2014年11月28日金曜日

IFRS、資産負債アプローチの限界

イージフの野口です。11月も終わりに近づき、今年もあと1ヶ月を残すのみとなりました。日本では新年を迎えるお正月が大切にされていますが、ヨーロッパではクリスマスがとても大切なイベントとなっています。あちこちにクリスマスの飾りが施され、大人も子供もプレゼントを何をもらおうか、何をあげようかと、楽しみにしています。クリスマスの飾りがお店に並ぶこの時期から、今年も残り少ないことを実感します。


今年のIASBの活動の中で、特筆すべきはリースの再審議だと思います。リースについても重要なトピックがありこのブログでも紹介していきたいと思っています。しかし、今年私が最も注目していたのは概念フレームワークの改訂でした。前回の記事でも紹介しましたが、最近のIFRSは今まで「IFRSとはこういうものだ」と伝えられてきたものとは別の方向へ進んでいます。公正価値会計、包括利益、資産負債アプローチ、といったキーワードは今のIFRSを理解する上でも必要ではありますが、かつてのようにそれが全面に押し出されている訳ではないと感じられます。前回は損益の話を取り上げたので、今回は資産に関する変化を紹介したいと思います。


今年のIASBの審議では、資産の定義とは?という根本的な問題が議論されました。今回の概念フレームワークの改訂では資産や負債、損益といった財務諸表の構成要素を定義し直すことになっています。これまで、資産は「企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が企業に流入すると期待される資源」と定義されていました。ポイントは経済的便益です。特に経済的便益が企業に流入すると「期待される」という文言であったため、どれくらい経済的便益が獲得できる可能性が高ければ資産になるのか、ということが問題となり、確実性については見解が分かれているようでした。


また、実際には、個別のIFRSの基準書内で経済的便益の流入の可能性がそれほど高くなくても、資産を認識するようになり、現行の定義自体に限界が出てきていました。現在のIFRSではデリバティブ取引について、現行フレームワークに反して、「経済的便益」の流入が期待できないオプション取引で資産認識を行ないます。経済的便益の流入があまり期待できないような「資産性」のないものが資産として認められているIFRSの現状は明らかに、現行フレームワークに合っていません。これまで言われていた資産負債アプローチには全くそぐわないのですが、この個別基準書の中で明確となってきた考え方こそ現在のIFRSを表しているものとされ、フレームワークを基準書の内容に合わせる形でIASBでは審議を行なっています。


今年のIASBの決定では、新しい資産の定義は「過去の事象の結果として企業が支配している現在の経済的資源」となります。ポイントは、経済的資源という言葉です。この経済的資源という言葉を使うことによって、資産とは権利であり実物資産ではないこと、経済的便益を生み出す「能力がある」ものと位置づけています。これまで問題になってきた経済的便益の流入可能性について議論については「能力」の有無を要件として、可能性のしきい値を設けない形でここでは決着しています。


この今年の議論では、IFRSは資産負債アプローチ一辺倒ではないことが明らかになりました。資産負債アプローチでないとしたら、その反対といえる収益費用アプローチになるのですが、実際には、完全に収益費用アプローチに移っていくわけでもないと思います。資産負債アプローチに近い立場で現実の問題に応えられる、中庸ともいえるようなフレームワークを提供するというのが今回のフレームワーク改訂のゴールなのではないかと感じられます。IFRSはかつては公正価値会計を純粋に追求しているように思えましたが、その頃と比べて対処する問題の幅や深さはかなり大きくなり、世界的な基準としてのあり方を考えさせられます。


イージフ 野口



2014年10月31日金曜日

新しいIFRS、包括利益はもういらない?

イージフの野口です。この1年ほど、雑誌記事を書くために毎月IASBの会議を見ています。IASB会議は便利にできていて、ウェブキャストで視聴できるため、何回でも同じ議論を確認することができます。また各トピックごとに作成される資料もたくさんありそれらはすべて事前に見られます。しかし、これらの資料に目を通し、会議の内容についていくには慣れが必要であることを感じました。そのようなことに慣れていなくても、会議の内容がコンパクトに理解できるという狙いでいつも記事を書いています。


これまでIASBの会議を見てきて思うことは、昔のIFRSと今のIFRSは違う、ということです。そのことは特に概念フレームワークの議論で感じられます。現在IASBでは概念フレームワークの改訂作業を進めています。2010年にも概念フレームワークは改訂されているのですが、その時の改訂ではカバーできなかった部分がたくさん残されており、今回はその残り部分に焦点が当たっていて大幅な改訂になります。前回の改訂でも新しいIFRSが意識されている内容になっていましたが、それがもっと具体的に表れてきているように感じられます。


