2011年12月20日火曜日

IFRS概念フレームワークのおさえるべきポイント

イージフの野口です。
IFRSを考えるにあたって、概念フレームワークを一度おさえておきたいと考える方は多いと思います。概念フレームワークというものは直接適用されるものではありませんが、すべての基準書がこのフレームワークに則って作られることになるわけですから、その考え方をきちんと理解しておくことが、基準書を適用する時にも本来であれば必要であるわけです。しかし、直接適用されるものではないため、常日頃から参照するような位置づけではなかなか読めません。存在自体を忘れて個々の基準書の記載内容だけ追いかけて考えてしまいがちなので、一度だけでもきちんと見ておくべきだと思います。



今回は2010年9月に改訂された財務諸表の目的、有用な財務諸表の質的特性に着目します。



財務諸表の目的
概念フレームワークによると、そもそも財務諸表の目的は、既存の、潜在的な投資家、貸付者、及びその他の債権者による報告企業の価値の見積りに役立つ情報を提供することです。改訂前では投資家保護が全面に打ち出されていましたが、現在は債権者も強調されています。債権者であっても、投資家と同様に、企業の将来のキャッシュ・フローの見通しに関する情報を必要としている点では同じであり、これまでのフレームワークのスタンスが大きく変更された、というわけではないと思います。また、企業の将来の見通しに役立つ情報提供が目的なのであって、企業の価値を示すわけではない、ということを明言しています。IFRSの資産負債アプローチを強調するあまり、純資産=企業の価値というイメージが強いかもしれませんが、IFRS自体は純資産が企業の価値そのもの、という考え方をしているわけではないのです。

有用な財務情報の質的特性
概念フレームワークでは、有用な財務情報の質的特性を基本的な質的特性と補強的な質的特性の2つに分けています。
基本的な質的特性とは、関連性、忠実な表現、の2つです。関連性というのは、財務諸表利用者の意思決定に違いをもたらすことを言います。意思決定に関係がない情報というものははじめから扱う必要がないのです。関連性は重要性の問題でもあります。利用者の意思決定に影響を与えない情報は重要性もありません。しかし、この重要性というのは企業の固有の関連性の問題ということになります。重要であるか否かは、その項目の性質や規模などによって異なるからです。重要性は画一的定量的な基準では定めることはできないとされています。



また、忠実な表現というのは、完全性、中立性、誤謬がないことを意味しています。ここで、誤謬がないということは完全に正確であることではないとしています。たとえば、価値の見積りを行なった場合、それが完全に正確であるかどうかは分かりません。絶対に正しいことは証明しようがありませんが、その見積りのプロセスや性質、限界が適切に説明されていれば、それは忠実な表現となりうるとしています。
基本的な質的特性を備えていなければ有用な財務情報となりません。一方、この基本的な質的特性を補強する特性があることも概念フレームワークでは説明されています。



補強的な質的特性は、比較可能性、検証可能性、適時性、理解可能性の4つです。この中で、特に比較可能性については、一貫性と画一性との違いについて説明されています。一貫性というものは比較可能性を達成する上で役立つものであり、一貫性自体が補強的な質的特性ではありません。したがって、同じ項目について同じ方法を用いること自体が重要ではないのです。また、画一性については、似ていないものを似ているようにみせることにつながるとして、比較可能性を補強するものではないとしています。



概念フレームワークでは、これらの質的特性と同時にコスト制約についても触れています。情報の提供にはコストがかかります。概念フレームワークでは、このコストが情報を報告することの便益により正当化されることが重要であるとしています。何でも情報提供すればいいというわけではないのです。また、基準書内では、このコストと便益については財務報告一般に関連して考慮しているのみであり、統べての企業において同じ報告に関する規定が必ずしも正当化されないとしています。企業の規模の違いや資本の調達方法、利用者のニーズの違い等により異なることが適切な場合があるのです。



このようにみてみると、概念フレームワークには、基準書の適用について判断を行なう際のヒントがあるように思います。特に、質的特性としての関連性、コスト制約などは実務においても忘れてはならない視点ではないでしょうか。


野口由美子



2011年12月5日月曜日

FRSと業績管理

イージフの野口です。
IFRSは日本では連結財務諸表のみに適用されることが予定されています。したがって、個別財務諸表では日本基準となります。
個別と連結で会計基準が違う状況でどのように業績管理を行なっていくか。IFRS適用にあたっては避けられない問題になります。

外部報告としては連結の数値が重要視されるのですから、外部報告と業績管理をリンクさせていくにはIFRSベースでの業績管理を行なっていく必要があります。外部に公表される財務数値と違うものを業績管理に使っていると、社内の管理資料をもとにプラスになる意思決定を行なっても、IFRSベースになるとマイナスの影響をもたらすという結果になるかもしれません。しかし、その一方で、IFRSでは公正価値による測定を重視するために、市場の動向による利益変動が非常に大きく、また、従来の日本基準での利益概念と異なる考え方をとっているため、業績管理には向いていないのではないか、と考えられる場合もあります。

基本的に業績管理に使われる管理会計は各社によって、さまざまな方法があるため、一概にIFRSではこうすべき、という方法があるわけではありません。IFRSのもとでどうするのがよいのか、各社が答えを見つけることになります。

海外ではどうなのか。ICAEWの調査(EU implementation of IFRS and the Fair Value Directive)EUでは、IFRS適用後にIFRSベースで業績管理を行なうようになった企業が69%に及んだと報告されています。しかし、そのように業績管理を変更した企業のうち、IFRSベースでの内部の業績管理は有効か、という質問に対しては48%が有効であるとしているものの、一方で31%が有効でないと答えています。IFRSが社内の管理にそもそも適していないのか、まだ管理手法が確立されていないのか、いろいろな意見が想定されますが、IFRSのもとでの業績管理は先行している海外企業でも試行錯誤しているのではないかと思います。

しかし、IFRSを適用する企業のメリットは、グループ全体の業績管理がより高度化できるところにあると思います。一般的に適用のメリットとしては、海外での資金調達が容易になることや、比較可能性の向上なども挙げられますが、本来、一番のメリットは業績管理にあるのではないでしょうか。

IFRS適用にはコストがかかり、そのコストに見合ったものを社内に残そうとするのであれば、やはり業績管理の高度化を目指すしかないと思います。先ほど紹介したICAEWの調査というのは2007年に公表されたもので少し古いのですが、より最近では、EUの企業でも、2005年の強制適用には間に合わなかったものの、IFRSベースでの業績管理の高度化や業務の効率化を目指して、グループ全体での業務改革を進めているという話を聞きます。具体的には、大幅なシステムの刷新等によりグループでIFRSベースの業績管理を行なうというものです。このような業績管理の高度化を達成した企業においては、IFRS適用のメリットを実感しやすいのですが、逆に単なる制度対応で終わった企業では、特にメリットを感じることができないのではないかと思います。

IFRSの理念としては、財務諸表は投資家に必要な情報を提供するためにあり、そこで報告される数値というものは、企業が投資家の利益になるように行動するため企業内部でも利用されるものであるはずです。現在の実務ではまだその方法は確立されているものではないのですが、すべての上場企業が取り組まなくてはならない課題だと思います。


 


野口由美子