2011年6月27日月曜日

IFRS強制適用の延期について

イージフの松岡です。


すでに新聞報道等でご存知の方も多いと思いますが、6月21日に自見金融担当大臣からIFRS強制適用に関して発言がありました。発言の要旨を確認すると以下の2点になります。



”IFRS適用については、「中間報告」以降の変化を踏まえつつ、企業会計審議会における議論を6月中に開始する。”


”少なくとも2015年3月期についての強制適用は考えておらず、仮に強制適用する場合であってもその決定から5-7年程度の十分な準備期間の設定を行うこと、2016年3月期で使用終了とされている米国基準での開示は使用期限を撤廃し、引き続き使用可能とする。”



2009年6月に企業会計審議会から公表された「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」では、IFRSの強制適用について以下のように述べられていました。



”IFRSの強制適用については、2012年を目処に判断すること(2012年に強制適用を判断する場合には、2015年または2016年に適用開始)。”



この文言からIFRSの強制適用は、早ければ2015年3月期から開始すると解釈されていたわけですが、今回の大臣発言によりその可能性は否定されました。ただ、企業会計審議会での議論は、今月から開始されて年内いっぱいまでかかるとのことなので、最終的にどういう結論が出るのかはまだ不透明です。今回の発言の背景には、5月に産業界からの「要望書」や、SECのIFRS適用に関する作業計画案の公表があったことが挙げられています。


私たちのようなIFRSコンサルを手がけている立場からすれば、企業のIFRSへの取り組みが中断したり、進行が遅くなったりと決して歓迎できるニュースではありません。しかし、あくまでもIFRS適用を延期するという話であって、中止するわけではないので、今まで培ってきたノウハウや経験は無駄にはなりません。またそれは、既に準備を進めてきた企業にとっても同様です。


いずれにせよ今年のSECの決定がますます気になります。もしSECが、先月のスタッフペーパーで提案されたようなコンドースメントという名のコンバージェンスを採用するならば、2012年の日本の判断はさらに先送りされる可能性が高いでしょう。


松岡 佑三


“IFRS 適用に関する検討について”2011年6月21日 金融担当大臣 自見庄三郎



2011年6月20日月曜日

IFRS対応を前向きに取り組もう

イージフの松岡です。


IFRS対応で作業負荷が高い項目として減価償却方法および耐用年数の変更と連結グループの決算期の統一と会計方針の統一がよく取り上げられます。減価償却については、全ての固定資産について使用実態に即した減価償却方法と耐用年数を洗いだしていく作業に大きな負荷がかかります。連結については、全ての子会社・関連会社について決算期と会計方針を統一するために、抜本的な連結決算体制の変更が求められます。


これらはたしかに大変な作業ですが、その作業量に見合った成果は得られないのでしょうか。単にIFRSという制度対応だけの成果しか得られないのでしょうか。IFRS対応のコストベネフィットについて考えてみたいと思います。


減価償却費


日本の会計実務では、長らく税法規定に沿った減価償却費の計算が行われてきました。企業が固定資産の減価償却を考えるにあたっては、税務メリットと事務負担の軽減が念頭にあり、その固定資産の使用実態を反映させるということは考慮されてきませんでした。しかし、財務諸表の目的は企業実態を忠実に表現することであり、その観点からすれば日本基準であっても減価償却費は、資産の使用実態を表して然るべきです。


決算期と会計方針の統一


また、連結グループの決算期の統一、会計方針の統一についても同様に、連結財務諸表の目的は連結グループの経済的実態を忠実に表現することであり、その観点からすれば日本基準であっても決算期と会計方針を統一した財務諸表を連結すべきです。決算期がずれていて会計基準が不統一な財務諸表を連結したところで意味のある数字は出てきません。


実態を表さない数字からは、投資家は投資判断を誤り、経営者は経営判断を誤ります。IFRSへの対応を機に、連結財務諸表はより実態を忠実に表すようになり、その品質が高まります。IFRSへの準備は制度対応という受け身の発想ではモチベーションも高まりませんが、品質を向上させると思えば前向きに取り組めます。


松岡 佑三



2011年6月13日月曜日

「東京合意」の達成状況を公表

イージフの松岡です。


6月10日に企業会計基準委員会(ASBJ)と国際会計基準審議会(IASB)は、2007年8月の両者間の覚書である「東京合意」の達成状況について発表しました。


ここで、東京合意とはどういった内容のものであったか、簡単に確認しておきます。


東京合意とは、ASBJとIASBとの間で日本基準とIFRSのコンバージェンスを加速化するために以下の内容について合意したものです。


(1)2008年までの短期コンバージェンスの終了


2005年7月に公表された欧州証券規制当局委員会(CESR)による同等性評価の過程で特定された日本基準とIFRSの間の主要な差異について2008年までに解消すること


 


(2)残りの差異については 2011 年 6 月 30 日までに解消を図ること


 


(3)2011年より後に新たな会計基準が適用となる際に日本において国際的なアプローチが受け入れられるように、緊密に作業を行うこと


 


このうち、(1)については期日までにすべての短期コンバージェンスが完了し、2008年12月に欧州委員会(EC)が、「日本の会計基準は欧州で利用されているIFRSと同等である」とする認定を下したことで目標は達成されました。