今年のIASB会議の議論の中で、損益と資産についての議論では、特にその新しいIFRSの考え方に触れることができます。今回は損益について紹介します。


これまでIFRSというとBS重視が特徴として挙げられていました。損益はあまり重要ではなく、包括利益が重要な利益概念とされていました。しかし、現在のIFRSはすでにBS一辺倒ではなくなっています。損益も重要な情報である、というのが現在のスタンスです。損益が重要となると、今度は逆に、その他の包括利益は何なのかということが問題になってきます。どのようにその他の包括利益を位置づければいいのか、ということが議論されています。


これまで会議では、その他の包括利益に含まれる項目は、その項目がその他の包括利益に分類することで損益の目的適合性が高まる場合にのみ分類されることになります。すべての収益費用項目を損益に分類することが原則となります。また、その他の包括利益を財務諸表利用者がどのように利用できるか指針を出して、企業の業績に関する情報の源泉であることを明確にすることが決定されています。


このような会議の決定事項は大きなIFRSのシフトを表しています。BS重視を取り下げたことによって、包括利益という考え方あまり重要ではなくなりました。しかし、現在の会計の考え方では、すべてを損益に含めてしまうことも難しく、その他の包括利益も必要です。そのような現在の会計の考え方に合った概念フレームワークが作られようとしています。


このような「大きなシフト」は日本基準に慣れ親しんできた私たちには分かりやすいものだと思います。日本基準はもともと損益を重視する考え方です。今のIFRSは私たちにも受け入れやすいものになってきていると思います。


イージフ 野口


 


 



2014年9月26日金曜日

リース資産はオンバランス、は変わらない:リース会計の最新動向

こんにちは。イージフの野口です。


2014年のIFRSの基準開発ではリースが最も大きなトピックの一つです。毎月のようにIASB会議で取り上げられており、その審議の内容は中央経済社の旬刊経理情報で紹介しています。この連載記事は毎月の審議を取り上げているため、リースのように長期に渡って取り上げられているトピックについては全体像をお伝えすることがなかなかできません。そこで、ブログでは最近のリース基準の議論をまとめてみたいと思います。


 


リース基準改訂の最大の目的は、借手がリース資産をオンバランス処理する、ということだと思います。現行の会計基準ではIFRSでも日本基準でも、一定の条件を満たしたリースはオフバランスできます。実際にはこの規定を利用して、オフバランスできるように処理を仕組むということが行われてきており、取引を仕組む機会を与えていることが問題視されていました。


現在は借手がリース資産をオンバランスすること自体は広く受け入れられているように思います。ただし、リース資産をオンバランスすることで会計処理が煩雑になりコストがかかることと、そのことによるメリットのバランスが取れていないとなりません。どのようにオンバランス処理をするのかということにはさまざまな意見があり、審議は難航していました。


IASBは現在単一アプローチという方法を支持しています。この方法では借手は使用権資産とリース負債を認識し、使用権資産の償却と利息の認識を行うという、現行のファイナンス・リースに近い処理のみを行います。一つの処理しかないのでシンプルです。ただし、すべてのリースに単一の処理を適用することは煩雑なので、少額リースの例外規定を設けることが決定されています。具体的にどのように規定されるのかは会議では決まっていませんが、実務上はこの規定が重要になってくると思います。


このリース基準の改訂はFASBとの合同で審議が行われてきており、米国基準とのコンバージェンスを進めることが目標とされていました。


しかし、FASBはIASBの単一アプローチを支持していません。FASBは借手の処理をタイプAとタイプBに分けるアプローチを採用することにしています。この基本的なアプローチが双方で異なってしまっているため、その他の論点においてもIASBとFASBは異なる決定を行っています。双方の隔たりについて歩み寄りがなされる気配はあまり感じられません。リースに関してはコンバージェンスが大きく後退すると思います。


リースの最終基準書はいつ公表されるのか、まだ日程が正式に公表されていません。長い審議期間になっていますが、終わりが近づいてきているのではないかと思います。実際のIASBの会議では、基準書の細かい文言までは議論されないのですが、リースの定義や例外規定がどのように規定されるのかというのは、実務上注目したいところです。最終基準書の公表まで追って、重要なポイントをご紹介していきたいと思います。


イージフ 野口


 



