2012年12月11日火曜日

いよいよIFRSの新しい収益認識の基準書が公表へ

イージフの野口です。今年も早いもので年の瀬を迎えましたが、いよいよ、来年はIFRSの収益認識が新しい基準書に公表されます。長い期間をかけた審議は紆余曲折、その議論を追っていくのも大変でした。しかし、収益認識を1つのアプローチにまとめる、という当初の目的は達成されようとしていると思います。


今回もIFRSフォーラムからの連載記事の紹介ですが、この記事では収益認識の議論をまとめ、新しい基準書で採用される考え方を紹介しています。


この記事で概要を把握してから、新しく公表される基準書(来年公開されることになるわけですが)を確認するとわかりやすいのではないでしょうか。是非ご覧ください。


よろしくお願いします。


イージフ


野口


 



2012年12月3日月曜日

Amazon 財務管理カテゴリー1位獲得「初めてでもよくわかる原価計算」

イージフの野口です。今回は著書の紹介です(このブログはIFRS専門ブログなので、今回はIFRSと直接関係のない記事になり恐縮ですが)。


原価計算の入門書を執筆しました。「初めてでもよくわかる原価計算」(日本実業出版社)です。初めて原価計算に触れる人をターゲットとして、簿記の知識がなくても、図表のイメージや簡単な計算例で原価計算全体像を理解できます。すでに会社で実務をされている方も使えるように、実務で重要なトピックを多く盛り込みました。


本書は、岩谷誠二公認会計士事務所blogCFOのための最新情報で書評をいただきました。ありがとうございます。


おかげさまで、Amazonの財務管理カテゴリーで1位になりました。


 



Amazon.co.jp ベストセラー財務管理



是非みなさんにもお手に取っていただければと思います。よろしくお願いします。


イージフ


野口



2012年11月7日水曜日

原則主義と細則主義とIFRS

イージフの野口です。今回はIFRSフォーラムでの連載記事を紹介します。


IFRS=原則主義、というのは基本中の基本で、IFRSの最も重要な特徴として紹介されています。確かに、細則主義とされる日本の会計基準とは大きく違う点で、基準を理解するにはまず押さえておかなければならないことです。


しかし、実はこのIFRSの原則主義も最近は大分揺らいできているというのが実態です。細則主義の代表である米国基準とのコンバージェンスが進んだ結果、米国基準の影響を大きく受けたため、IFRSにも細則主義的な要素が見られるようになってきました。今回の記事では、その変容について、経緯を含めて紹介しています。今のIFRSを理解する上では重要な視点ですので、是非記事を見ていただきたいと思います。


前回の記事で紹介した、公正価値やBS重視、そして今回の原則主義、どれもIFRSの大きな特徴ですが、大きな変化を遂げています。このような前提を知った上で、現在のIFRSを見ると、かなり見方も変わってくるのではないでしょうか。


 


イージフ


野口


 



2012年10月10日水曜日

IFRSの収益認識: 損失覚悟の売上はどう扱うか

今回もまた引き続き、収益認識を取り上げたいと思います。

今回は、損失が出てしまうことがわかっている上であえて取引をする場合の取扱いについて、という少し個別的なトピックを紹介します。特別なトピックではありますが、IFRSの考え方がよく表れている論点だと思います。


意図的に損失を出すような取引というのは現実には意外と多いものです。取引実績を作り、将来の取引で利益を得ることを期待して、企業はこのような取引をすることがあります。

このような取引についてIFRSの収益認識では、どのように考えているのでしょうか。現行のIFRSでは、引当金として扱います。引当金の計上要件を満たす場合、損失部分が引当金として負債計上されることになります。引当金の要件は以下のとおりです。



1. 過去の事象の結果として現在の債務を有していること
2. 該当債務を決済するために、経済的便益をもつ資源の流出が必要となる可能性が高いこと
3. その金額について信頼できる見積りができること



収益認識の公開草案では、取引によって生じる損失は負債として認識することになります。引当金として扱いません。従来の引当金と違うのは、引当金では契約単位で損失が発生するか否かを確認することになるのに対して、公開草案では履行義務単位で確認することが要求されていました。



