2011年7月26日火曜日

IFRSプロジェクト中断か継続か

イージフの松岡です。


強制適用の延期発表を受けて、各企業はIFRSへの取り組み方を再考する必要が生じました。端的にはIFRSプロジェクトを中断するのか、そのまま継続するのかという問題になります。中断、継続、それぞれの判断の違いはどこから生じるのか、その決定の根拠をみていきます。


 


IFRSプロジェクトを中断


今回の発表を受けてIFRSプロジェクトを中断した企業は、プロジェクトの目的をIFRSへの制度対応としてのみ捉えています。2015年3月期を最初のIFRS報告日として、比較年度の期首である2013年3月末までにIFRSベースの財務諸表を作成できる体制にすることを目標としていました。


強制適用の延期が確実となったことで準備期間が長くなり、また強制適用の発表から5-7年の準備期間が設けられることから強制適用の発表を待ってプロジェクトに着手しても手遅れにならないという見通しが立ちました。したがって、急いでプロジェクトを進める必要はなくなり、IFRS導入の正式発表があってから再度プロジェクトをスタートさせればよいという判断になりました。


 


IFRSプロジェクトを継続


プロジェクトを継続している企業のパターンとしては大きく2種類に分けられます。


1つ目が、IFRSの早期適用を予定している企業です。ここには早期適用を予定している企業を親会社にもつ子会社や関連会社も含まれます。今回の強制適用の延期発表には関係なく、目標としている年度に向けての準備を継続して進めることになります。


2つ目が、プロジェクトの目的を制度対応だけでなく、管理会計や業務標準化という観点を取り入れている企業です。IFRSを契機として全世界の子会社のシステムを統一し、業務プロセスを標準化し、グローバル展開を効率化していくという目的を持っています。


早期適用は予定していないが、グループ全社での共通システム導入や、業務の標準化や効率化といった課題から優先して取組んでいくためプロジェクトを継続するという判断になります。強制適用までには時間があり、その間にIFRS自体も変化していくため強制適用の発表があるまでは会計上の論点や、グループ会計処理基準の作成は後回しにして、決算期の統一やグローバル業績管理システムの構築などに注力しています。


 


日本国内だけでビジネスが完結している企業ならば、プロジェクトを中断という決定が合理的かもしれません。一方、グローバル展開をしている企業にとっては、IFRS適用を抜きにしてもグローバルベースの管理会計やシステムの統一、業務の標準化といった課題があり、IFRS導入も見据えた上でこれらの課題に取り組んでいくことが企業の競争力を高めることに繋がるのではないでしょうか。


 


松岡 佑三



2011年7月11日月曜日

業種別IFRSの解説-製造業-

イージフの野口です。IFRS導入の影響は企業によってさまざまなので、その対応方法は一様でないところが難しいところです。そこで、IFRS適用上大きな問題となるポイントを業種別に解説します。
今回は製造業を取り上げます。

固定資産
製造業の多くの企業では生産設備等多くの固定資産を保有しているため、固定資産の影響は非常に大きくなります。固定資産についての検討項目としては以下のものがあります。
・固定資産原価の範囲
・償却単位
・償却方法
・耐用年数
この中で、実務上、多くの会社で問題となってくるのは償却方法と耐用年数です。固定資産の原価の範囲としては、借入費用が問題となる場合ありますが、固定資産の完成までに長期間要するような大規模なものに限られますので、借入費用についても影響を受ける資産は、それほどないのではないでしょうか。

固定資産の減価償却については、特に一定の方法を採用しなければならないわけではありません。資産の使用状況に適したものを採用するべきであり、
これまでの使用状況
陳腐化などによる価値の減少の状況
将来の使用計画
といった、社内社外の経済環境を考慮すべきです。

原価計算関係
製造工程にはさまざまな形態があります。社内ですべての工程を行なう場合もありますし、OEMなど外部に委託する場合もあります。製造工程が複雑な場合は、どのタイミングで費用を認識するのか、改めて検討する必要があります。具体的には、契約内容の確認から必要となりますが、契約の形態によっては、製造に直接関係するものだけでなく、開発活動の一部であったり、第三者からの材料等の調達に関するものであったり、内容が多岐にわたっている場合もあり、判断が難しい場合も考えられます。

その他にも、原価計算に含める原価項目には固定資産や従業員給付等、IFRSベースの金額が異なってきます。IFRSベースの原価計算と日本基準(税法基準)の原価計算は結果が異なる場合も想定されますので、システム上の対応を行なうか、スプレッドシートでの計算を行なうのか、何らかの対応策が必要となります。