2014年6月2日月曜日

2014年5月21日Nikkei Asian Reviewより

イージフの野口です。今回は日本とIFRSについての新聞記事を取り上げたいと思います。


2014年5月21日のNikkei Asian ReviewにIASBの鶯地隆継理事の寄稿記事が掲載されました(日本経済新聞の2014年5月12日朝刊の経済教室にも同様の記事が掲載されていますので、そちらをご覧になった方が多いと思います)。


 


この記事では、


○IFRSの強制適用は100カ国を超える


○統一基準は企業の国際再編や提携の土台に


○出遅れなら日本の実態に沿わぬ実務慣行も


というポイントを説明し、このままIFRSの適用が進まなければ日本市場が孤立してしまいかねないことを指摘しています。最後の一文にある「これ以上時間を空費している余裕はないのである」という言葉は日本の現状に対するもどかしさが表れているように感じます。


この記事に対する感想はさまざまなようです。全くその通り、という賛成意見がある一方で、反対する意見もあります。反対する意見の主な主張はIFRSの基準としての不完全さ、にあるように思います。IFRSがムービングターゲットと言われるように改訂を続け、まだ基準として不安定な状態にあることや、特定の基準書の規定が日本の考え方と違っており、その点をもってIFRSが基準として間違っているとする考えもあるようです。


確かに反対意見の指摘はその通りだと思います。IFRSはこの数年の間で大きく変わり、今もまだ変わり続けています。その変わりようは、IFRSが今後どうなっていくのか不安になるくらい、大きなものです。特定の基準書の規定を考えてみても、日本の実務慣行とは違う観点から定められているものもあり、日本基準に比べて分かりにくかったり使いにくかったりということもあります。こういう点をもって、日本基準の方がIFRSより優れているという意見は、ある意味正しいと思います。


しかしこれらの意見からは、日本市場が孤立してしまいかねないという問題に対する答えが見つかりません。企業活動が日本国内だけですべて完結するのであれば問題ないのですが、現実はそうではありません。


IASBの会議を傍聴するようになって、特に感じるのは寄稿記事のポイントの3つ目に挙げられていた、日本の実態にそぐわない実務慣行が世界で広まってしまうのではないかという懸念です。IFRSは広く世界から意見を集めIASBの会議で基準が定められています。世界各国からの意見が交わされる中、このまま日本がIFRSを適用しないでいると、日本が蚊帳の外になってしまうのではないかと感じてしまいます。IFRSは確かに不完全であったり、日本基準の考え方とは違ったりする部分もありますが、そういった問題も日本が自ら意見発信することによって、IFRSがより良い基準となるよう貢献していくことができるのではないかと思います。


米国はIFRSを適用していませんが、IASB理事には米国から選出されている方も複数いますし、FASBとIASBは合同で基準を開発しています。米国はIFRSが自分たちの信じる「より良い基準」になるよう働きかけをしています。日本は米国に追随しているようで、そこまでの影響力を持てていないと思います。


このような話も別に今に始まったことではなく、目新しい話題ではないです。議論は進まず、年月だけが過ぎている状況に改めて気がつかされます。実際のところ、日本では、現状維持でIFRS任意適用企業が増えてIFRSが実務に定着していく、という大変緩やかな路線が現実的なところのように思います。しかし、それで本当に良いのか。会計基準という分野についても世界から見て日本の現状がどうなのか、ということは気にしなければならないと思います。


イージフ 野口由美子


 



2014年4月11日金曜日

ロンドンのIASBはどんな所?

イージフの野口です。久々のブログの更新となりました。


現在は主に旬刊経理情報(中央経済社)にてIFRSの改訂について審議状況を解説する記事を連載させていただいており、ブログの更新が遅れてしまいがちですが、雑誌の連載だけでは拾いきれないこともたくさんあります。ブログでもIFRSに関する情報をお伝えしていきます。今回はいつもの会計一辺倒の話から趣向を変えてロンドンにあるIASBについてご紹介します。現在私がロンドン在住であることもあり、IASBで行われている会議に傍聴しに行くようになりました。IASBがどんな所なのかご存じない方は多いのではないでしょうか。


IASBがあるのはロンドンの中心地、セント・ポール大聖堂の近く、Cannon Streetにあります。この辺りはロンドンの金融街シティの南端になり、新しいオフィスビルや商業施設が立ち並んでいます。ロンドンというと古い建造物が多く、それがロンドンらしい景観として大事にされていますが、一方でロンドンの東部は再開発が進められ、新しいものと古いものが一体となった新しい景色が生まれています。IASBがあるオフィスビルは新しいもの、になると思います。