通常企業は、契約単位で取引の損益を管理しているでしょうし、履行義務単位での損失の把握は非常に難しいものです。公開草案に対して、多くの反対が寄せられたためにこの点については変更されることになり、もともとの引当金と同じように契約単位で判断することになりました。また、損失が出るような不利な契約であるかの判定は契約当初において行われ、それ以降も不利な変化が生じた場合も再度検討することが必要となります。不利な契約であるかどうかの判断には、履行義務を充足するために直接関連する費用の期待値の現在価値が取引価格を上回っているかを見ることになります。



履行義務に直接関連する費用とは
直接労務費
直接材料費
契約または契約活動に直接関連する費用の配分額
契約において顧客に明示的に賦課できるその他の費用
契約を締結したことによって発生するその他の費用
契約を解除した場合に支払うであろう金額(解除することをコミットしており、かつ、解除することの契約上の権利を有している場合)が含まれます。



契約を解除した場合に発生する違約金等はここでの判断で考慮する必要があります。これは当初の公開草案にはなかったものです。しかし、契約の解除を実際にする場合は、また別の処理を行なうことになります。解除で発生した追加的な損失は基本的に引当金として認識します。



不利な契約の扱いについては、変更がいくつかありましたが、大枠としては引当金としていた従来の考え方にむしろ近くなっています。日本では、このような損失は引当金として処理してきた企業が多いですが、損失の判定に期待値や現在価値で考えるという方法はあまり一般的ではなかったと思います。このようなIFRS特有の考え方には注意が必要です。

イージフ
野口由美子



2012年9月25日火曜日

新しいIFRSへの変容

今回はIFRSフォーラムに寄稿させていただきました記事の紹介です。


IFRSといえば、


公正価値


BS重視


原則主義


という際立った特徴が取り上げられてきました。確かにこれまでIFRSはこのような特徴を持っていたのですが、この数年間、IFRSが改訂を繰り返しているうちに、これらの特徴はこれまでのように重要ではなくなってしまったかのような印象があります。


どのように変わってしまったのか、新しいIFRSはどのようなものか、最新の動向を踏まえて紹介しているのが今回の記事になります。


揺らぐIFRSの「公正価値」「BS重視」


是非、ご覧になって新しいIFRSの潮流を感じていただければと思います。次回は原則主義について取り上げる予定です。


イージフ


野口由美子


 



2012年8月29日水曜日

IFRSの収益認識: 2013年に向けての動向

今回は収益認識について、最新の動向をお伝えします。

収益認識については、IASBとFASBのコンバージェンスプロジェクトの一環として取り上げられ、2011年6月に新しい基準書を公表する予定で改訂作業が進められていました。しかし、審議が遅れ、2011年4月に基準書公表の時期を延期する発表がされています。収益認識については影響が大きく、改訂に対してさまざまな意見があったため、それをまとめるには想定していた以上に時間が必要だったようです。2011年11月に2回目の公開草案が公表され、2013年6月末までには新しい基準書が公表される予定となっています。

現在取り上げられている問題点は多岐に渡っていますが、最初の公開草案の考え方を大きく変更するような内容はありません。枠組みとしては問題ないのですが、実際に適用するにあたって具体性に欠けた規定になっているところが問題となっています。現在は、基準の内容をより実務上実行可能なものとなるように明確なものにする検討がなされているのです。

そもそも新しい収益認識の枠組みとはどのようなものでしょうか。改訂されるIFRSの収益認識の基準では、これまでのIFRSや日本基準などとは全く違う発想で収益認識を捉えています。基本的な流れは5つのステップになっています。

1. 顧客との契約を識別する
2. 契約における別個の履行義務を独立して識別する
3. 取引価格を決定する
4. 取引価格を各履行義務の配分する
5. 各履行義務を果たした時点に配分された取引価格を収益認識する

各ステップの内容は難しそうですが、実はこれまでの売上の計上の流れとあまり変わりません。捉え方が違うのでわかりにくいかもしれません。考え方としては、基本は契約単位で収益認識します。しかし、契約の中に別の義務がある場合はそれぞれ別に扱います。たとえば、機械装置の販売で契約の中に据付け工事や修理やメンテナンスのサービスが含まれている場合はそれらが別々の義務となります。それぞれの義務ごとに取引価格を算定し、義務を果たした時点でその取引価格が収益として認識されることになります。

