2016年12月12日月曜日

重要性の判断方法を明確にする、重要性プロセスとは

こんにちは。イージフの野口です。IFRSを適用する日本企業が注意すべきこととして、膨大な情報開示への対処がよく挙げられます。確かに、IFRSは日本基準よりも注記等の情報量が多い特徴があります。

しかし、これは必ずしもいいこととは考えられていません。重要でない情報が大量に開示される一方で、本当に重要な情報が見落とされてしまったり、開示から漏れてしまったりしているのではないか、という懸念は根強くあります。企業にとっても、情報開示コストが過大になってしまいます。

そういう「ムダ」な情報開示をなくそうとしているのが、現在のIASBの姿勢です。IASBではコミュニケーションの質の向上を今後5年間で目指すという決定していますが、情報が多ければいいのではなく、情報量を削減する方向でも質の向上を達成しようとしています。

利害関係者が必要とする情報を開示するには、重要性の判断が適切になされることが大切です。しかし、実際のところ、重要性の判断は難しいものです。あくまで、企業の判断なのですが、判断にばらつきが大きいことが指摘されていますし、量的重要性と質的重要性の両方を検討しなければならない、とされていても、現実には量的重要性一辺倒で判断してしまいがちです。

そのような問題に対処するため、財務諸表作成における重要性の適用について実務記述書が作成されることとなり、すでに公開草案が公表されています。現在公開草案のフィードバックをIASB会議で検討しています。

その検討の中で、重要性を判断する手続きを重要性プロセスとして説明することが新たに提案され、合意されています。

重要性プロセスは以下の4ステップからなります。

  1. 重要性の判断が必要な情報の特定
  2. 当該情報が重要であるか否かの評価
  3. 財務諸表内で当該情報を開示するドラフトの作成
  4. ドラフトの情報開示が適切であるかの評価

特に興味深いのはステップ2に関する説明で、実務記述書内では、情報が重要であるかという判断の手続きがより具体的に記載されます。その手続きでは、従来通り、量的側面と質的側面からの判断が必要になります。質的側面の判断がおろそかになってしまうのは、質的重要性の内容が明確でないから、という反省のもと、質的重要性について詳しくその内容が説明されることになりました。

質的重要性は、企業固有のものと外的要因によるものの2種類があるということが明示されます。

企業固有の質的重要性とは、法令違反(その可能性のある場合も含める)、非定型的な取引や事象、想定を超える変動や趨勢の変化を指します。一方、外的な質的重要性とは、その名前の通り企業の外部環境の影響を受けるもので、地理的条件や業界、より大きな経済環境等の要因があります。

実務記述書は基準書ではありませんので、必ず従わなくてはならないものではありませんし、新しいことを提示しようとしているわけでもありません。しかし、適用が難しい重要性の判断について、具体的な説明がなされているので、是非一度読んでみるといいのではないかと思います。

(ちなみに、実務記述書の公表時期はまだ決まっていません。概念フレームワークの改訂等他のプロジェクトとの関係を検討する必要があるためなのですが、2017年中には公表されるのではないかと思います。)

イージフ 野口

2016年11月7日月曜日

会計方針の変更、実務のばらつきが問題に

こんにちは。イージフの野口です。今回は最近のIASB会議の中で、IAS8号に関する議論を紹介しようと思います。

IAS8号の適用については実務上のばらつきが生じているというIFRICからの指摘が発端となり、IAS8号の改訂が検討されることになったのですが、当初はもっと簡単な扱いで対応されることが想定されていましたが、個別のプロジェクトとして扱われています。

実務上でもよく問題となると思いますが、会計方針と会計上の見積りのどちらに該当するのかという判断が現行基準の定義では判断が難しいのです。今回は主に定義に焦点を当てて審議が行われています。

会計処理を変更する時、会計方針に該当するか、会計上の見積りに該当するかによって、対応は大きく変わります。会計方針に該当する場合、変更はより難しくなります。変更した会計方針を遡及適用することも必要です。

IFRICからの報告では、棚卸資産の評価方法や公正価値評価の手法などにおいて、どちらに該当するか、企業によって判断に違いが生じているということでした。

そこで、会計方針と会計上の見積りの変更について定義が変更されることになりました。

・会計方針の定義(案)
企業が財務諸表を作成表示するにあたって採用する特定の原則及び実務。

・会計上の見積りの変更の定義(案)
資産または負債に関する会計方針を適用する際に使用する判断または仮定の変更を引き起こす新しい情報(または他の新しい展開)から生じる、資産または負債の帳簿価額の調整。

