2015年12月7日月曜日

企業結合、基準書改訂は短期、かつ長期に

こんにちは。イージフの野口です。前回の記事に引き続き、今日は企業結合についてのIASBでの議論をご紹介したいと思います。

企業結合は、最近新たにIASBで審議が始まりました。2015年9月の会議ではFASBと合同でこのトピックについて話し合われ、FASBの現時点までの取り組みや今後の方向性について確認されました。企業結合については、事業の定義、のれんと減損という2つの問題が認識されており、これらは別々のプロジェクトとして進められることになっています。

この会議では、IASBとFASBは、できるだけ統一した基準になるように改訂を進めるべきであることが確認されていましたが、会議の様子を見ていた私の印象は、どこまで統一できるかは難しく改訂には時間がかかるだろうというものでした。

10月のIASB会議では、私の予想は半分はずれ、半分当たりました。

事業の定義については、意外とすんなりと話が進んでいます。事業の定義はすでにFASBでは改訂の議論が進んでおり、近々公開草案が公表される段階まできています。IASBはFASBの改訂案を採用することを決定しました。そして、FASBに後れを取らないように、ディスカッション・ペーパーを省略し、公開草案を公表します。

9月にFASBと合同で審議を行った時にはIASBとFASBは事業の定義があいまいであり明確にするという方向性は同じでしたが、問題意識に違いがありました。たとえば、現行のIFRS3号では事業は、「投資家もし くはその他の所有者、構成員又は参加者に対し、配当、低コスト又はその他の経済的便益という形でのリターンを直接的に提供する目的で実施され、管理されることが可能な、活動及び資産の統合された組合せ」とされています。IASBでは、「(市場)参加者」、「可能な」という言葉が定義をあいまいにしているという問題が認識されていましたが、FASBでは特に問題とされていませんでした。

このような問題意識の違いはどうやって解決されるのか。IASB独自にこの問題への対処を行うのではなく、FASBの改訂案の中でこれらの問題を解決できるか検討することで解決が図られました。事業の定義については米国基準と統一された形で早期に改訂作業が進められそうです。

一方、のれんと減損については、10月の会議においてもまだ何も決まっていない状況です。のれんを償却する、減損の手続きを簡単にする、という2つの案に対して支持が比較的多く表明されていましたが、1つに決定できる段階ではまだないようです。従来ののれんの会計処理(償却をせず減損を適用する)を根本的に変更すること(即時に損益認識することや償却すること)を積極的に支持する意見は少ないものの、減損の手続きを簡単にすることも現実には難しいという見方が多いようです。のれんと減損は時間をかけて検討されることになると思います。

企業結合はこれからIFRSを適用する(もしくは、かもしれない)企業にとっても重要な問題です。今後のIASB会議でも大きなトピックとなると思いますので、審議の動向を追っていきたいと思います。


イージフ 野口


2015年11月2日月曜日

IASBとFASBが企業結合について議論、のれんはどうなる?

こんにちは。イージフの野口です。IFRSと米国基準は結局別々のままで、アメリカがIFRSを採用する可能性は低い、という印象を持たれている方は多いと思います。そのような状態である限り、日本でもIFRSが強制適用となることもあまり考えられず、現状維持、様子見、というスタンスが多数派だと思います。

IASBFASBはかつてのようにコンバージェンスプロジェクトという大旗を振って、統一を目指すことはしなくなりました。IFRSと米国基準ではその根底にある考え方はそんなに大きな違いはないのかもしれません。しかし、両者が有する利害関係者からの要求が違うということから端を発する見解の相違を見ていると、まだ両者が統一するには時間がかかるのだろうと感じます。

それでもなお、IASBFASBは統一した基準を目指しているというのも確かです。以前、このブログでIASBFASBの合同審議の様子をお伝えしたことがありました。大抵の場合は、テレビ会議で両者がそれぞれ議論を行い、それを聞き合っているような形で審議が勧められています。「合同審議」という言葉のイメージとは違う会議の様子に驚かれた方もいたようです。

20159月の IASB会議では、FASBメンバーの出席のもとロンドンで直接顔合わせして会議が行われました。議題は教育セッションが中心で具体的な決定事項はありませんでした。しかし、それでも両者がわざわざ会って話をしている様子は非常に興味深いものです。お互い疎遠になりつつも、どこかに協調のきっかけを見出そうとしているように感じました。