物品の販売であれば、物を顧客に引き渡すのが企業の義務ですので、物を渡した時点で収益が認識されることになります。修理やメンテナンスサービスは契約期間中はずっとサービスを提供する義務を履行し続けているので、契約期間中に渡って収益を認識することになります。

では、工事契約で建設業の場合はどうなるでしょうか。完成した建物を引き渡すのが企業の義務となりますので、物品の販売と同様、建物が完成した時点まで収益を認識できないのでしょうか。実は新しい収益認識では、工事契約についてはこれまでの工事進行基準に似たような形で、工事中も収益を認識するものとしています。もともとそのような考え方をとっているのですが、2010年の公開草案では明確にその考え方が示されておらず、非常にわかりにくいものとなっていました。

2011年に2回目の公開となった公開草案では、このような一定期間に渡って収益を認識する場合の要件が新たに示されています。

(a) 企業の履行により資産が送出されるか、又は増価し、それにつれて顧客が当該資産を支配する
(b) 企業が他に転用できる資産が創出されず、かつ次の要件のうち少なくとも1つ該当する
(i) 企業の履行につれて、顧客が企業の履行による便益を同時に受取り消費する
(ii) 他の企業が顧客に対して残りの義務を履行するとした場合に、当該他の企業は、 企業が現在までに完了した作業を実質的にやり直す必要がない
(iii) 企業が、現在までに完了した履行についての支払を受ける権利を有しており、 契約を約束のとおりに履行すると見込んでいる

先ほどの工事契約を例に考えると、要件(a)を満たさないと考える方がいるかもしれません。しかし、顧客の土地の上に建物を建てているような通常の場合は、建設中の建物の支配は顧客に移転していると考えます。このような考え方の背景には、イギリス等では土地とその上の建物を別個の不動産せず、一体として扱うことがあるようです。

このように現在の収益認識の公開草案では内容の明確化を進めており、他にも要件や定義が新たに提案されているものがたくさんあります。他の提案内容についてはまた改めて取り上げていきたいと思います。

イージフ
野口由美子

2012年8月8日水曜日

ヘッジ会計改訂の最新動向

イージフの野口です。今回はヘッジ会計の最新動向について紹介したいと思います。

ヘッジ会計はすでに紹介した金融商品の減損についての審議と同様に改訂の審議対象となっており、ずっと審議が続いています。改訂の焦点となっていたのは、ヘッジ会計の簡素化です。IAS39号に規定されているヘッジ会計は米国基準がベースとなっており、非常に複雑で細かいものとなっていました。

どのようにヘッジ会計は簡素化されたのか。2010年に公開草案が出ています。公開草案の主な論点は過去の記事を参考にしてください(IFRSヘッジ会計はどう変わったか ①IFRSヘッジ会計はどう変わったか ②)。今回はこの公開草案が基準として公表されるにあたって変更されることになっているポイントについて紹介します。

1. マクロヘッジ(ポートフォリオヘッジ)は別途審議を行う
ヘッジ会計の中でも少し特殊なポートフォリオヘッジヘッジについては、今回の公開草案のヘッジ会計の目的に合いません。しかし、実際にはポートフォリオヘッジは実際に行われているので、その実態に合った会計処理が必要となります。そこでポートフォリオヘッジについては今回の公開草案の内容から除外し、別途見当されることになりました。ポートフォリオヘッジは一般の事業会社ではなじみがあまりないかもしれませんが、金融機関などでは行われているヘッジなので、金融機関には大きな影響があるポイントとなります。

2. ヘッジ会計の有効性評価方法
ヘッジ会計の要件を満たすためには、有効性が確認されていなければなりません。現行のIFRSや日本基準では85%から125%という具体的な数値基準が示されていましたが、それを廃止することを公開草案では提案していました。しかし、代わりの有効性の基準があまりにも曖昧であったため、要件が細分化されるとともにより具体的な内容になりました。

変更された要件について説明します。


要件は以下の3つですべてを満たしている必要があります。
・ヘッジ対象とヘッジ手段との間に経済的関係があること
・ヘッッジ手段とヘッジ対象の数量に基づいて、ヘッジの非有効部分を意図的に生じさせるようなヘッジ対象とヘッジ手段の比率(ヘッジ比率)が生じないこと
・経済的関係から生じる価値の変動が信用リスクによる影響によって大部分を占められていないこと