区分をより明確にするための改訂ですが、文言はより簡潔になった印象です。この定義では、会計上の見積りは会計方針を適用するための手段という位置づけを明らかにしようとしており、現行基準から無駄な言葉が削除されています。

さらに、今回の改訂では、棚卸資産の評価方法は会計方針であることを明記する予定です。個別の問題について言及することには反対意見もありましたが、実務上の混乱を回避するために、必要と判断されました。このような具体的な内容は、ある程度時間が過ぎ、実務でも定着していけば、不必要になり削除されるかもしれません。IFRSは原則主義の会計基準として作られていますが、必ず原則主義が貫かれているかというとそういうわけではありません。その時々のニーズに対する柔軟な姿勢を感じられます。

その他、実務上注目したい議論に、会計上の見積りについて変更が可能となる条件を設けるべきかどうかという検討がありました。会計方針の変更には変更のための条件があります。さらにIFRS13号「公正価値測定」では、公正価値の評価技法の変更については条件が提示されています。公正価値の評価技法は会計上の見積りに含まれます。IFRS13号との整合性を重視して、会計上の見積りの変更についても条件が必要ではないかという意見がありました。

IASB会議の決定では、会計上の見積りの変更については、条件を特に定めないこととなりました。会計方針の変更よりも、会計上の見積りの変更は頻繁に行われることが想定されるため、実務上の煩雑さを軽減することが優先されました。

これらの決定に基づき、IAS8号の公開草案は2017年前半に公表される予定です。


イージフ 野口




2016年10月3日月曜日

IFRSの新保険契約基準が意味するものとは

こんにちは。イージフの野口です。保険契約について、ついに2016年中に基準書が公表されることとなりました。これまで幾度となく、基準書公表の時期が延期されてきていましたが、今度こそ公表となるようです。

新保険契約基準公表の前に、ここで新基準の考え方をおさらいします。どのような考え方に基づいて作られたのかということを知っておくと、基準書の理解もしやすいと思います。

新基準は、保健契約の経済的実態を財務諸表上に反映することが目的に作られています。

ここで重要な考え方はIFRS15号「顧客との契約から生じる収益」です。これは収益認識全般の会計処理を定めており、収益は顧客との契約から生じる義務の「履行」に伴って認識するという原則を定めています。この原則を、保健契約にも整合した形で適用しようとしているのが、新保険契約基準です。

新基準では、保険契約の収益認識についてビルディング・ブロック・アプローチという会計処理が、原則処理として導入されます。

ビルディング・ブロック・アプローチは保険契約の「履行」に基づいて保険負債の現在価値を測定するという考え方です。簡単にいうと、保険契約に関する将来のキャッシュ・イン・フローとキャッシュ・アウト・フローの純額から、貨幣の時間価値、リスク上の調整を考慮した残額を、未稼得の利益として測定します。この未稼得の利益は、契約上のサービス・マージンといい、正の値の場合は、保険契約の履行に基づいた収益認識を行うため、カバー期間にわたり規則的な方法で認識することになります。

保険負債の現在の価値を表すため公正価値を参照しますが、実態をゆがめる大きな価値の変動が財務諸表上に直接影響することを避けるため、見積りによる計算を行う部分も多い会計処理です。

この原則処理以外に、直接連動の有配当契約については変動手数料アプローチが適用されるなど、いくつかの例外処理も認められますが、それらは基本的にビルディング・ブロック・アプローチを一部修正する形で適用されます。

新基準のもとでは、現在の価値を表すために毎期計算を見直す必要がある、というのが、一番実務上のインパクトが大きいと思います。また、財務諸表上の変動性は直接影響しないように配慮されていますが、変動性が従来の日本基準より高まることになります。

新基準は最低限3年の準備期間を設けることが合意されているので、発効は2020年頃になる見通しです。IFRSの新基準公表により、その他の法規制も改訂されていく可能性があり、今後数年のうちに、保険業界をめぐる環境は大きく変化することになると思います。


イージフ 野口

2016年9月12日月曜日

新概念フレームワーク、認識基準をめぐって二転三転

こんにちは。イージフの野口です。概念フレームワークの改訂について、最近当ブログでも取り上げることが多くなっています。注目すべき改訂内容がたくさんあるのですが、今回は、概念フレームワークの中で扱われている、認識に関するIASBの審議を紹介したいと思います。