これからのプロジェクトで企業結合が非常に注目されることになると思います。企業結合については
事業の定義
のれんと減損
が主な改訂論点となっています。


事業の定義について、IFRSの現行基準は批判されています。事業の定義が広すぎるのです。定義を明確にする目的でIASBは審議を行う予定ですが、実はFASBですでに改訂作業に着手しています。IASBではFASBの動向をIASBでも取り入れていけるかという観点で検討する予定です。具体的に検討しようとしている論点はFASBとは異なる部分が問題となっており、IFRSの問題として挙げられている点をクリアした上で、できるだけ定義を統一しようという試みがなされることになると思います。問題のハードルが高くなってしまっているのですが、高品質かつ国際的に統一された会計基準の実現に向かおうしているのは確かです。

のれんと減損は、改訂の必要性が認識されているものの、両審議会ともにどのような方向性で改訂するのか定まっておらず、白紙の状態です。のれんを償却するのか、しないのか、という会計処理の問題がありますが、この会計処理は単独の問題として扱うことができず、他の論点とも密接にかかわっています。現在の両審議会メンバーの会議での発言を見ていると、のれんを償却するかしないかどちらか選択するとしたら償却した方がいいように思うが、あまり積極的な意義を見出すこともできないため、改訂すべきとも言い切れない、という意見が多いようでした。

のれんの償却については日本基準とIFRSの大きな差異のひとつです。IFRSが今後のれんの償却をするという改訂を行うことも考えられます。日本企業にも大きな影響が出ることになるので、注目すべき論点です。


イージフ 野口由美子

2015年10月5日月曜日

IFRS4号「保険契約」改訂で導入される新アプローチ

こんにちは。イージフの野口です。IASBで進められているプロジェクトの中で、保険契約は大きなプロジェクトです。現行基準を根本的に置き換えることを目的としており、実務にも大きな変更が生じることになります。2010年に公開草案、2013年に再公開草案が公表されており、2016年には最終基準書が公表されることが予定されています。

旬刊経理情報で連載しているIASBレポートでは、先日発売された10月10日号で保健契約の審議状況について解説をさせていただきました。いつもの連載で月次のIASB会議の内容を解説していますが、8月は会議自体がお休みなので、毎年このタイミングでは通常の連載では取り上げきれなかった保健契約にしぼって解説をしています。記事では1年分の審議の進み具合についてまとめて紹介しているのですが、保健契約は1年分をまとめてもまだまとめきれない部分もある非常に長いプロジェクトとなっているように感じました。旬刊経理情報本誌で詳しい内容には触れていますので、ここでは雑誌ではまとめきれなかった長い審議全体を眺めてみたいと思います。

現行のIFRS4号「保健契約」は基準書といっても、各国の現行処理を容認し、最低限のことのみを規定しているだけになっています。包括的な統一基準は現在のIFRS4号の改訂作業で初めて達成されることになります。ただし、保健契約プロジェクト当初は米国基準とのコンバージェンスも視野に入れてFASBとの合同で審議を進めようとしていましたが、すでにコンバージェンスは達成困難で現在IASB単独で審議をしています。FASBとIASBでは寄せられる利害関係者の意見が異なり対応しようとする方向性に大きな違いが生じ、合同審議の継続が難しかったようです。今後両者の歩み寄りがあるのか、コンバージェンスへの動きがまた出てくるのかは分からない状態です。米国基準が範疇に入っていないものの、国際的に保険会計の統一基準ができるということは画期的なことだと思います。

新しい保険契約の基準書で目指しているのは、保険負債の公正価値による評価を導入することです。IFRSは時価会計が特徴だ、という言われ方をすることがあります。時価というのは公正価値の一つですし、この特徴が保健契約にも適用されようとしているという理解でいいと思います。ただ、何でも時価(市場での現在の価格)で評価すればいいというわけではありません。何でも時価評価してしまったら、一時的なマーケットでの価格変動で損益が大きく変動してしまいます。そこでどのように時価による評価を導入しつつも適切な損益を計上できるように処理するのか、見積もりによる様々な計算で補正を行うことになります。このような考え方は保険契約だけの話ではなく、退職給付や金融商品の会計処理でも問題になるところです。

新基準では保険負債を保険契約を履行に基づいて現在の価値で測定します。現在導入が決定しているビルディング・ブロック・アプローチでは、保険契約をブロックに分けてそのブロックを積み上げるようにして保険負債を計算します。ブロックは以下の4つになります。

1. 将来のキャッシュ・フロー

2. 貨幣の時間価値

3. リスク調整

4. 契約上のサービス・マージン

保険料の受け取りと保険金の支払いの純額が将来キャッシュ・フローとなり、プラスであれば企業はそこから収益を得られるイメージですが、キャッシュ・フローのプラスが即収益とはなりません。保険契約は長期的な契約ですから貨幣の時間価値を調整しなければならないですし、将来契約に従って企業が保険金を支払うか否かはわからないですので、支払いが生じるリスクを考慮する必要があります。