無形資産
製造業で重要な活動に研究開発があります。IFRSでは、開発費の一部は資産として計上することになります。最近は研究開発活動の一部を外部委託するケースもありますが、そのような場合であっても、開発費の資産計上は避けられるわけではありません。

資産計上が必要となる開発費とは、将来の経済的便益に結びつくかというところが重要なポイントとなります。判断には、各会社でのビジネスモデルに密接に関わってきます。実際に開発費の処理については、各社でかなりの違いがあり、自動車製造などでは資産計上する割合が高い反面、部品製造や、精密機器製造ではかなりばらつきがあり、一定の傾向がないようです。

資産の減損
資産の減損については、すでに日本基準にも固定資産の減損会計が導入されているものの、慎重な検討が必要となります。日本基準での減損は減損の兆候がある程度具体的、限定的なケースを想定し、数値基準などの要件も定められています。一方、IFRSでは、減損の兆候をもっと幅広いものと捉えています。

例えば、以下のような状況に合った場合、減損の兆候があると、判定される可能性があります。
・営業利益やキャッシュ・フローの減少(2期連続とは限らないので注意が必要です)
・技術的陳腐化
・他社との競争環境の変化
・規制等の変化
・資産の物理的滅失
・資産の使用計画の大幅な変更

すでに触れましたが、日本基準のように数値基準といった具体的なものがない中で、どのように減損の兆候を検討していくかという問題は重要な課題となります。

収益認識
収益認識は多くの業種にとって重要な問題となりますが、製造業においても慎重な検討が必要となります。よく問題として取り上げられるのが、製造業で幅広く採用されている出荷基準が認められないのではないか、ということですが、海外の製造業では出荷基準が全く使われていないというわけではありませんし、一律に認められないというわけではありません。

考え方としては、いつ支配が顧客に移転したのか、ということにまず着目することがポイントになります。契約書の内容を確認することも必要ですし、これまでの取引の状況から取引の実態を検討することも必要です。たとえば、契約上は支払いが完了するまで所有権の移転が留保されているというケースはよくあると思いますが、所有権の移転が必ずしも支配の移転のタイミングとなるわけではありません。実際にそのような所有権移転条項がどれだけ機能しているのか、ということも過去の実績等から検証する必要があります。


野口由美子



2011年7月5日火曜日

IFRS適用延期を受けた企業会計審議会の議論

イージフの松岡です。


6月30日に開催された企業会計審議会総会での配布資料が公開されました。その中からいくつか気になった点をご紹介したいと思います。
まずは、日本を代表する企業が名を連ねて5月25日付けで提出した「我が国のIFRS対応に関する要望」です。冒頭に次のように述べています。



”我々は国際社会との接点なしには活動はできず、資金調達もグローバルに行われており、会計基準の国際化の必要性については疑う余地は無い。”



当然、この要望書に名を連ねている企業はグローバル展開をしているわけですから、IFRS導入という取り組みそのものを否定しているわけではないのですね。
続いて、最終段落に大臣発言の根拠となった文言がありました。



”具体的手続きとしては、IFRSの適用範囲について、少なくとも、2015年に上場企業一斉の強制適用がないということを早急にアナウンスした上で、金融庁企業会計審議会中間報告を修正するという明確な対応をお願いしたい。”



大臣発言は、まさにここに書かれた要望を完全に応えた形で表明されたわけですね。

次は、経団連が6月29日付けで提出した「IFRSの適用に関する早期検討を求める」です。最後から2段落目に強制適用の範囲について述べられています。



”企業が上場する市場は様々であり、企業の実態も大きく異なることから、強制適用の是非の判断をする上で、その対象範囲を絞り込むための議論を行うことが現実的である。”



現在、外国人投資家の売買比率が6割を超える東証1部については議論の余地がないと思いますが、その他の市場については果たしてIFRS適用がどれだけベネフィットがあるのか検討する必要がありそうです。


いずれにせよ2012年を待たずして本格的な議論が再開しました。結果はどうなるにせよきちんと議論を重ねていく中で、日本にあった日本の国益に資するIFRSへの取り組み方が見出されていくことを願っています。


準備期間が伸びたことは、強制適用での対応を考えていた企業にとって朗報です。しかし、プロジェクトをストップしたり、スタートを遅らせたりして動向を静観するだけでは、せっかく与えられた時間がもったいないです。この時間を利用して、IFRS導入を単なる制度対応ではなく、自社グループのグローバルベースの管理会計インフラとして、またグローバルで業務プロセスの標準化と効率化を実現するきっかけとして取り組むにはどうすればよいかを考えることが望ましいと思います。


 


企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議 議事次第


 


松岡 佑三