何を財務諸表上認識するのか、オンバランスしなければならない財務諸表項目について、これまで誤解されることが多かったと言われています。現行の概念フレームワークでは、構成要素の定義を満たす対象物の認識要件を以下のように定めています。

  • 経済的便益の流入または流出の可能性が高いこと(蓋然性規準)
  • 信頼性をもって測定できる原価または価値を有していること

特に1つ目の蓋然性規準は誤解されやすかったと思います。経済的便益の流入または流失の可能性が高い、という閾値をもって、財務諸表項目は計上されるかどうかを判断すると捉えられますが、デリバティブ資産もしくは負債など、実際には閾値を満たしていない財務諸表項目を認識する場合があります。また基準書によっては「可能性が高い」という表現以外の言い回し(「発生しない可能性よりも発生する可能性の方が高い」など)になっていることもあり、混乱を招いていると批判されていました。

この蓋然性規準をどのように扱うか、改訂の動向に注目が集まっていましたが、2016年7月のIASB会議で、資産または負債、および収益、費用または持分の変動に関して、以下の2点を認識の要件とすることが決定されました。


  • 目的適合性があること
  • 忠実な表現であること

蓋然性規準は削除されています。蓋然性規準は誤解を招きやすい上に、概念フレームワークにふさわしい形で記載することは非常に困難と判断されたからです。しかし、一方で蓋然性規準がなくなった新要件はあいまい過ぎるという批判に対処するため、経済的便益の流入または流失の可能性が低い項目は、通常、認識されないという説明が盛り込まれることになります。


いろいろな変更が加わり、わかりにくくなってしまったのですが、ここで注意しておきたいのは、新概念フレームワークで蓋然性規準がなくなっても、蓋然性が低い項目を新たに認識することにはならないということです。当然と言えば当然のことなのですが、改めて注意しておきたいところです。


この新しい2要件は、2015年公表の公開草案からさらに変更された箇所があります。公開草案では、情報を提供するコストを上回る便益をもたらす、という3点目の要件が含まれていました。しかし、この時の会議で削除する合意がなされています。


認識において、コストの制約を考慮する必要がないことを意味しているわけではありません。コストの制約は、認識という局面だけでなく、財務報告全般に関わることとして、概念フレームワーク内に記載されます。


認識においても、もちろん、コストの制約を考慮することが必要となります。この考え方はこれまでと変わりありません。


概念フレームワークの改訂では、多くの文言が修正されることになります。今回紹介した認識の要件もこれまでとは様変わりします。しかしそれは、これまで、実際に行われてきている認識の方法を変えるものではありません。今実際に使われているIFRSに合わせるための改訂であるということをここでもう一度確認したいと思います。



イージフ 野口






2016年8月8日月曜日

新概念フレームワークで包括利益はどうなる?

こんにちは。イージフの野口です。以前の記事「IFRSの包括利益がよくわからない方へ」を読んでくださった方に、今度改訂される概念フレームワークで純損益や包括利益がどのように規定されるか、ご紹介しようと思い、IASB会議2016年6月の審議を取り上げたいと思います。

今回の概念フレームワークの改訂は、抜本的な見直しを行っています。これまでも解説してきたように、今のIFRSは実はB/S重視というよりもP/L重視寄りになっている、という立場の移行を概念フレームワークに反映することが検討されてきました。かつてIASBは純損益を廃止する目標に掲げていたのですから、この転換は大きなものです。


本来であれば、純損益や包括利益といった利益概念を明確にする定義を設定することが理想でしたが、長い審議期間をかけても、多くの賛同が得られる「明確な定義」を設定することはできませんでした。審議も、もどかしい印象がありましたが、この問題ばかりに時間を費やすことはできないので、議論は時間切れでした。利益概念については、概略的な記述がなされることになります。


そこで、別の記載を概念フレームワークに盛り込むことになりました。P/Lを企業の当期の財務業績に係る主要な情報源とする、という記載です。これはP/L、そして純損益を重視する立場を明確にするための記載であって、IASBからそのことを明言しようという姿勢を表しています。何気なく読んでしまいそうな内容ですが、大きな意味があるのです。