将来キャッシュ・フローからそのような調整を行った結果が、契約上のサービス・マージンとなり、未稼得の企業収益となります。この収益は時間の経過に基づき償却することになります。現行のIFRS4号とも日本の会計実務とも大きく違う会計処理です。

このアプローチが一般アプローチとして保健契約全般に適用されることになりますが、有配当の保健契約についてはこのアプローチをそのまま適用することに問題があると指摘されていました。有配当契約では確定した剰余金から保険契約者に対して配当を支払うので、保険サービスだけでなく資産運用の代行といった投資関連サービスを提供していると考えられます。ビルディング・ブロック・アプローチをそのまま適用するとその投資関連サービス部分の資産や収益が適切に表示できないのです。

そこでIASBの審議ではビルディング・ブロック・アプローチに関する審議に続いて、有配当契約の会計処理に焦点を当てて審議を行っています。現在もまだ審議は継続していますが、有配当契約に適用するアプローチについては合意に達しています。

直接連動(保険契約者が拠出している資産のリターンと配当が連動している)に分類される有配当契約には変動手数料アプローチを適用します。変動手数料アプローチはビルディング・ブロック・アプローチを一部修正する形で適用されます。基本的な考え方は企業は有配当契約において契約者から預かった資産のリターンから変動手数料を控除した額を契約者に支払うと考えます。この考え方は有配当契約に複雑な会計処理を適用することが回避できるという点で支持されていると思います。

以前は、保険サービスと投資関連サービスという形で保険契約のキャッシュ・フローを分割して会計処理を行うようなアプローチが提案されていました。確かにこのようなアプローチは理論的ですが、実務上は不可能ではないかと批判されてきました。そこで、変動手数料アプローチではキャッシュ・フローを分割しません。また見積もりの変動は手数料の変動として契約上のサービス・マージンの調整として処理します。契約上のサービス・マージンの償却は時の経過に応じて償却します。これまで議論されてきたアプローチと比べると簡素化された会計処理となります。変動手数料アプローチについてはまだいくつかの論点が残っていますので、審議がさらに進んだ段階でまたまとめたいと思います。

今後は有配当契約の審議の後に最終基準書の発効時期等が検討されることになると思います。2016年に最終基準書が公表される見通しであることを考えると、発効は2019年頃になると予想されます。このタイミングも実は大きな問題となっています。その問題については次回ご紹介したいと思います。

イージフ 野口

2015年9月7日月曜日

IFRSの持分法が変わる:一行連結か測定方法か

こんにちは。イージフの野口です。今回は持分法についてIASBでの最近の動向をお伝えしたいと思います。IASBでは、持分法の意義を根本から問い直そうとしています。

2015年8月にIFRS10号「連結財務諸表」、IFRS28号「関連会社及び共同支配企業に対する投資」の改訂(2014年9月公表の「投資者とその関連会社または共同支配企業との間の資産の売却または拠出」)について発効日を無期限に延期する発表をしています。これは今後リサーチ・プロジェクトで持分法の会計処理を検討する決定がなされたことに付随して決まったもので、持分法の会計処理を見直すことが計画されています。これからのプロジェクトで持分法についての改訂が行われることとなったので、2014年9月の改訂との二度手間を避けるため、無期限の延期となったのです。

今回のリサーチ・プロジェクトは興味深い内容となっています。今回の検討の対象は持分法の会計処理となっています。焦点となっている問題は持分法とは何なのか、ということです。持分法は一行連結である、という考え方があります。私が会計を始めて勉強した時はそう習いました。しかし、IFRSでは関連会社等は連結の範囲に含まれていません。連結の範囲ではないから、連結会計を適用しないという規定になっています。当時の私は、連結の範囲に含まれていないから持分法を適用する、と習いましたが、そもそも連結の範囲に入っていないのに持分法として一行「連結」することはおかしいのではないか、という指摘があります。また、持分法は一行連結ではなく、投資の測定方法であるという考え方もあります。しかし、IFRSの中では持分法を測定方法として明確に位置付けているわけではありません。

持分法はこのような理論的な問題もありますが、実務的な問題もあります。持分法を適用する関連会社等は連結の範囲に含まれていないですし、投資者が関連会社等に与えられる影響力があまりない場合が多く、親会社と子会社の関係のようにはいきません。持分法の会計処理に必要な情報を関連会社等から入手することは簡単ではないですし、関連会社等が会計方針や決算期を統一することも難しい場合が多いのです。持分法の会計処理自体を簡便になってほしいという要請は以前からあります。上記の議論で持分法の位置付けが変われば、簡便化の方向性がより広がってくると思います。また、持分法の持分法が一行連結でないとしたら、会計方針等を統一する理論的根拠もなくなり、統一する必要がなくなることも考えられます。