写真 1


IASBはこのビルの2階にあります。世界各国から派遣された200人程の方がここでIFRSの開発に携わっています。多くの方が2年程の任期で出向して来ているそうで、permanentとして継続的に所属している方は15人程度しかおられないそうです。近年は日本人のスタッフ派遣が増えてきているとのことで日本人の方もいらっしゃいます。オフィスの雰囲気を少し垣間見た感じでは、いたって普通な、一般的なオフィス、という印象でした。毎月開催されるIASBの理事による会議も、普通の、会議室で行われます。場所は至って普通、という感じがしてしまいますが、ここから世界で単一の高品質の会計基準を開発していこうという信念は強く伝わってきます。


会議は誰でも傍聴することができます。会議を傍聴する時は事前にメールで登録を依頼し、当日は受付で挨拶するだけで入っていけます。アジェンダもスタッフが作成した資料もIFRSウェブサイトからダウンロードでき、傍聴する人も事前に内容を確認できます。それだけでなく、ウェブサイトから会議をウェブキャストで見ることもできます。非常に開かれた場で基準が作られているということを感じます。


最後に、IASBのあるビルから見えるセント・ポール大聖堂です。


写真 3


 


こうして見るとやはり新しいものと古いものが渾然としていますね。IASBは世界単一の会計基準という新しいチャレンジに相応しい、新しい場所にあるのだと思います。


イージフ 


野口由美子


 


 


 



2014年1月18日土曜日

IFRS再入門

イージフの野口です。


日本ではIFRSの任意適用を拡大させたいという方向性が金融庁から打ち出されていますが、実際にはどれだけ任意適用企業が増えるかはまだわかりません。


しかし、このような状況はもったいないとも言えます。なぜなら、IFRS財団への資金拠出が最も多い国は日本なのです。日本からの資金はFASF(財務会計基準機構)が窓口となっており、日本企業からの資金がIFRS財団に拠出されていることになります。かつては米国からの資金が一番多かったのですが、米国がIFRS強制適用の方針を撤回してから急速に資金拠出は少なくなりました。そこで日本が最大の資金拠出国となったわけですが、それだけの資金を提供しているのだから、もっと日本でもIFRSを使わなければもったいないように思います。


IFRSの開発について、資金面でのサポート、IASBへの日本人の参画と日本からの貢献は決して少なくないと思います。しかし、その利益を享受している日本企業は少ない状況です。


IFRSが必要な企業はたくさんあると思いますので、そのような企業がIFRS再入門できるようにIFRS導入についての記事を連載しています。今回は最終回の5回目の記事が掲載されましたのでご紹介します。


 


今からプランをしたい「IFRS適用後のフォロー体制」 - TechTargetジャパン 経営とIT


是非ご覧ください。よろしくお願いします。


 


イージフ 野口由美子


 


 


 



2014年1月7日火曜日

IFRS、2014年はここを押さえる

イージフの野口です。2014年になりました。今年も当ブログをよろしくお願いします。


昨年、2013年はIFRSの基準開発に大きな進展がありました。一番大きな成果は収益認識の審議が完了したことだと思います。非常に長い審議期間となりましたが2014年に最終基準書が公表されることになります。収益認識を1つのモデルに集約するという基準改訂の目的達成に一定の成果を上げたと思います。その他注目されているトピックでは、リースについて、こちらは公開草案が再検討されることとなりました。リースは今後の審議のスケジュールも立っていません。新しい基準書ができるまでまだまだ時間がかかりそうです。


近年、特に最近は金融商品関係の審議には多くの時間が割かれており、2014年の基準書公表を目指して(実際は実現するかは微妙なところだと思いますが)議論が進められています。2014年にまず注目すべきトピックは金融商品ではないでしょうか。


金融商品については、いろいろ改訂の対象となるトピックがあるため、複数のプロジェクトが進められています。


認識と測定のプロジェクトでは、金融商品の評価方法がこれまでよりも簡素化した形に変更される予定です。減損のプロジェクトでは、債権等の金融商品の引当金の算定がこれまでよりも早いタイミングで損失を計上するようなアプローチが提案されています。これらは、金融機関だけでなく、多くの一般事業会社にも関係のある内容ですので、注目されています。


IASBの理事による会議は毎月開かれており、そこでは毎回いろいろな議論がなされています。その内容の中から、日本の企業に影響のある注目すべきトピックについて、これまでの経緯を知らない方にも分かるように解説する記事を毎月連載させていただいています。最新号は、


旬刊経理情報(中央経済社)2014年1月1日・10日合併号


に、2013年11月の審議状況が掲載されています。コンパクトに最新の情報を知ることができますので是非ご覧下さい。


よろしくお願いします。


イージフ 野口