また、包括利益は何なのか、という問いに対しても、新概念フレームワークは明確な答えを提示しません。しかし、そこにはまた、1つの仕掛けが用意されています。

6月のIASB会議の決定で、

原則として、すべての収益費用項目が純損益に含まれ、
原則として、その他の包括利益項目はリサイクルされる
(公開草案では「反証可能な推定」として定めることが提案されていましたが変更されました)
こととなりました。

P/Lと純損益を重視するのであれば、その他の包括利益項目はリサイクルされることが必須ですし、B/Sと包括利益重視であれば、純損益自体必要なくなりますし、その他の包括利益項目はリサイクル不要です。


今回の記載は、原則、その他の包括利益項目はリサイクルするけれど、例外も稀にあり得る、という体裁になっています。P/L重視の立場に移行したとはいえ、完全にP/L重視だけで押し通すつもりもない、という微妙なさじ加減が表れているように思います。


その他の包括利益項目はリサイクルするという考え方自体は、もともとある日本の会計基準の考え方に近いと思います。昔は、その他の包括利益項目のリサイクルにこだわっているのは日本だけではないか、と言われていましたが、今はそれが主流となりました。1周回って、IFRSが日本基準に近くなったかのようにも感じられて、面白いところです。新概念フレームワークの利益の考え方は、日本の感覚で理解できるように思います。



イージフ 野口由美子




2016年7月4日月曜日

アジェンダ・コンサルテーション2015で見えてきた、これからのIASB

こんにちは。イージフの野口です。
現在IASBではアジェンダ・コンサルテーションとして、今度のIASBの活動方針や個別プロジェクトの計画等が検討されています。今回のアジェンダ・コンサルテーションでの決定を見ていると、IASBの方針がだいぶ変わってきたことに気づきます。何が変わってきたのか、私は以下の3点に集約されると思います。

より長期的な視点に立つ

アジェンダコンサルテーションの開催は3年ごとでしたが、今後は5年程度期間を空けることになりました。主要なプロジェクトは大抵5年以上に及んでいて3年ごとでは期間が短すぎるということと、IASBも利害関係者もより長期的視点に立つべきという考えのもと決定されました。

かつては、環境変化に適時に対応することが重視されてきたように思います。米国基準とのコンバージェンス・プロジェクトが活発だった頃に比べると、最近のIASBでの基準書開発のペースはだいぶ落ち着いてきたように感じられますし、必要とあれば、再審議、文書の出し直しも積極的に行っています。IFRS自体、多くの国で適用されるようになり、利害関係者が非常に多くなりました。何をするのも時間がかかるため、スケジュールは「マイペース」に感じられます。

個別の基準書開発が最優先事項ではない

金融商品、収益認識、リースといった長期に渡る大型プロジェクトが終息した後、これからは基準書の安定的な運用に焦点が当てられることになります。

たとえば、基準書の適用支援や財務諸表作成者と利用者との効果的なコミュニケーション、現在改訂されている概念フレームワークと個別基準書間の整合性を高めることなどが重要と考えられています。これからIASB会議で取り上げられる内容も変わってくることになるでしょう。

後回しにされてきた「難題」に取り組む

これまでは収益認識といった大きなプロジェクトが優先されてきましたが、その陰で後回しにされてきたプロジェクトは、これから着手されることになります。特に以下のプロジェクトは、今回のアジェンダ・コンサルテーションでも重要性が再認識されたように思います。

・資本の特徴を有する金融商品
・動的リスク管理
・持分法

資本の特徴を有する金融商品では、負債と資本をいかに区分するかという問題に取り組むことになります。現在は、さまざまなタイプのデリバティブが組成されていますが、それが負債なのか資本なのか、現行規定ではうまく区分することができません。

動的リスク管理は、マクロヘッジの会計処理の規定を改訂することが目的です。現行規定のマクロヘッジでは、一般的なヘッジ会計の例外処理として扱われていますが、企業のリスク管理に合わせた処理が行えるように改訂する審議が継続しています。

持分法については、現在のIFRSの枠組みの中で、持分法の位置付けが不明である、という指摘があります。一行連結なのか、測定方法なのか。会計処理も今の方法には無理があるのではないか、と考えられています。現時点ではどれだけの範囲で改訂に着手するか決定していませんが、持分法の見直しは重要であると認識されていました。