このように今のリサーチ・プロジェクトの問題意識を理解すると、そもそも現在の持分法は根深い問題を抱えていることに気づきます。これからのIASBの審議でどのような議論が展開されるのか注目したいと思います。



イージフ 野口

2015年8月3日月曜日

新収益認識基準IFRS15号の改訂はコンバージェンス達成しているか

こんにちは。イージフの野口です。

IFRS15号「顧客との契約から生じる収益」が公表され、発効する前に改訂されるという異例の事態が起きています。2015年7月に改訂についての公開草案とその後にIFRS15号の適用日を延期することが決定される予定です。この一連の動きはTRG(移行リソース・グループ)というIFRS15号の円滑な適用を実現するためにIASBとFASBが創設した団体の報告に対応するためなのですが、FASBはこの報告への対応を行ったことにより新基準の適用を1年延期する決定をすでに行っています。IASBも同様の決定を行うと考えられます。

今回の改訂は基準書の内容を変更することが目的ではなく、内容をわかりやすいものに明確化することに主眼が置かれています。すでに決定した内容を覆すものではないのですが、IFRS15号が米国基準とのコンバージェンスを達成するために開発されてきたものであることを考えると、ここでの改訂もIASBとFASBが足並みをそろえる必要があります。しかし、これまで決定されてきた改訂事項を見てみると必ずしも両者が同じ決定を行っているとは限りません。コンバージェンスはどうなってしまったのでしょうか。

IASBとFASBの合同審議は、実際に見てみるとわかるのですが、合同といいつつも両審議会のメンバーが議論を交わすということが行われるわけではありません。順番にそれぞれの審議会が別個に議論を行い決定を下していき、互いの議論を聞き合っている、という状態がほとんどです。両方の審議会に提案される内容が同じになるように共同で作業を進められており、同じ提案に対してお互いがどのように考えているのか、感触を探りながらも、各々が決定を行っていきます。コンバージェンスを達成するには、両審議会に出されている提案が同じであることが第一に重要になります。

IFRS15号の今回の改訂ではこの両審議会へ提示する提案が共同で作成されていることでかろうじてコンバージェンスが達成できている、という印象です。改訂ついてFASBは積極的に多くの決定を行い、IASBは必要最低限に留めようとしており、ここの決定事項を見ているとかなり違いが目につくのですが、それでも両者は同じ規定を意図しており、それぞれの言葉が違っても実質的にコンバージェンスを達成できていると捉えられています。

同じ英語という言語を使用しており、統一された会計基準であるならば、一言一句同じであるのが自然だと思います。しかし、今のIFRS15号(リースの新基準でも同じような現象が起きていますが)では、必ずしも同じ文言にはならない、というのが現状です。会計はより難しい世界になってきたと思います。

イージフ 野口由美子

2015年7月6日月曜日

概念フレームワーク改訂でかつて消えた言葉が復活

こんにちは。イージフの野口です。現在IFRSの「財務報告に関する概念フレームワーク」の改訂作業が続いており、2015年3月に公開草案が公表されています。近年改訂された新しいIFRSは現行のフレームワークと食い違っている部分があり、新しい基準書の中にある考え方にフレームワークを合わせる、という形で改訂が進められています。


2015年3月の公開草案の論点について興味深い記事がありましたので、今日はその内容をご紹介したいと思います。


記事は「A tale of 'Prudence'」というIASBの理事の方が書かれたものです。Prudenceとは何のことだと思いますか。私は昔学生の時初めて会計を習った時に知った言葉で、その後仕事で会計を扱うようになってからはすっかり忘れていました。


慎重さ、という意味です。会計原則の中には保守主義という考え方があります。予測される将来の事象に備えて、慎重な判断を行うということです。概念的な言葉ではありますが、その考え方自体は実務でも重要です。会計の世界での慎重さとは保守主義の範疇にあるものだと理解できます。


現行の概念フレームワークには実はこの保守主義や慎重さといった言葉が全く出てきません。前回の改訂で意図的に削除されました。保守主義でいつも問題になるのは「過度な」保守主義で、保守主義を明文化すると「過度な」保守主義を助長するかもしれないという懸念があったようです。IASBとしてはフレームワークで削除しても保守主義の考え方は当然のものとして適用されるという意図があったようです。しかし、実際には必ずしもそのように考えられていなかったようです。IFRSでは保守主義の考え方が取り下げられたという解説も散見します。