これらの要件は従来のヘッジ会計の有効性評価から数値基準がなくなったものと捉えられます。従来は数値で一律に判定していましたが、ある程度柔軟な判断が可能となると考えられます(そうはいっても、実務上は、従来と同じ数値基準で判断することになる場合が多くなることも想定されますが)。

3. 為替予約のフォワードポイント(直先差額)の会計処理
公開草案では、オプションの時間的価値についての処理が新しく提案されました。従来は、時間的価値(将来の価格の変動により利益がどれだけ増えるかという期待)については、本源的価値(オプションの権利行使価格と原資産価格の差額)と切り放す場合は、ヘッジ会計を適用することは認められていませんでした。新しい提案では、時間的価値についてもヘッジ会計を適用することができます。この考え方が為替予約の会計処理にも適用されることが決定しています。為替予約の直先差額についても、ヘッジの対象が本源的価値と時間的価値を別々に考えます。本源的価値のみをヘッジしているとする場合は、直先差額を期間按分し損益として認識します。その後の為替予約の公正価値の変動はその他の包括利益に認識します。

変更の内容をみてみると公開草案の内容をより明確に具体化したものが多いと思います。今年中には基準書が公表される予定です。新しいヘッジ会計は一般事業会社にもヘッジ会計が適用しやすいものになっていると思います。マクロヘッジについてはこれから審議が本格的に始まることになっています。こちらは主に金融機関が影響を受けるところですので、金融機関の方は注目しておくべきではないでしょうか。



イージフ

野口由美子



2012年8月2日木曜日

IFRSのリース会計改訂は今どうなっているのか

イージフの野口です。久しぶりのブログ更新となりました。

今回はリース会計について、改訂動向を紹介します。リースについては非常に大きな問題が改訂の焦点となっています。審議が長く続いていますが、今年2012年内には再度公開草案が出ることになっています。

何が問題になっているかというと、現在のリースの会計処理はファイナンス・リースとオペレーティング・リースの2つの会計処理があるところです。この2つの使い分けには要件があるものの、実際には企業の恣意性によって会計処理が選ばれているような状態になっています。そこで、この2つの会計処理を廃止し、処理を統一することが目的となっていました。

基本的な考え方は、リース取引をバランスシート上に表します。端的に言えば、従来のオペレーティング・リースの処理のように損益だけを計上するということはできなくなります。

リースの借り手については、原則、リースの利用権が資産として計上されることになります。一方、貸し手については、これまで2つの処理を条件によって使い分けることが提案されており、従来と同じように企業の恣意性が入る余地がありました。そこで現在は、審議の中でも貸し手についても処理を1つに統一される方向で議論されています。

現在、新たに提案されている貸し手の処理は、「債権・残存資産」アプローチと呼ばれている処理です。このアプローチでは、リース開始日にリースする資産をオフバランスし、リース債権と残存資産を計上します。

リース取引が割賦販売と同じ実態で、収益が獲得が確実な場合は、このオフバランスされる資産と、債権、残存資産の合計額の差額が利益となります。一方、リース取引の収益が確実でない場合は、資産と債権の差額を残存資産として一旦計上します。そして、この残存資産がリース期間に渡って毎期増額して利益を計上することになります。増額の方法は、あたかもリースする資産を減価償却していたかのように、残存資産に一定の利回りをかけて計算します。なので、リース期間が終わった時は、残存資産がリース資産の減価償却後の帳簿価額と同じになります。

この方法は、現在のリースの会計処理とは大きく異なるものです。現在適用している会計基準が日本基準であっても、IFRSであっても、大きな影響を受けることになります。日本企業にとって、特に注意が必要なのは投資不動産です。現在の審議では、公正価値で評価されている投資不動産はリース会計の対象外となっています。しかし、日本では投資不動産を公正価値評価しているケースはあまりありませんので、多くの賃貸不動産がリース会計の対象となってしまいます。

リース会計の改訂のインパクトは非常に大きいです。再度公表される予定の公開草案ではこのあたりの論点がどのように提案されることになるのか、注目したいと思います。

イージフ
野口由美子



2012年6月12日火曜日

IFRS 9 金融商品の減損を判断する3つのバケット

イージフの野口です。
IFRSを巡る情勢をお伝えしてきましたが、今回はIFRSの改訂動向を取り上げたいと思います。

現在、IASBではさまざまな基準についてプロジェクトが動いています。その中でも、問題が多く、審議が長引いている金融商品の減損について最近の議論と改訂の方向性を解説します(金融商品については減損以外に改訂予定のトピックがあります。それらも重要な改訂事項ですので、また後日取り上げたいと思います)。