今回の報告の主眼は、(2)残りの差異について6月末までに解消が図られたのかどうかという点になります。(2)に含まれる項目は全部で5つあり、セグメント情報に関するマネジメント・アプローチの導入、過年度遡及修正、包括利益の表示の3つについては期日までに完了しましたが、企業結合(ステップ2)と無形資産については、2011年第3四半期に公開草案を公表予定というステータスになっており、遅延しています。


ただ、この2つが遅延したとはいえ、日本基準がIFRSへ歩み寄っていく姿勢は変わりません。以下、ASBJがIASBへの関与を深めている状況を本報告から引用します。



“ASBJは、IASBが日本で開催するラウンドテーブルやアウトリーチへの積極的な協力や、アジア・オセアニア会計基準設定主体グループ(AOSSG)の議長国として、アジア・オセアニア地域における開発中のIFRSに対する意見集約等の活動を通じて、IASBの基準開発に積極的に参画してきた。これらの結果、国際的な会計基準の設定プロセスへの ASBJ の貢献は効果的であり、IASBはASBJの意見も十分に検討した上で基準開発を行ってきている。”



 


また、2011年2月にはIASB初の海外拠点となるアジア・オセアニア地域の支部が東京に置かれることが決定しました。日本としてもIASBに対する影響力を強めていきたいという思いがあるのでしょう。今後も日本の会計基準開発は、IASBの動向を抜きにしては語れません。2012年を目途としたIFRSの強制適用に関する意思決定に向けては、その協力関係を深めていく意向としています。


IASBとしては、早く日本にも強制適用を決定して欲しいが、ASBJとしてはIFRS適用後も日本の影響力をいかに保持していくかが課題です。今後も、両者の協力関係と駆け引きに注目していきたいと思います。


[ASBJ]企業会計基準委員会と国際会計基準審議会が、東京合意における達成状況とより緊密な協力のための計画を発表(第13回会合)


 


松岡 佑三


 



2011年6月6日月曜日

日本のIFRSに対する姿勢

イージフの野口です。


日本がIFRSを適用すべきか否か、という議論はいろいろなところでなされるようになりました。多くの方が感じられているかもしれませんが、IFRS反対派の意見も根強いように思います。確かに、始めからIFRS適用ありきで話が進められるべきではなく、いろいろな角度から議論がなされるべきだと思います。あまりにも、いろいろな意見が出てきてしまって、今の日本の方向性がよく分からなくなってしまうこともあり、ここで、金融庁が示している日本のIFRSに対する姿勢を再度確認しておくことが必要ではないでしょうか。

まず、平成21年6月に公表された「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」で日本がIFRS に移行すべきという基本的な考え方が示されました。ここで、2012年頃に上場企業の連結財務諸表に強制適用することの是非を決定するということが明示されています。2012年の判断後、十分な準備期間をとった後に強制適用となるとしており、それが2015年または2016年ということになっているわけです。
2012年の判断にあたっては、以下の課題の達成状況を見極める必要があるとされています。
・IFRSが日本の企業の実態を適切に反映したものになっているか
・日本の会計関係者がIASBに積極的、効果的に意見発信を行なっているか
・IFRSが迅速に日本語に翻訳されるようになったか
・IFRSの教育・研修が十分に行なわれているか

これらの課題のうち、1点目はIFRS側の問題でもあると思います。実際IASBでもその問題については認識されているようです。実際にIFRS9では日本の企業実態を反映するために、持ち合い株式について公正価値による評価差額をその他の包括利益で認識するというオプションを用意しています。これは日本のため(日本以外の国にとってはあまり問題にならないのではないでしょうか)の改訂といえます。

2点目以降は、日本国内での取り組みが重要となってきます。特に教育の問題は非常に重要かつ深刻な問題だと思います。企業でも監査法人でもIFRSに対応できる人材はまだ十分ではないのではないでしょうか。日本基準とIFRSでは、全く考え方が異なるのですが、その異なる考え方をベースに話ができていると感じられることは私自身あまりありません。人材の育成というのは、時間がかかるもので、継続した取り組みによりようやく身を結ぶことになりますが、手間を惜しんではいけないと思います。

2010年3月期末からIFRSの任意適用もすでに認められていますが、IFRSの法的位置付けは、連結財務諸表規則に定められています。連結財務諸表規則では、「金融庁長官が指定する国際会計基準に従うことができる」とされ、金融庁長官による指定の要件というのは、以下の4点です。
・内容が明確な基準案が予め広く周知されている
・関係者間で適切な議論が行なわれている
・多数の関係者が経済的実態に適合した合理的な内容と評価されている
・公正妥当な手続を経て作成および公表されている

このような要件を満たしていないIFRSというのは基本的にはないわけで(IAS39の一部の改訂内容については、満たしていない可能性があると思いますが)、IFRSがそのまま日本で適用されることになります。実際、現在日本では全くカーブアウトはされていません。

このように金融庁の説明をみている限り、日本はすでに後戻りもできない状況にあるという印象を受けます。現在認識されている課題のうち、教育は最も重要だと思いますが、合わせていかに日本に根付かせるせるのか、というところはもっと多く議論がなされるべきではないでしょうか。


 


野口由美子