2011年8月31日水曜日

日米ともにIFRS導入は停滞気味

イージフの松岡です。
IFRS導入に関する日米の最近の動向を紹介します。



1.日本の状況


企業会計審議会の総会が8月25日に金融庁で開催され、前回(6月30日)に引き続きIFRS導入についての議論がなされました。推進、反対、それぞれの委員が意見を述べたようですが、今後の方向性が定まるまでには至らなかったようです。

事務局の案として『現時点で検討が必要であると考えられる主要な項目』が11項目挙げられました。我が国の開示制度のあり方からはじまり、幅広く総論的なテーマが掲げられています。この中には、今、上場企業の経理部長が最も知りたいと思われるIFRS適用の時期と対象範囲といった項目がありません。


個人的には、日本基準を維持してIFRSを適用しないという選択肢はないと思っています。しかし、安藤会長は勢力を増してきた反対派に配慮してか、「2012年を目処に決めるということでIFRS適用を決めてはいない」と発言しており”適用するか否か”という点から議論をやり直すつもりかもしれません。

藤沼亜起氏(IFRS財団副議長)は、中国が旗振り役となってIASB内に組織した新興経済グループ(EEG)に言及して、「EEGはサテライトオフィスを骨抜きにできる。韓国もIFRS財団の議席を要求している。このような国際的な状況を理解してほしい」と発言したそうです。


まったく同感です。日本が国内に閉じこもって内向きな議論をしている間に、IASBでの日本の地位が地盤沈下してしまうおそれがあります。反対派の委員も述べているとおり日本は人口減少社会となっているのだから、人口が増え経済が発展している国でビジネスをしていかなければ日本企業の継続的な成長は望めません。そうした状況の中でIASBへの影響力を失うような決定は厳に慎まなければなりません。



2.米国の状況


SECは米国のIFRS導入についての公開討論会を7月7日に開催しました。投資家、中小公開企業、規制当局からパネリストが出席し議論をしました。パネリストの多くは、SECが5月に示したコンドースメント・アプローチを支持したそうです。また、SEC委員長のメアリーシャピロも「IFRSを米国に組み込むかどうかの決定は軽く取り扱われるべきではない」と慎重な姿勢を示しています。


今年中にSECの決定がなされる予定ですが、どうやらコンドースメント・アプローチが採用されそうな様相になってきました。

IFRSロードマップはどうなる? 金融庁審議会の議論を追う

SEC Roundtable Ponders IFRS ‘Condorsement’

松岡 佑三



2011年8月22日月曜日

業種別IFRSの解説-建設業-

イージフの野口です。


IFRS導入の影響は企業によってさまざまなので、その対応方法は一様でないところが難しいところです。そこで、IFRS適用上大きな問題となるポイントを業種別に解説します。
今回は建設業を取り上げます。

収益認識
建設業では現在の日本基準のもとでは、原則工事進行基準が採用されています。IFRSでは、収益認識の基準が改訂されるに伴って、工事進行基準の取り扱いがどうなるか注目されていました。新しい収益認識の基準では、支配の移転をもって顧客に対する義務を履行したと考えるので、建設業の場合、顧客に完成した建物を引き渡す時点まで収益認識がはできないのではないか、工事完成基準しか認められないのではないかという議論がありました。

結論としては、工事進行基準そのものは確かに廃止されるのですが、ほぼ工事進行基準に近い収益認識の方法が一般的に採用されることになります。新しい基準では支配の移転が重要な収益認識のポイントとなるのですが、客先のサイトで建物を建設しているような場合、完成途中の建物も顧客の支配にあると考えます。なので、継続的に支配がしているために、工事のインプットやアウトプットに基づいて収益を認識するものとされています。

JV(ジョイントベンチャー)の処理
建設業の特殊な会計処理としてJVの取り扱いがあります。JVは高層ビル等大規模な工事を複数の企業が共同で行なう場合に一時的に作られる組織体です。日本基準のもとではJVという組織のもとで工事を行なう場合であっても、あたかも単独で工事を行なっているかのように処理します。簡単に言うと、工事の原価や収益のうち出資比率分だけを自社の分として計上していきます。

しかし、IFRSでは、このような処理は認められません。JVも子会社等他の事業体と同様に取り扱い、連結や持分法の範囲に含められるか検討することになります。ここで問題になるのは会社がJVを支配しているか、ということになります。有効な支配を有している場合は子会社となります。実際多くのJVについては、特定の会社の支配ではなく、共同支配が認められる可能性がありますが、この場合は基本的に持分法が適用されると考えられます。
このようにJVについては連結や持分法といった処理が必要になるため、財務数値への影響も大きく、業務上の負担も重いものとなります。

借入費用
借入費用の資産化は日本基準にはありませんが、建設業に影響があると考えられます。IFRSでは、適格資産の取得にかかる借入についての費用は資産の原価に含める必要があります。この適格資産というのは、意図した使用、販売が可能となるまでに相当の期間を必要とする資産のことになります。相当の期間がかかる、ということで、かなり大規模な資産を想定しているわけですが、建設会社は自ら借入を行なって資金を調達し、工事を実施していると考えることができるので、借入費用が工事原価に算入する場合があります。