金融商品については、主に以下の問題点があり、ずっと改訂作業が続いています。
・基準書(主にIAS39号)が複雑すぎる
・米国基準とのコンバージェンスの達成できていない
・世界経済の状況(リーマンショックやギリシャの国債問題など)に対応した適切な基準になっていない

特に最後に挙げた世界経済については悪い材料が多いこともあって、EU各国とIASBとの間で意見の一致が難しいところがあります。たとえば、EU各国(主に銀行ということになるでしょう)は、今問題になっているギリシャ国債がIFRSの改訂によって評価が変わり、大きなインパクトを受ける可能性があります。銀行にしてみれば、できるだけ損失が軽減されることを望むわけですが、IASBとしては損失を軽減するために基準を作るわけにはいきません。しかし、EU各国の意見を全く無視してしまえば、基準書を公表しても各国で承認されないかもしれません。

このように利害の衝突が多く、改訂が遅れていますが、現在改訂の方向性は定まりつつあり、今年の後半に公開草案が公表される予定です。

そもそも現行のIFRSにある金融商品の減損の規定は何が問題だったのかというと、
減損を一定のトリガー(引き金)となる現象があった時に減損を計上することになっていたというところだと思います。

トリガーとなる現象が減損の要件となっていましたが、要件には曖昧な部分があり、減損の計上タイミングがあやふやになり、結果減損の計上が遅くなってしまっていたのではないか。また、トリガーがなければ、減損しないというのでは金融商品の公正価値を表せないのではないか。現象があった時に一気に減損が発生することが適切なのか。このような問題意識がありました。

そこで、トリガーとなる現象を要件として減損を計上する考え方を変更し、将来キャッシュ・フローの割引現在価値を金融商品の期末の評価額とする方法が提案されました。これまでの減損は割引計算の中に入り込む形になります。言葉で言うことは簡単ですが、実際にこのような将来にわたるキャッシュ・フロー計算をするのは非常に難しいことです。

そこで、新たな提案として、3つのバケット(カテゴリー)に金融商品を分類する方法が新たに提案されました。これは、金融商品の価値の低下の流れに沿って、回収可能性の危険の度合いに応じた減損を計上しようという意図です。

基本的な考え方は、以下のようになります。まず、金融商品は最初にバケット1に分類されます。バケット1は特に問題のない健全な金融商品です。このバケットでは1年後(もしくは2年後)までに発生する損失の期待値を見積り、減損を計算します。金融商品の信用状態が悪化して、全額回収ができない事態が合理的に起こり得る場合、バケット2や3に移っていくことになります。バケット2はポートフォリオ、グループ単位で損失額を計算し、バケット3では個別に計算を行います。計算の単位が違いますが、減損の計算は、同じです。これらのバケットに分類された金融商品は、将来の期待損失を早い段階で計上することになります。

現在のところ、以上のような大枠の考え方が示されていますが、この分類の方法や減損の計算方法についてはさらに詳細な検討がなされることになっています。

日本基準と現在の提案内容を比べてみると、損失計上する金額が期待値であることが大きな特徴だと思います。また、バケットを3つに分類するという考え方は現在の日本基準より簡素なものだと思います。今後の審議の動向によりますが、バケット1から他のバケットに移る要件が厳しいものであると、現行の日本基準よりも早く損失を計上しなければならなくなると思います。バケットを移行する要件がどのように定められるかというところは特に注目すべきです。

イージフ
野口由美子



2012年5月16日水曜日

IFRSと日本 これから何が起きるか 2

イージフの野口です。今回は前回記事の続きになります。


2011年の東日本大震災後は状況が一変しました。2011年6月に金融庁大臣からIFRS適用延期の発言がなされました。震災のダメージでIFRS適用どころではない、というムードになってきて、大臣自ら、「さまざまな立場からの意見に広く耳を傾け、会計基準がこれらにもたらす影響を十分に検討し、同時に国内外の動向、特に米国をはじめとする諸外国の状況等を十分に見極めながら、総合的に成熟された議論が展開されることを望む」という発言がありました。