そのような状況に対処するため、今回の改訂では再度慎重さという言葉が概念フレームワークに復活します。この言葉が消えたりまた出てきたりしていますが、保守主義という考え方は私が学生だった時も今も変わっていませんし、新しい概念フレームワークでも変わりません。いろいろな変化が多いIFRSですが、表面的には文面が変わっても、考え方は変わっていない、ということもあるのです。


イージフ 野口由美子


 


 


 



2015年6月8日月曜日

なぜ新収益認識基準は適用が延期されるのか

こんにちは。イージフの野口です。前回の記事では新収益認識基準をめぐる最近のIASBの動向を紹介しました。今回はその続報です。


IASBは新収益認識基準であるIFRS15号「顧客との契約から生じる収益」の発効日を当初の予定から1年遅らせ、2018年1月1日以後開始する事業年度から強制適用とする提案を行いました。2015年5月19日に公開草案の形で公表され、コメント募集期間を経た上で、7月のIASB会議で正式に決定することになります。


今回の対応は素早く、早く話が進んだ印象を受けました。この決定の背後には米国基準とのコンバージェンスへの配慮があります。FASBは4月の時点で新基準の適用を延期する提案を行う決定をしていました。この時点ではFASBも1年の延期を正式決定したわけでははありません。実際にFASBがこの提案を行う公開草案を公表する直前のIASB会議でIASBとして1年延期を提案することを決めたのです。


FASBは2015年4月29日に新基準の発効日を延期する提案を公開草案として公表しました。その中では、1年の延期を提案しており、その他の選択肢として開示するすべての財務諸表へ遡及適用を行うことを条件に2年の延期を行う提案もなされています。もともとFASBの中では2年の延期を支持する意見もあったようでしたが、今回の公開草案では、遡及適用する場合に2年延期を行うという形で提案されており、現実的な選択肢にはなりづらくなっていると思います。


IFRSと米国基準での適用時期がずれてしまうと早く適用しなければならない企業は損をする格好になってしまいますし、財務諸表利用者にとっても比較が難しくなってしまいます。それを避けたかったという意図はIASBもFASBも同じでだったのではないかと思います。1年の延期で決着がつきそうな流れになっています。


新しい収益認識基準を巡る最近の動きには、IASBとFASBのスタンスの違いが鮮明に現れていると思います。原則主義と細則主義という会計基準のスタイルの違い、様々な国に適用される基準と1国内で適用される基準であるという利害調整の範囲の違い、同じ英語の基準とはいえ、イギリス(ヨーロッパ)英語とアメリカ英語という言語的、文化的な違い。両者にはいろいろな違いがあります。


米国基準はIFRSとコンバージェンスを目指しているがそれは一言一句同じである必要はない、というのが最近のFASBの姿勢です。同じ言語でも基準書の中身が同じ文章にならないのであれば、言語の違う国においてはどどうなるのでしょうか。日本でどのようにIFRSが定着するのか、という問題にもつながっているように思います。


 


イージフ 野口


 


 



2015年4月27日月曜日

IFRS15 新収益認識基準のさらなる改訂、そして発効日延期?

こんにちは。イージフの野口です。


IASBの審議から最新の情報をお伝えしていますが、今回はすでに完了したプロジェクトから。思わぬ展開が起きています。収益認識の新基準はすでにプロジェクトは完了したのものとされていましたが、現在思わぬ方向へ動きを見せています。


IFRS15号「顧客との契約から生じる収益」は2014年に基準書が完成し、2017年1月からの強制適用が予定されています。現在は適用準備に向けてIASBとFASBが共同で創設した移行リソース・グループが活動し、新基準適用の問題点の点検、両審議会への報告を行っています。移行リソース・グループからの報告のうち、重要な問題についてはIASBとFASBが合同で審議をすることになります。移行リソース・グループからの報告の多くは、基準書の規定が不明確で実務上の適用が難しいというもので、基準書の内容そのものを変えるというより、内容を明確にする文言やガイダンスの追加が求められています。


最近のIASBとFASBの合同審議では収益認識が取り上げられてきていますが、このまだ適用されていない状態にある新しい基準書の扱いについてIASBとFASBではスタンスがだいぶ違っています。


IASBはよほどのことでない限り、基準書の改訂を行わない立場を取っています。なので、移行リソース・グループからの問題点についても重要ないくつかの点についてついてのみ、内容を明確にするために改訂を行います。そもそも現在検討している問題の多くは、基準書が発効して3年ほどしてから行う適用後レビューで検討すべき問題と捉えられており、より安定的な基準書の運用に配慮したいという姿勢がみられます。


