては、同業の企業は足並みを揃えて会計基準の適用ができていましたが、 そのような状況は多少変わってくる場合もあると思います。このような統一感はやはり細則主義だからこそできるものです。原則主義の基準では、企業がどう判断するのか、ということが重要なのであって、他社と同じであるかということは、それほど重視されるものではないと思います。

比較可能性
IFRSを適用すると比較可能性が高まる、と説明されますが、日本の方にとっては日本基準の方が比較可能性が確保されているのではないか、と疑問に思われることがあるようです。

その疑問はもっともだと思います。日本基準であれば、細かいルールがあるのでより統一的に会計処理が規定され、IFRSによって各自の判断が行なわれるようになれば会計処理にばらつきが出てくることが考えられます。

IFRSの言っている比較可能性とはレベルが違います。どの国もIFRSを適用すればどこで作成された財務諸表も、各国がそれぞれ独自の会計基準を適用している状態に比べれば、比較しやすくなります。たとえば、日本基準の財務諸表と米国基準の財務諸表を比べるには、いろいろな調整を行なわなくてはなりません。同じIFRSを適用すればそれは不要になるだろう、ということなのです。


日本基準のような細則主義の基準は日本独自の商慣行や制度に配慮してできているため、国際的に適用できるかというと、無理があります。そういう意味での比較可能性なのです。日本国内での比較を考えると、これまでより会計処理の統一感はなくなるはずなので、比較可能性が損なわれる可能性は現実にあると思います。

公正価値重視
IFRSでは、B/Sに計上した資産、負債を公正価値で評価することが重視されます。イメージとして企業買収の時等に行なうデューデリジェンスの企業評価や企業の清算価値の算定を思う方も多いかもしれません。確かにそのように考えると分かりやすく思える点はあるのですが、実際には、IFRSが企業の清算価値、期末に企業を精算した場合の価値を求めようとしているわけではありません。

ファイナンス理論の考え方で、公正価値というのは、端的に言って時価ということですが、将来生み出すキャッシュ・フローを現在の価値に置き換えたものとされています。公正価値による評価を広く採用することで企業の将来キャッシュ・フローをB/S上に表現しようとしているわけです。この将来キャッシュ・フローこそが、投資家の経済的意思決定のために必要な情報なのです。IFRSでは、過去や現在というより、将来どうなるのか、ということを判断するために、必要な情報を提供することを求めているわけです。

IFRSの基本をここで改めて考え直してみると、意外と見落とされている重要なポイントが隠されています。時には基本に立ち返ることも重要ではないでしょうか。


 


野口由美子