そして、金融庁でIFRS適用を検討してきた企業会計審議会ではIFRSに否定的なスタンスをとっているメンバーが増えました。

その後、金融庁の企業会計審議会ではIFRS強制適用について議論の進め方を検討し直していますが、メンバーが増え、議論が分散し、なかなか検討が進まない状況が続いています。

これから、日本はどちらに進んでいくのか。そもそもの発端はIFRSをアメリカが適用するという話を受けて日本もそれに追随していたわけですが、日本がこのような後追いの姿勢を続けることは難しいと思います。前に紹介したとおり、アメリカでは「コンドースメント」という新たな方法を模索しています。アメリカくらいIFRS設定に影響力があれば、コンドースメントも1つの手段になり得ると思います。しかし、日本にはアメリカのようにIFRSを自国基準に合わせさせるようなコンバージェンスの進め方ができていません。日本がコンドースメントをやるというのは無理があると思います。

それでは、これまでのコンバージェンスをさらに続けていくのか。これも時間がかかる割に成果が上がりにくく、大変だと思います。では、アドプションにするのか。世界共通の会計ルールを適用することの恩恵を一番手っ取り早く受けられるのはアドプションだと思います。しかし、アドプションによって、会計制度について国のコントロールがきかなくなる部分ができるのですから、そこをどう対処するのか考えなくてはなりません。そこを手当てするには、エンドースメントというのも1つの選択肢になると思います。エンドースメントをする場合は、カーブアウトはできるだけ避けなくてはなりませんので、日本の意向がIFRSに反映されるようIASBへの働きかけが十分できないとならないのではないでしょうか。


どのみち、簡単な方法というのはないと思います。日本は自国の会計制度をどうするのか、根本的な問題について議論されないまま、IFRSがずっと語られてきたように感じます。今議論することは重要です。しかし、議論ばかりで結論を先送りすることはもうすべきではないと思います。今年中に結論がきちんと出るのかしっかり追っていきます。


イージフ


野口由美子



2012年5月9日水曜日

IFRSと日本 これから何が起きるか 1

イージフの野口です。
IFRSを巡るアメリカの動向を紹介したのに続いて、日本の動向を解説していきたいと思います。

日本の動きについては、IFRSの適用を延期した、という去年の報道をご覧になった方が多いと思います。しかし、結局、日本企業のIFRS適用はどうなるのか、ただ延期なのか、それとも取りやめてしまうのか。これまで進められてきたコンバージェンスはどうなるのか、疑問はつきないと思います。

今回は、これまでの経緯を振り返り、今後のどうなっていくのか考えていきたいと思います。

もともと日本ではIFRSを強制適用する方針でした。2009年11月に金融庁から公表された報告(「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」)で日本もIFRSを適用することが明らかにされました。これまで日本では日本基準をIFRSに近づけるコンバージェンスをすすめてきていましたが、ここで一気にアドプションする方針に転換したのです。この裏には、前の記事で紹介しましたアメリカでのIFRS適用への動きがあります。この時の発表では、適用のタイミングについては2012年に判断するとしたものの、早ければ2015年の適用を目指し、連結財務諸表にのみIFRSを適用するという連結先行の適用が想定されていました。

その後、この連結先行の考え方は「ダイナミックアプローチ」という名称で具体的な検討がなされていきました。金融庁が中心となり、日本公認会計士協会も金融庁の考え方を支持している中で、適用時期や範囲にしてはいろいろな意見があったものの、IFRSのアドプション、という方針は既定路線であるかのようでした。

この金融庁の方針についてまず異論を唱えたのが、経済産業省だと思います。経済産業省の立場では、上場企業に限らず中小企業を含めた産業の保護が重要です。連結先行でIFRSを適用した場合に、そこからいずれは単体財務諸表にもIFRSを適用することになるのか、非上場企業にもIFRSを適用することになるのか。中小企業にまでIFRSが適用する必要があるのか、懸念が表明されました。

そこで、金融庁と経済産業省とでIFRSを単体財務諸表にまで広げるべきか、そもそも会計制度はどうあるべきかについて、それぞれ見解を出し合っていたのですが、金融庁としてはダイナミックアプローチを堅持し続けていました。そして、最終的な結論が出る前、2011年の東日本大震災が起きました。