今後5年のIASBの活動は、マクロヘッジなど長年解決できなかった「難題」に取り組みつつ、基準書全般に係る活動が増えていくことになるようです。かつてと比べるとIASBも大分変ってきたと感じました。


イージフ 野口

2016年6月6日月曜日

のれんが計上される前に減損する?新アプローチにIASBの支持

こんにちは。イージフの野口です。このブログでも度々、IFRS3号「企業結合」の改訂に関するIASBの審議をご紹介してきていますが、最近の会議では新しい減損のアプローチが目玉となっています。

現行基準ののれんの減損テストに対しては非常に批判が多く、減損損失については、
「認識のタイミングが遅すぎる」
「金額が少なすぎる」
と言われています。この問題は、そもそも最初に計上されたのれんの金額が多すぎたのではないか、という疑問につながっています。買収価格が高すぎたためにのれんの金額が大きくなってしまい、後になって、多額の減損損失を認識する羽目になっていると考えられています。

買収価格が高すぎる部分をのれんと切り離して、取得時の損失として別途認識するべきではないか、というアイディアのもと、新しい減損テストのアプローチが提案されています。IASBではこの新アプローチが支持され、さらに詳細な検討に入る段階です。

簡単に言うと、新アプローチでは企業取得時にのれんの減損テストを行います。しかし、これは通常の減損テストとは少し違います。この減損テストでは、取得企業の保有資産が重要になります。

どういうことかというと、そもそも、現行基準ののれんの減損テストでは、のれんを資金生成単位(またはそのグループ)に配分した上で減損テストを行います。のれんそのものの価値を測定できないので、この配分手続きは必要不可欠です。しかし、配分先の資金生成単位を構成する、取得企業の保有資産の帳簿価額が低く、回収可能価額を下回っていると、この差額が「バッファー」となり、のれんの減損を回避する効果が生じます。

そこで、企業取得時に、この「バッファー」部分を排除した形でのれんの減損テストを行い、減損損失を認識することで、のれんが過大計上されることを防ぎます。

この新アプローチによるのれんの減損テストは以下の4ステップになると考えられています。
  1. のれんの配分先となる取得企業の資金生成単位、もしくはそのグループを識別する
  2. バッファー」を算定する(取得による影響を除外した状態で、取得時点における資産の回収可能価額を算定し、帳簿価額を超える部分が「バッファー」となる)
  3. のれんと被取得企業の資産を関連する資金生成単位(またはそのグループ)に配分する
  4. 各資金生成単位の回収可能価額をAからCの合計と比較し、回収可能価額の方が低い場合、その差額を減損損失として認識する

A配分された被取得企業の資産およびのれんの金額
B取得企業が保有する資産の帳簿価額
Cステップ2で算定した「バッファー」

斬新なアイディアで、現行基準ののれんの減損テストと流れは同じように行える点が評価されています。ただし、「バッファー」を算定する作業が追加され、実務上実行可能なものなのか、まだ疑問もあります。このあたりの議論はこれからなので、実務的な問題が検討されていく中で、このアプローチはもっと洗練されていくことになると思います。


イージフ 野口

2016年5月9日月曜日

IFRSの包括利益がよく分からない方へ

こんにちは。イージフの野口です。実務で概念フレームワークを考えることは普段少ないかもしれませんが、各基準書だけでは判断できないことがあると概念フレームワークまで立ち返って考えるということがあると思います。その概念フレームワークは現在IASBで根本的に見直しており、その作業は大詰めになってきています。

概念フレームワークはすでに陳腐化しています。1989年に設定された後、2010年にFASBと共同で一部改訂されましたが、大部分は設定当初のままとなっています。現在のIFRSの個別基準はかつてとだいぶ考え方が変わってきており、現在のIFRSの考え方にあった概念フレームワークに改訂する目的で作業が進められてきています。

1989年から考えると、IFRSの会計の基本的考え方は大きく揺れ動いているかのようですが、今のIFRSの考え方を端的に言うと「P/Lもやっぱり大事」ということだと思います。

かつて、IFRSB/S重視で公正価値会計、純資産の増減が重要、というスタンスでしたが、今のIASB会議の発言を見ていると、それほどB/S重視を推し進めているようには見えません。むしろ、よりP/Lとのバランスを取る意見が多いですし、P/Lの純損益を重視する発言が大きく取り上げられているように感じられます。