実際の適用にあたっては、借入と工事を紐付けなくてはなりません。借入時に特定の工事に直接結び付いている場合には簡単ですが、特にそういった関係性がなく資金を一元で管理しているような場合は、識別が難しくなります。IFRSではこのような直接的な関係がない場合であっても、適格資産の取得に使用した範囲を算定することを求めています。具体的には、当期の借入金残高に対する借入費用の加重平均を適格資産の取得に要した支出に乗じて算定します。

ここでは主要な論点を取り上げましたが、IFRSが建設業にあたえる影響は、本業のビジネスの業務に直結しており、非常に大きいものです。システム面での対応を含め、いかに効率的な業務を構築できるかが重要な課題になると思います。


 


野口由美子



2011年8月9日火曜日

米国のIFRS導入に関するSECスタッフ・ペーパーの解説

イージフの松岡です。


2011年5月26日、SECのスタッフは、「米国の発行企業の財務報告制度への国際財務報告基準の組み込みに関する検討のためのワーク・プラン-考えられる組み込み方法の探求」(以下、スタッフ・ペーパー)を公表しました。この組み込み方法はコンドースメント・アプローチと呼ばれています。コンドースメントとは、コンバージェンス(convergence)とエンドースメント(endorsement)を合成した造語です。今回は、このコンドースメント・アプローチについて解説します。


 


1.概要


コンドースメント・アプローチとは、米国の会計基準設定主体であるFASBが5~7年をかけて米国会計基準にIFRSを段階的に組み込むことにより、米国会計基準に準拠した米国企業が、IFRSに準拠していると表明できるようにすることです。スタッフ・ペーパーでは、FASBは米国会計基準の開発や改訂に労力を費やすのではなく、IFRSの開発に深く関与することに軸足を移すべきであるとしています。



2.メリット・デメリット


次にコンドースメント・アプローチの主要なメリットとデメリットについてみていきます。


・IFRSを段階的に導入することができ、米国企業が一度にIFRSをすべて組み込む場合の「ビック・バン」アプローチのコストを回避することができます。また、特定の期間において、米国企業が導入する会計基準の数を減らし、投資家が適応しなければならない会計基準の数を減らします。これにより企業、投資家を含めた市場関係者に新しい会計基準についての学習と準備の時間が十分に与えられます。


・米国会計基準が維持されることで、米国会計基準を参照している文書(法律、契約書類、規制および指針など)を変更する煩雑さが回避されます。


・FASBが米国会計基準に組み込むIFRSの規定を修正したり、追加したりすることによって米国版IFRSが開発されるリスクがあります。


 


3.まとめ


コンドースメント・アプローチは、一歩踏み込んだコンバージェンスといえるでしょう。現在でも米国はコンバージェンスを進めていますが、米国会計基準をIFRSに近づけるのではなく、IFRSそのものをFASBによる承認手続きを経て米国会計基準に組み込んでいきます。ただ、段階的に個別のIFRSを自国基準に組み込んでいくコンドースメント・アプローチと「ビック・バン」アプローチを念頭においているIFRS1号「初度適用」の関係はどうなるのでしょうか。コンドースメント・アプローチが完了して作成された財務諸表に「すべてのIFRSに準拠している」という明示的かつ無限定の記述ができるのか現時点では疑問となります。


 


Work Plan for the Consideration of Incorporating International Financial Reporting Standards into the Financial Reporting System for U.S. Issuers


 


松岡 佑三



2011年8月2日火曜日

IASB、7月26日にワークプランを更新

イージフの松岡です。


IASBは、前回6月30日に更新してからまだ1ヶ月も経っていませんが、7月26日にワークプランを更新しました。今回は、その主要な内容と周辺のニュースについてお知らせします。


まずは金融危機関連プロジェクトの目玉である金融商品についてです。IFRS第9号「金融商品」の強制適用時期を2013年1月1日以降開始事業年度から2015年1月1日以降開始事業年度に遅らせる暫定決定が行われました。


その他、多くのプロジェクトについて後ろ倒しになっています。公開草案(再公開草案を含む)またはレビュー・ドラフトの公表が遅れたものとしてヘッジ会計のうちマクロヘッジ、リース、保険契約の3つがあります。最終基準の公表が遅れたものとして金融資産と負債の相殺と収益認識の2つがあります。これらはいずれも前回の公表よりも3ヶ月から半年ほど公表が遅れることとなりました。


プロジェクトの遅延は、日本でのIFRS強制適用延期の影響も遠因となっているのでしょうか。IASBとしても拙速に事を進めるよりも、今はペースを落として時間をかけてでも利害関係者の合意を取りながら進めていく方が得策と判断しているのでしょう。


また、7月1日からIASBの議長がデイビッド・トゥイーディー卿からハンス・フーヘルフォルスト氏に交代し、公開協議に関する意見募集も開始されました。IFRS採用国増加により新たな課題が浮上してきたことで、IASBの今後の活動について優先的に取り組むべき課題について幅広く意見を募集するとしています。議長をはじめIASB理事の顔ぶれも変わったことから仕切り直しといったところでしょう。フーヘルフォルスト議長は、就任挨拶の中で米国がIFRSを完全に組み込むことに楽観的な見解を持っているようですが、どうなることでしょうか。引き続き見守っていきたいと思います。


IASB work plan - projected timetable as of 26 July 2011


ハンス・フーヘルフォルスト氏がIASBの議長に就任される


松岡 佑三