ここから大きく状況は変化します。次回、この続きを紹介します。


 


イージフ


野口由美子



2012年4月19日木曜日

IFRSとアメリカ これから何が起きるか 2

前回の記事では、2011年完了予定だった米国基準とIFRSのコンバージェンス作業が、結局達成されなかったところまで解説しました。今回はその続きになります。2011年になにがあったか。


当初の想定では、2011年にコンバージェンスが完了したのを受けて、アメリカ国内企業へのIFRS強制適用を行うという判断がなされるはずだったわけですが、コンバージェンスは一部、それも非常に重要な項目が未了となってしまったわけです。しかも、いまだに世界経済の状況も悪く、非常に不安定です。そのような中で、IFRSを適用すること自体への疑問が強くなっていきました。しかし、一方で、IFRSにこれだけ深く関与してきてしまっている以上、ここで急にIFRSを切り放してしまうことも難しくなっています。



そこで、2011年5月に発表されたSECのスタッフペーパーで、新しいIFRSとの付き合い方が提案されました。「コンドースメント・アプローチ」というものです。これは新しく提唱された造語です。コンバージェンスとエンドースメントを合わせた言葉であり、両方を折衷した方法という意味合いが込められています。コンバージェンスは先ほども触れたように、会計基準を変えてIFRSに近づけていくことであり、エンドースメントというのは、EUなどの国々で採用している方法で、IFRSを無条件に適用するのではなく、各国で承認したもののみを適用することです。

では、コンドースメントとはどのようなものかというと、スタッフペーパーでは1つの方法として以下のような内容を挙げています。

・IFRSを5年から7年ほど一定期間をかけて米国基準に取り込んでいく
・コンバージェンスを実施している項目はコンバージェンスによって取り込む
・その他は個別に検討し、エンドースメント手続を経るような形で取り込む
・最終的には、米国基準に準拠していれば、IFRSに準拠していると企業が主張できるということを目指す

このコンドースメントについても、アメリカ国内でさまざまな意見が寄せられています。支持をする意見が多いようですが、折衷というスタイルなので曖昧さが批判されているようです。具体的な取り組み方は今後の議論で明らかにしていくのだろうと思います。

この方法の最大の特徴は、アメリカは米国基準を維持するということだと思います。アドプションでは自国の会計基準の適用をやめてしまうわけですから、ここは大きな違いになります。アメリカはIFRSのアドプションをしない、というのがコンドースメントの一番のメッセージなのではないでしょうか。

しかし、アドプションをしないとしても、会計基準の国際的な統一、という大きな目標からアメリカも背を向けられません。そのための努力は、IFRSを米国基準に取り込むという形で続いていくことになるわけです。

私は、アメリカはアドプションをしないという方向を示した以上(明示的に示したわけではありませんが)、IFRSに対して消極的になったと考えています。しかし、IFRSを中心とした会計基準の国際的統一化の流れを止めることはできなくなっています。米国基準がひとりでその会計基準の品質を保持できる状況ではないのです。なので、米国基準にIFRSを「取り込む」という作業は、これまでのコンバージェンス以上にスピード感を持って進められるのではないかと思います。


イージフ


野口由美子



2012年4月11日水曜日

IFRSとアメリカ これから何が起きるか 1

イージフの野口です。
去年2011年アメリカではIFRS適用の是非についての判断が延期されました。日本においても適用時期を延期するという発表があり、驚かれた方も多かったと思います。

アメリカの判断は日本に大きな影響を与えることになります。判断を延期したということは、アメリカはIFRSに対して消極的になったようにも思えますが、アメリカが本当に消極的になったのかという点については見解が分かれています。アメリカはIFRSとどのように付き合っていくつもりなのでしょうか。今回は、これまでのアメリカの動きを確認し、アメリカのIFRSに対する姿勢を解説します。

そもそも、アメリカがIFRSに深く関わるようになったのは、2002年のノーウォーク合意からになります。ノーウォーク合意というのは、IFRSと米国基準との差異を共同で解消して調和を図り、コンバージェンスを進めるというFASBとIASBとの合意です。その後、2006年にMoU(Memorandum of Understanding)が公表され、継続的なコンバージェンスのスケジュールが示されました。ここで示された項目は11項目ありました。2008年には、そのうちの9項目について、2011年半ばで完了させることが合意されました。