それに対して、FASBはより多くの点について基準書を改訂する決定を行っています。不備があると考えられるのであれば、文言の変更やガイダンスの追加を積極的に行って基準書をより良くしていこうとする姿勢です。


最近の収益認識の審議ではそれぞれの審議会の決定があまりにも異なるので、新基準はコンバージェンスを諦めているかのようにさえ思えるかもしれません。しかし、実はそれでも両審議会は新基準を適用した結果(会計処理)は同じことを目指しており、IFRSでも米国基準でも同じである、コンバージェンスされていると考えられています。同じ言語で同じ会計処理を規定しようとしているのに、表現が違う、ガイダンスの内容が違う状態になっています。米国基準は米国基準独自のスタイルがあり、それを維持しつつ比較可能性を高めること(IFRSと全く同じ文言にならないけれど、コンバージェンスに配慮すること)が、米国基準を使用する利害関係者のためになる、というのがFASBの最近の考え方のようです。かつてはIFRSと米国基準が同一の文言になることを目指していたので、これは大きな方向転換だと思います。


この一連の動きによって、IFRS15号の発効日が延期される可能性が出てきています。FASBは単独で新収益認識基準の発効日を1年延期する提案を行うことを決定しました。まだ提案を行う段階で、所定の手続きを経て延期が決定されることになります。米国基準にそのような動きがあるとIFRSの発効日はどうなるのか。IFRS15号は米国基準ほど大きな変更を行わないので、もともとは強制適用を延期する要請がそれほど多くはなかったようですが、米国基準と時期がずれてしまうことについては再検討が必要になってくると思います。今後のIASBでの審議で取り上げられるかもしれません。


最近は、IASBとFASBとの関係性もまた変わってきたような印象を受けます。米国基準とのコンバージェンスは達成を目指さなくてはならないことは変わらないと思いますが、よりその難しさを感じさせる場面が多くなっています。


イージフ 野口


 


 


 


 



2015年4月6日月曜日

英語ができるようになりたいならば

イージフの野口です。今回はIFRSから少し離れて英語の習得についてお話ししようと思います。というのも、弊社の社長が非常に英語の習得に熱心で、その様子を自身のブログでも紹介していますが、私の英語の習得とはまた違っており、私の経験も参考になるのではと思ったからです。弊社社長からは「野口さんは英語ができるから、それは違う経験をしているに決まっている、苦労などないのだろう」くらいに思われているかもしれませんが。


英語ができるようになりたい、と思ったら、何をすべきか。私の経験から一番おすすめしたいのは、現実に英語で困った場面を具体的に特定し、その時にどう伝えるか、何を言われるか、ということをひとつひとつ押さえることです。英語で困った場面を多く経験し、苦労するのが一番です。英語ができるようになってから英語を使うのではありません。できるできないに関わらず、英語に飛び込んだ人が使えるようになるのです。


現在、私は海外生活が2年続いており、また、毎月のIASB会議の記事を連載しているので、嫌でも英語を使う生活をしています。その苦労が英語の習得にはプラスになっています。


私の場合は、会計という専門分野の英語が仕事の中心になり、会計の専門用語やIFRSや米国基準での独特の言い回しを知ることが重要でした。現在、毎月記事にしているIASBの会議についても、私が会議を見るようになった最初の頃は内容についていくだけでも大変でした。理事の方々はいろいろな国から選出されています。理事の方の発言を聞いていると英語のアクセントからどこの国の出身か言い当てられるくらい話し方が違います。しかし、会計についての表現は皆共通で、言葉の使い方もIFRSにおいて適切な表現を選んで話されています。その独特の言葉に慣れると資料や議論の理解は格段に早くなりました。


 

しかし、家庭で必要な子供の英語となるとまた話が違うのです。IASBの会議が分かるようになってきても、たとえば、BBCの子供番組は始めのうちは真剣に観ていないと内容が分かりませんでしたし、子供の学校からのメールを読むのも時間がかかりました。私は学校の先生との面談などよくありますし、毎日のように学校からいろいろなお知らせがきます。テレビは子供が観ているのに毎日付き合っています。だんだんと、学校からくる大量のメールもすぐに読みこなせるようになり、子供のテレビ番組は聞き流していても内容が分かるようになりました。

 

特にやっかいだったのはイギリス人の先生が使う独特な言い回し(子供を褒めているコメントだけれども、その裏には何が子供に足りないか、できていないかを言おうとしている)で最初は理解できませんでした。もしアメリカ人の先生ならもっと直接的な表現をしていたかもしれませんし、イギリス人の先生の言うことはアメリカ人の親にも理解が難しかったかもしれません。英語といってもいろいろな英語があることを身を以て知りました。