今回の概念フレームワークの改訂において、純損益は、その期間の企業の財務業績に関する主たる情報源であると説明されることになりました。P/Lの純損益の情報としての有用性が重視されると、包括利益の意味があいまいになってきてしまいます。そこで問題になっているのが、その他の包括利益です。

20155月公表の公開草案では、以下のような形でその他の包括利益の位置づけが提案されました。

すべての収益、費用項目は純損益に含まれるという反証可能な推定を置き、一定の条件のもと、特別な場合にのみ、収益費用項目をその他の包括利益に含める、という形です。一定の条件とは、以下の2つが提案されていました。

・収益または費用項目が現在の価値により推定される資産または負債に関連するものである場合
・収益または費用項目を純損益に含めないことによって、その期間の純損益に関する情報の目的適合性が高められる場合

その他の包括利益に対するこのような位置づには、多くの反対意見が寄せられています。その他の包括利益が概念として明確になっておらず、その他の包括利益に含められる項目が増えすぎてしまうという懸念が多かったようです。

また、リサイクリング(その他の包括利益から純損益への再計上)についても、まだ合意形成が難しいようです。公開草案では、ある期間にその他の包括利益に含めた項目について、その後の将来の期間に純損益に含めることによって、将来の期間の純損益に関する情報の目的適合性が高められる場合にその項目を組み替える、という反証可能な仮定を置くことが提案されていました。

この公開草案の提案に対してほぼ半数が反対している上に、代替案も様々なものがあり、方向性が定まっていません。

IASB会議で示唆されていた解決策は、その他の包括利益を個別基準レベルと取り扱うというもので、概念フレームワークに盛り込まないことも考えられています。現実的な案かもしれません。

IFRSの包括利益やその他の包括利益がわからない、と思ってしまうことは、もっともなことです。日本基準や米国基準にあるような、純損益重視の考え方が自然でしっくりくる、という感覚は今のIFRSに通じていると思います。


イージフ 野口


2016年4月4日月曜日

M&A、のれん減損のタイミングをタイムリーに

こんにちは。イージフの野口です。企業買収、日本でも大型海外案件がここ数年でかなり増えたと思います。2015年の実績によると、日本企業による海外の企業の買収金額は、11兆円を超えたそうです。日本企業が海外企業に買われるというパターンも目立つようになりました。シャープの買収などは記憶に新しいと思います。

これだけ大型M&Aが新聞やテレビでも報道されるようになると、普段会計にあまり関わりのない方からも「のれんの減損って何?」というような質問を受けることも多くなりました。

のれんというのは会計上、企業の公正価値と買収価格の差であり、企業が持っている資産(有形のものも無形のものもあります)よりも高い価格で企業を買うということはそこには、資産としては認識できないけれど、高いお金を払ってでも手に入れたい「何か」があると考えられます。「超過収益力」という言い方をしますが、例えば他の企業が同じ資産を保有していても同じようには収益を上げられないわけで、そのような企業の力を「のれん」と表現します。

そののれんは企業を公正価値より高い金額で買った場合は、資産として計上されることになりますが、現行のIFRSでは、のれんはそのまま据え置かれることになります。これはのれんが時間が経過しても価値を失わないと考えているからです。

しかし、この考え方には異論があります。時間の経過とともに、実はのれんの価値は下がっているのではないか。2月のIASB会議でこんな発言がありました。
「マンチェスターユナイテッドを買った時のれんの償却期間はどう考えればいいのだろう?」
この例では、マンチェスターユナイテッドの人気が今後なくなっていくことは考えられないだろう、だからのれんの償却期間を考えるなんて無理だ、という意見が続いていました。

しかし、そういうファンや顧客からの特別な支持から生じる収益力も何らかの形で損なわれることがあります。最近のニュースでは楽天が2015年に海外事業におけるのれんの減損損失を計上し、売上高が過去最高だったにも関わらず、減益に転じました。減損対象となった企業は電子書籍のコボなどでした。楽天はIFRSを適用していますので、IFRSの減損の手続きに従って、減損損失を計上することになったと思いますが、現在のIASB会議ではこの減損損失を計上するタイミングが遅すぎるのではないか、ということが大きな問題になっています。

楽天の例でいうと、コボは買収当初の想定よりも収益性が低かったため、減損損失を計上しました。しかし、企業側から見れば、現状でも、安定した収益を上げていて価値は減っていない、と主張することもできます。客観的な基準に基づいて、適切なタイミングで減損を計上するということは難しいのです。