同じ2008年にはSECからも重要な発表がありました。国内企業に対するIFRS の適用、アドプションに関する検討についてロードマップが公表されたのです。そのロードマップではアメリカ国内企業へのIFRSの強制適用の是非を2011年に決定するということになっており、強制適用の意思決定がなされた場合、2014年から段階的に強制適用する方針でした。

2011年は、MoUのコンバージェンスの完了とそれを受けてIFRSの強制適用の是非を判断する重要な年でした。


結局、2011年には何があったか。MoUの9項目すべてのコンバージェンスを完了することができませんでした。FASBとIASB双方の考え方の隔たりは大きく、その調整を行うことに困難が多い上に、会計基準をめぐる関係者が納得できるよう議論を尽くすだけの時間がなかったのだと思います。
未了となった項目は以下のとおりです。
・収益認識
・リース
・負債と資本の区分
・業績報告のうち包括利益以外

収益認識やリースは、多くの企業が影響を受ける特に重要性が高い項目で、しかもこれまでの基準書の考え方を変える抜本的な改訂が予定されていました。ちなみに、これらの項目は現在も改訂作業が続いていおり、今後の動向が注目されています。残りの2項目、負債と資本の区分や業績報告については、緊急性が低い項目として現在のところは審議がストップしています。


FASBとIASBのコンバージェンス作業が目標達成されなかった状況を受けて、アメリカのおこなった判断とは、ただIFRS適用を延期したわけではありません。次回に続きます。


イージフ


野口由美子


 



2012年4月4日水曜日

復職のご挨拶


イージフの野口です。
1年の育児休暇が明けて、この4月から職場復帰しました。
休暇中はブログの更新が減ってしまいましたが、これからは更新回数を増やし、内容をさらに充実したものにしていきます。どうぞよろしくお願いします。

このブログでは、これまで以上にタイムリーに、IFRSの基準書改訂の最新動向をお伝えし、IFRSの考え方をわかりやすく解説していくとともに、現在の会計基準の大きな潮流を感じていきたいと思います。

IFRSの日本での適用については、現在のところ任意適用のみで、強制適用がなされるかは未だ不透明です。日本での制度適用がどうなるのかということも、非常に気になります。

しかし、会計基準というものは日本だけの閉じた環境で完結するものではありません。会計基準がどうあるべきかという議論は、IFRSや米国基準を巡ってどんどん進んでいます。これまで、日本の会計基準も海外の考え方を数多く受け入れてきたことを考えると、日本がIFRSを強制適用するしないかに関わらず、IFRSは私たちにも大きな影響を与えることになるでしょう。どうしてIFRSはそのように考えるのか、ということを追っていくことは、IFRSそのものだけでなく日本基準への理解にもつながると思います。皆さんの理解の助けになるよう、がんばってがんばって書いていきますので、よろしくお願いします。

野口由美子



2012年1月28日土曜日

『戦略IFRS 経営はこう変わる!』 刊行のお知らせ

イージフの松岡です。


この度、中央経済社より『戦略IFRS 経営はこう変わる!』を弊社会計事業部長の中川との共著で出版致しました。


本書は、これまで多くの書籍で見られたIFRSという「制度」への対応ではなく、IFRS適用後も続く「経営管理」への対応に焦点を当てた内容になっています。具体的にトップマネジメントが直面するであろう意思決定のポイントを挙げ、現時点で有利と考えられる選択にまで言及している点が特徴的です。


また、現行の日本基準とIFRSとでは管理会計面への影響も異なるため、この点に関しても設例を交えて具体的なインパクトを実感できるように解説しています。


さらに、包括利益指標が導入されたこと等に伴う、各種経営指標への影響や重要性の変化等も紹介しています。


このように類書にはない斬新な視点でIFRSに斬り込んだ1冊となっています。自見大臣発言以降、下火になっているIFRS関連書籍の中にあってキラリと光る逸品となってくれたら著者として望外の喜びです。


発売後、約1週間が経過したところですが、おかげさまでAmazonの国際会計カテゴリーでも1位にランクされ好評を頂いております。


 


Amazon3


 


まだ本書をご覧になっていない方、多くの書店で入荷が完了していますので是非手に取ってみてください。


よろしくお願いします。


松岡 佑三