 

「英語ができる」というのはどういうことなのでしょうか。英語と日本語といった具合に2ヶ国語を習得した人をバイリンガル、といいます。一般にイメージされるバイリンガルは英語も日本語もと同等に操れ、ビジネスでの交渉も子供の絵本の読み聞かせもどちらも問題なくできるでしょう。しかし、そこまで到達できる人は本当に少ないですし、そうなる必要はないのです。言語教育で使われる本来のバイリンガルの意味は、どちらか得意不得意があり、ある特定の場において一方の言語の方が容易に操れるという人もバイリンガルというそうです。オールラウンドに英語ができなくても、英語で仕事をする、英語で日常生活が送れる、ということも可能ですし、ある特定の場で英語が使えれば、それはバイリンガルなのです。私は会計の英語、子供の学校の英語は分かるようになっても、日本の政治の説明をしようとしたらかなりしどろもどろで全然言いたいことが言えませんでした。それでも、この定義によれば、バイリンガルなのです。


 

IFRSの英語が分かるようになりたいのであれば、それに特化すべきですし、ビジネスでの交渉やプレゼンができるようになりたいのなら、また違う英語が必要になるでしょう。自分に必要な「場面」において英語が使えれば、それで十分ですし、次に別の分野に広げていくのは楽になってきます。日本の多くの人は受験などでかなり難しい英語を勉強していますが、実際に使う場にマッチしていないので、自分は英語ができない、と思い込んでしまうのではないかと思います。文法や基本的な単語はすでに学校で勉強してきたと思うので、実際の「場面」でどのように使われているかということを知ればそれほど難しいことではないことに気づくはずです。よくある「ビジネス英語」や「日常会話」というのは漠然としています。もっと特定の場面を想定すべきだと思います。例えば、自社の製品を説明する時によく使う言い回しのパターンや、業界の専門用語の意味を押さえるだけで、仕事でのコミュニケーションが成り立つようになっていきます。

 

それから、最後までコンプレックスとなるのが、発音だと思います。たとえ話す英語がたどたどしかったり、日本語のアクセントがあったりしても、内容がしっかりしていれば、相手は真剣に聞いてくれます。結局、何を話すか、ということが大切であり、日本語英語という言語の問題ではないということになる、というのが私の海外生活の感想です。

 

イージフ 野口由美子

 


 



2015年3月2日月曜日

リースの定義を巡る長い議論で何があったか

こんにちは。イージフの野口です。このブログではIFRSの最新動向をご紹介しており、最近は注目度の高いリースについて度々取り上げてきました。前回は2014年9月にリース基準の改訂についてご紹介しました。リース会計の借手の処理はIFRSと米国基準で違うものが支持されており、コンバージェンスの達成はできない見通しです。しかし、借手がリース資産をオンバランスする(現行基準のオペレーティング・リースの廃止)という最大の目的は果たせることになります。


2010年だったと思いますが、当時のIASB議長のSir. David Tweedie氏が東京で講演を行い、「自分が死ぬまでに航空会社のバランスシートにオンバランスされた飛行機に乗りたい」と発言されていたのが、とても印象的でした。彼の在任中には果たされませんでしたが、新リース基準は2015年中に公表される予定であり、ようやく長年の夢が叶うことになります。


前置きが長くなりましたが、リースの審議で多くの議論が巻き起こった興味深い論点を紹介していきたいと思います。今回はリースの定義についてです。ちょうどIASBでも新しいリースの定義を説明する資料が公開されました。


新しいリースの定義は以下の2つの要件からなっています。


1. 契約の履行が特定された資産の使用に依存すること


2. 原資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転すること


新しい定義では「特定された資産」であること「特定された資産の使用を支配している」といえることがポイントとなります。現行のIAS17号では、貸手が一括または数回の支払いを得て契約期間中資産の使用権を借手に移転する契約、という定義を定めていますが、IFRIC4号でさらに細かい点に踏み込んでいます。新しい定義はIFRIC4号の内容を包含したような定義になっていると思います。


新しい定義の中で最も議論されたのはリースする資産の使用を「支配」しているとはどういう状態を指すか、という問題でした。基本的な考え方は借手がリース資産を支配しているのであればリース、貸手が支配しているのであればサービス、という分類です。