現在のIASBの議論でも、タイムリーに減損を認識することが難しいというところで、その解決策を模索している状態のようです。そもそも減損を適時に認識することは実務上不可能ではないか、という懸念から、のれんの償却を行う会計処理も再浮上しています。IASB会議では、のれんを償却しないで、減損の手続きを適用する、償却する、という方法が検討されています。幅広く、検討したいというのが今のスタンスのようです。

さらに、今後はFASBと合同で審議を行い、米国基準と同じ改訂内容を目指します。今の議論がどのように動いていくが注目したいところです。


イージフ 野口

2016年3月7日月曜日

保険契約、ついに審議が完了しましたが

 こんにちは。イージフの野口です。
収益認識やリースといったIASBの大きなプロジェクトがひと段落し、保険契約は現在進行している中では最も長期の大きなプロジェクトです。その保健契約も20161月の審議で技術的な論点の審議がすべて終わりました。最後の審議では、予定の時間をオーバーして議論が続いたり、スタッフが翌日に追加のペーパーを提示したり、慌ただしい印象でした。

そして、最後に残されていた論点の保険契約のグルーピングは、今後も議論になりそうな部分を残した感があります。

保険契約のグルーピングは実務上大きな問題です。すでにIASBでは新基準では保健契約を個別に会計処理することを原則としながらも、グルーピングして集約した上で会計処理を適用することを認めていました。しかし、そのグルーピングの方法や考え方が明確になっていないことが問題となっていました。

1月の審議では、契約をグルーピングの要件が議論されました。

契約上のサービス・マージンを配分するときのグルーピングの要件については言葉の表現について最後まで議論になりました。審議の様子を見る限り、今後の基準書作成段階で”sweeping issue”として再度取り上げられるかもしれません。

そもそも、契約上のサービス・マージンを配分する目的は、個別の契約の損益を、保険契約期間に渡り、契約上のサービスの移転に応じて認識するために適切な方法で、契約上のサービス・マージンを認識する、ということです。

その目的を達成できる範囲において、グルーピングを認めるというのが新基準のグルーピングの考え方です。この考え方自体はメンバーの賛成を得られているのですが、「個別」の契約の損益を適切に認識する、という表現をここで使ってしまうと誤解が生じるのではないかと懸念が根強く、どう表現するか最後まで意見はまとまりませんでした。

本来の会計処理の目的に反しない範囲で、グルーピングを行う、という規定の趣旨自体はそれほど難しいものではありません。新しい保険契約会計を理解するには、最終基準書でどのような文言になるかという問題よりも、今回の会議で決定したその他の要件をおさえておく必要があると思います。契約上のサービス・マージンを配分するときの要件は他に以下のものが規定されます。 
  • キャッシュ・フローが主要なリスク・ドライバーに対して金額、時期が同様に反応する
  • 期待収益性が類似している
  • 予想デュレーション、期末日以降に残存する契約量を反映した方法で契約上のサービス・マージンの各期への配分を調整する

新保険契約基準は実質的に初めての世界で適用される保健契約会計となります。今回の審議で実質的な審議は終わり、その後基準書が作成され、2016年末までに最終基準書が公表される予定となっています。そして、適用のための準備期間が3年程度必要と考えられているので、強制適用は2020年か2021年になると予想されます。


イージフ 野口由美子


2016年2月1日月曜日

新収益認識基準、コンバージェンスとは何だったのか

こんにちは。イージフの野口です。新収益認識基準であるIFRS15号「顧客との契約から生じる収益」は、基準書が発効する前に改訂されるという異例の対応が行われています。改訂といっても基準の内容を明確化するものでもともとの内容を大幅に変更するものではありませんが、今までこのような改訂が行われることはありませんでした。

2015年中に明確化についての最終基準書が公表される予定でした。公表を待っていた方もいらっしゃったのではないでしょうか。しかし、まだ基準書は公表されておらず2016年第1四半期に公表予定と、スケジュールが遅れています。

とはいえ、もう公表までIASBの審議も最終段階に来ています。最終段階となると、後回しにされていた細かい論点や適用時期、移行措置などの議論が中心ですが、審議を見ていると理事の「想い」が語られている時間が長いのです。通常はあまり見られない光景です。