新基準において借手がリース資産を支配している状態とは、


・使用、目的を指図できること


・リース資産の使用から生じるほとんどすべての経済的便益を得られること


という2点であることが明確にされます。


リースした資産を借手が単独で自由に使用できるのであれば特に問題はありません。しかし、例えば、特殊な設備のリースで設備を稼働させることが借手単独でできない場合など、借手が自由に自ら使用できなくても、リース資産を「支配」していると言えるのでしょうか。2014年を通して議論が重ねられましたが、最終的には借手が自らの手でリース資産を使用することができなくてもリースに含まれるという結論になりました。


この結論に至った理由は、基準が複雑になりすぎて適用が難しくなることを回避しようという実務への配慮が大きかったようです。審議中にはかなり複雑な条件が検討されていましたが、非常にシンプルになったと思います。またこのリースの定義についてはIFRSと米国基準が同じ内容になることで合意されています。


新リース基準の論点については他にも面白いものがありますので、またご紹介していきたいと思います。


イージフ 野口由美子


 


 


 


 


 



2015年2月2日月曜日

IFRS、これからの注目トピック

イージフの野口です。2015年になりました。すでに2月に入り、1年を総括するにはちょっと遅いかもしれませんが、2014年のIFRSの動向と2015年の展望を考えてみたいと思います。


2014年の前半は、長期にわたって取り組まれてきた大きなプロジェクトが完了しました。


 


一番大きいのが収益認識です。収益認識は2014年5月に新しい基準書が公表されました。2001年時点で改訂のアジェンダにはあったものの、2008年のディスカッション・ペーパー、2回の公開草案を経て、非常に長いプロジェクトとなりました。新基準書では統一されたモデルによって収益を認識します。従来の会計慣行を変更することは目的とせず、シンプルな原則基準のIFRSにふさわしい規定を目指して改訂されました。


 金融商品についても大きな成果がありました。金融商品の評価に予想損失モデルを導入、ヘッジ会計の改訂を含む新IFRS9号「金融商品」が公表されています。金融商品はマクロヘッジを残して完了しました。金融商品会計はこれまでの基準書よりも簡素化されたと思います。


 その他に概念フレームワークは2014年中に頻繁に取り上げられ、審議自体はほぼ完了しています。2015年に公開草案が公表されることになっています。かつてはIFRSといえば、BS重視、時価主義と言われていましたが、今はそれほどBSが重視されているわけでもなく、公正価値一辺倒でもなくなっています。そのような現状のIFRSの考え方に合わせた概念フレームワークに改訂されることになっています。


 2014年内には終わりませんでしたが、リースの再審議は終わりが近くなっています。FASBがIASBが支持するリースのアプローチを採用しない決定をし、米国基準とのコンバージェンズの先行き不透明な状況から2014年の審議はスタートしました。それでも、合同で審議が継続し、2015年前半には審議が完了すると考えられます。今でもIASBとFASBは別々のアプローチを採用する姿勢を崩していないので、新しいリース会計では両基準の差異が拡大することになります。今後IFRSと米国基準がどのように変化していくのかは注目されているところですが、コンバージェンスはそう簡単には達成しないという悲観的な見方が強いと思います。


これから審議が始まるトピックで注目すべきなのは企業結合だと思います。まだ審議は始まっていませんが、のれんの償却の要否、無形資産の識別など日本基準との差異があった項目を含め、重要な論点が議論される予定です。これらの論点はすでにFASBでは改訂のための作業に着手しており、FASBとの共同作業で改訂を目指すようです。どこまでコンバージェンスが達成できるのか、難しい審議になると思います。


その他に、開示イニシアティブから定義されたいろいろな問題が2015年には本格的に審議されることになると思います。開示イニシアティブではIFRSによる開示基準を見直し、不要な情報が過剰に開示され、必要な情報が開示されない(もしくは埋もれてしまっている)という状況をなくしていこうとしています。ここには現在の開示は情報過多なのではないか、という問題意識があります。IFRSは多くの国で採用されるようになり、当初の想定とは違う実務や解釈もできているようです。大きく見直される時に来ているのだと思います。


個人的には、意外と外貨換算が後回しにされているという印象を受けています。現在改訂の必要性は認識されているものの、まだ本格的な審議が行われる段階まで進んでいません。外貨換算については5年以上前も問題があるという認識があったようでしたが、2015年も他のトピックが優先され、審議は進まないかもしれません。外貨換算の理論を見直すことが必要と考えられており、改訂がなされる場合は大幅な変更となるのではないかと思います。


 


IFRSは今年も少しずつですが、着実に変化を続けます。IFRSが(日本にとって)いいか、悪いか、という議論を見ることがありますが、世界共通の会計基準としてふさわしいものであるため、より良いものを目指していることは確かだと思います。


 


イージフ 野口