コンバージェンスをより追求すべきだったとする意見、米国基準と違いがあるのは仕方がないと受け入れる意見、両者のゴールが違うのだから違いが生じて当然とする意見など、様々な意見が交錯していました。

そもそも、今回の改訂は移行リソース・グループからの指摘を受けた問題に対処するために進められてきましたが、FASBIASBとの間で対応の違いが目立ちました。FASBは改訂によって基準がより良くなることは望ましいとして積極的な姿勢でした。一方、IASBは頻繁な改訂は基準書の安定した運用を阻害するとして改訂には消極的でした。FASBが改訂する決定を行っていく一方で、IASBは変更を行わないとする判断をする場面がたくさんありました。

このような決定の根底には、文言が違っても実質的に同じ内容を規定しているのであって、実質的なコンバージェンスは達成できているという見方があります。基準書が一言一句同じでなくても、同じ規定を定めようとしているのが現在の方針となっています。


IFRSと米国基準がコンバージェンス達成へ向かっている流れ、かつては感じられましたが、今はそうでもなくなってしまったという印象を持たれている方は多いと思います。しかし、それでもコンバージェンスが重要でなくなってしまったわけではありません。これから審議が本格化する企業結合はFASBと共同で改訂を進める予定となっています。

IFRSの基準設定について、かつてはヨーロッパから圧力を受ける場面が見られましたが、今は米国との関係が大いに影響しています。それだけでなく、中国などの新興国もより重要な存在になってくると思います。IFRSがどのように作られていくか、今年も注目していきたいと思います。


イージフ 野口

2016年1月18日月曜日

企業結合、顧客を獲得すると費用負担増、で正しいのか

こんにちは。イージフの野口です。
最近のIASB会議の大きなトピックは企業結合で、当ブログでも取り上げることが多くなりました。しかし、具体的な決定事項がどんどん決まって、「新しい基準はこうなる」というお話ができるような段階ではなく、まだ現在はいろいろな切り口で問題を考えてみるという、今後の方向性を探る議論が続いています。IASBでの審議を見ていると、そういう議論の初期段階だからこそ、興味深い話題が出てきます。今回はそういった議論を紹介したいと思います。

IFRS3号「企業結合」についてはのれんが大きな問題として取り上げられています。現行基準ではのれんと識別可能な無形資産は別々に認識し、のれんは償却せず減損手続きが適用されるのみ、無形資産は償却処理を行います。のれんと無形資産を別々に認識すべきなのか、のれんは償却しなくていいのか、減損の検討手続きはこのままでいいのか、問題は多岐にわたっている上に相互の関係しています。現在行われている企業結合時の無形資産の評価は、複雑でコストがかかると批判されていますが、その割には評価が結局主観的ではないか、とさらに批判されています。のれんと無形資産を厳密に区分するのはそもそも不可能なのではないか。

では無形資産の一部をのれんに含めてしまえばいいのでは、というのが現在のFASBのスタンスです。IASBもFASBの方向性を無視することはできず、のれんの範囲を広げることを今後検討することにしています。

そもそも無形資産として個別に資産を認識して償却することは正しいのか。企業結合で取得したブランドや顧客リストは無形資産として認識され、その後償却されることになります。投資家から見ると、この償却費が問題と指摘されています。ブランドや顧客リストは取得後も創設や維持のため、企業は通常広告費などの費用を支出しているので、償却費はダブルカウントであり、費用が過大になっているのではないかという懸念があるのです。

このような問題がIASBで取り上げられているということ自体に興味深く感じました。なぜなら、IFRSにおいて、顧客やブランドは、そのままでは時の経過とともに価値が減っていく(B/S上の金額が小さくなっていく)という前提があったと思いますが、その前提に疑問が生じるというのは根本的にIFRSの考え方が変わったことを意味しているからです。

昔はB/S上いくらになるかということが問題の中心であり、B/Sに含めるべきでないものはP/Lにいく(しかない)という、B/S重視の考え方でした。今はP/Lに含めるべきものが何であるか問題となっています。P/Lを重視する考え方が強まっているために、かつてはあまり問題として考えられていなかったことが今は大きな問題となっています。

B/SもP/Lも重要なのは確かですが、どちらをより重視するかということについては、長い時間をかけて振り子のように揺れながら、考え方が移り変わっています。今は再びP/Lを重視する方に傾いています。そのような大きな会計の流れの中で、考えてみると気づくことも多いです。


イージフ 野口由美子